【設定資料集】

【単語は基本的に本編登場順とする】


●疑似生体型暖房器具「湯婆たんぽ


生物の温かさを追求して作られた暖房器具。江戸時代後半に最初期のネコ型のものが発明され、幕末期には人型のものが既に発明されていた。

陰陽学の技術革新により量産が可能となった土御門型式神函と、国外からもたらされた鋳造技術で作成が可能となった人工ヒヒイロカネの光学脳により、所有者を認識し、簡単な受け答えができる程度の知性と記憶能力を持つ。また、当時は人力筋と呼ばれていたシリコンマッスルを多用し、動力に当時の最先端技術であったネブリウム呪合金の発電器官を用いていたことも革新的であった。

明治時代になると、式神函内部に搭載する式札の多様化・高性能化により、言語能力が伸び流暢な受け答えが可能となり、富裕層を中心に普及が進み、従者として従えさせるのがステータスとなっていった。

しかし時代が移るにつれて、ネブリウムの価格高騰や戦時中の徴収によす喪失、陰陽学の衰退等の様々な要因により生産数が減少していき、戦後、魔術工学の成立によるボットとオートメイドの登場によって命運を断たれた。

現在で新規製造する工房は、ツチミカド・テック社とその子会社のわずか数件となっている。


使用方法は下記の通り。

1:動力源兼熱源となる加熱した炭をネブリウム炉に入れる

2:給水孔(口の部分と腹部開閉部の2箇所にあることが多い)から水分を補給する。この時、人肌程度にさましたお湯を補給すると起動が早まるが、風呂の残り湯などの補給は推奨されない。

3:温度が規定値となりネブリウム炉が始動すると、電気供給が開始され、式神函による制御が始まる。

4:式神回路によって電気制御によるシリコンマッスル操作が始まり、起動が完了する。

5:ぴったりくっついて暖をとってもらう、布団に一緒に入ってもらう等、使い方は人それぞれ。

6:温度調節は、たんぽ本体の判断による排水と給水によって行われる。また、炭の補給も同じくたんぽ本体が自身の判断で炉を開いて補給する。灰になった炭は水分を含ませて泥~半固形状態で排出するか、炉を開いて直接取り出す。

7:起動終了する際は、先に排水口(だいたい股間部にある)から内部のお湯を排水し、炭を取り出す。ネブリウム炉の温度が下がると電気供給が止まり、起動が停止する。


土御門型式神函つちみかどがたしきがみばこ

陰陽師の用いる式神を一般普及用にしたもの。一辺3寸(約10センチ)ほどの立方体の箱に、中枢機関の式札が収まっている。かつては霊力によってしか干渉できなかった式神を式札の金属化により電力で代替し、高性能な式神による式札の量産により技術革新が発生した。

箱の内部では式札は姿を変え「人の頭脳」と「人の心」を再現している。これ自体ではただの箱であるが、人型の筐体に接続し電力を供給することで、筐体を人のように動かすことが可能となる。


式札しきふだ

本来の意味は陰陽師の扱う呪符である。しかし、金属製の呪符が搭乗し式神函に搭載されるようになってからは、式神函内部に搭載される中枢機関を指すようになった。主に加工のしやすい金属(鉄、銅、銀など)製で、表面に特殊な加工を施し術式を書き込むことによって完成する。書き込む術式の内容や金属の材質によって、性能は千差万別となる。通電して稼働し始めると、前述の通り式札は式神函の中で「人の頭脳」「人の心」を再現する。

一般普及していた「たんぽ」の式神函であれば、銀製が1~2枚、銅製が10枚ほど入っている。知識があれば個人での改造も可能で、式札の入れ替えや追加なども行われていた。


人工じんこうヒヒイロカネ光学脳こうがくのう

人工ヒヒイロカネはケイ素化合物であり、金属としての性質を持つ薄い金色を帯びた透明の物質である。格子状になったケイ素原子の隙間に微量のネブリウムが入っている構造となっている。

陰陽学により式神の記録装置として優れていることが分かっていたが、製造には超高温で材料を溶かす必要があるため量産が不可能であった。しかし幕末に反射炉の技術が流入したことにより、量産が可能となった。

人工ヒヒイロカネと名前が付けられているが、天然のヒヒイロカネは金属であり、集積回路としての性質を持つ。


・ネブリウム呪合金じゅごうきん/ネブリウム

鉄を主成分として、少量のネブリウムと、ごく微量の天然の集積回路である天然ヒヒイロカネを加えた合金が「ネブリウム呪合金」である。天然ヒヒイロカネを核とした細胞状の構造を持つ。陰陽学の知識がなければこの合金は製造されなかったとされており、「呪合金」と名付けられている。

熱エネルギーを高効率で電気エネルギーに変える性質を持ち、「ネブリウム炉」として技術が確立。幕末~明治期の近代文明化に大きな寄与をした。しかし現在ではネブリウムの枯渇による価格高騰により、新規の使用例はごく限られている。


・ネブリウム

別名を「星雲素せいうんそ」という。元素番号不確定。安定状態にあるエチゾチック元素であるとされているが、いまだに研究が進んでいない。金属としての性質を多く持つにも関わらず単体の結晶では透明になるなど、不可解な性質を持つ。化合物・合金とすることで、電気エネルギーに対して何らかの性質を持つ物質に変化させることが報告されており、人工ヒヒイロカネやネブリウム呪合金にも含まれている。

かつては「リビアングラス」などと呼ばれていたが、後に隕石によってもたらされた地球外由来のものだと判明し、ネブリウムと呼ばれるようになった。よって地球では本来産出しない物質であり、現在では資源枯渇の状況にある。


天然てんねんヒヒイロカネ

一般に普及した人工ヒヒイロカネと区別するために、「天然」と付けられることが多い。ニッケルの同位体であるが、赤みのある金色の金属光沢をもつ。それ自体が集積回路としての性質を持ち、式神を機械化する陰陽学に大きな影響を与えた。

同様、あるいは似た性質を持つ金属の同位体は世界各地で発見されており、銅の同位体であるオリハルコン、銀の同位体であるミスリル等が挙げられる。


・シリコンマッスル

電気を流すことによって微量の発熱とともに凝縮する性質を持つ、乳白色でゴム状のケイ素化合物。江戸時代後期に蘭学者により偶然作成され、「人力筋じんりききん」という名称で実用化されていた。電気的性質を持たないものは「シリコンスキン」と呼ばれ区別されている。


幕末五式ばくまつごしき

算術や戦闘といった、本来の目的とは特にかけ離れた分野において使われた「湯婆」の中でも、特に優れた能力を持つ湯婆が幕末から明治にかけて作成された。その中でも有名なもの5つを「幕末五式」という。内訳は「金烏玉兎集」「占事略決」「ウエツフミ」「ミカサフミ」「ホツマツタエ(保津万つたえ)」。

詳細は下記の通り。

金烏玉兎集きんうぎょくとしゅう:高度な計算能力を有した湯婆。土御門家によるハンドメイドであり、世界で最初に作成された式神函を搭載している。拡張と改修を続けながらも現役で稼働しており、土御門家およびツチミカド・テック社の実質的な領主とされる。

占事略决せんじりゃっけつ:上記と同様、土御門家ハンドメイドの湯婆。吉兆の占いから派生し、天気予報のための高度な観測機能と計算能力を持ち、東京気象台(後の気象庁)に納入される。可動終了後は国立科学博物館に収容され、日本近代産業文化財第1号として登録された。

ウエツフミ:砲術計算に特化した能力を有した湯婆。芦屋躯体造業製作所の前身である芦屋陰陽塾によるワンオフ品。軍の砲撃部隊を指揮するために函館戦争にて初陣。日清戦争では大陸へ投入され、多大な戦果を挙げた。その後、太平洋戦争にも投入され、巨大戦艦に搭載されたが、戦闘による沈没により喪失。

ミカサフミ:白兵戦闘能力に特化した湯婆。鞍馬法眼寮くらまほうがんりょうによる戦闘湯婆のプロトタイプにあたる。鳥羽伏見の戦いにおいて莫大な戦果を挙げ、戦況を一気に新政府側に傾けたとされる。以降、西南戦争において士族側につくものの、田原坂の戦いにおいて破壊され、現在は式神函の一部のみ現存する。

ホツマツタエ(保津万つたえ):人間性の獲得に特化した湯婆。個人陰陽師によるハンドメイド。拡張により「自己進化」と「老い」を獲得した。その在り方は人間と変わらないとしたうえで、人権の獲得に奔走し、その後の人造思考体の権利に大きな影響を与えた。稼働100年で、自身が定めた寿命により稼働停止。現在は都内の某寺に埋葬されている。人造のものとして初めて人間と結婚し、ギネス世界記録にも記載された。


・ツチミカド・テック(株)

旧社名「土御門陰陽院」。陰陽学のトップランナーであった土御門家により立ち上げられ、土御門型式神函と、それを使ったロボット製品の生産により一大企業に成長した。その後、ロボット製品を軍需品として納品することとなりさらに事業を拡大させ財閥となったが、戦後は財閥を解体させられ、さらに式神函事業の採算悪化に陥る。しかしロボット製品や人型筐体の製造技術を生かして、現在はオートメイドの人型筐体製造において国内シェア第一位を誇る大企業に返り咲いた。

現在、式神函の製造を行っているのは同社と、その子会社である土御門技術研究所のみ。製造している理由は「後世に技術を残すため」であり、さらに突き詰めれば「土御門家およびツチミカド・テックの実質の代表である『金烏玉兎集』を存続させるため」である。


・県立近代産業博物館

某県の工業都市にある博物館。近代~現代にかけて工業都市として発展したものの、新産業への転換に遅れ衰退しつつある都市を活気づけるため、10年前に県に働きかけて開館した。

閉山した炭鉱の跡地を活用しており、当時の炭鉱の一部に入れるほか、製鉄用の電気釜や最初期の国産自動車、初期のロボット製造業にまつわる品などを展示している。

目玉となる展示物が慢性的に不足していた事もあって、入場者数は年々減りつつあるが、2年前に行った企画展「従者ロボットの歴史 ~オートメイド今昔~」が盛況を博した。これを規模を縮小して常設展示しようという計画があり、文化財でもある「キイト」の展示はその計画第一弾となる。


・ボット/オートメイド

魔術工学に取り込まれたオカルト工学に共通していた「人造生命を作り出す」事を突き詰めた結果、コンピュータプログラムによって稼働する人造思考体「ボット」が生まれた。当初は簡単な受け答えと単純なデータ編集のみが可能で、大きさも電子レンジ並みであったが、使用素材の技術革新により性能が大幅にアップし、現在では初期の式神函程度の性能であればフラッシュメモリ大の大きさに収まる。

そしてこの「ボット」を労働に適した人型筐体に収め、稼働させたのが「オートメイド」である。希少となったネブリウム炉の代わりにバッテリーを搭載し、より性能が向上したシリコンマッスルにより駆動する。可能な仕事も多岐に渡り、21世紀の労働力として活躍が始まっている。

また、人権活動家としても活動した、幕末五式の一つ「保津万つたえ」の活動の結果、人造思考体の権利については多くの議論と法改正が行われている。現在では「既定の性能以上の人造思考体は個人として尊重される」「法律に定めた条件を満たした場合、人造思考体は職業選択の自由を得る」等が法律で定められている。

なお、オートメイドは激しい駆動をするとバッテリーをはじめとした内部機器が過熱し、オーバーヒートを起こしてボット本体が破損する危険性があるため、安定した水冷式を採用しているのが大多数となっている。しかし冷却が追い付かない場合、冷却液を強制排水して空冷式に切り替えるシステム(俗称「おもらシステム」)が導入されている。オートメイドの間では、オーバーヒートを起こすのは熱管理がなっておらず「恥ずかしいこと」と認識されており、強制排水の際には羞恥を覚える。


・節電符

魔術工学によって作成された、外部から作用して電気エネルギーを減少させる効果を持つ術式を施した呪符。北欧のルーン魔術と陰陽学をベースにして作成されている。漏電への応急措置として量産が開始されたが、ボットやオートメイドの普及に伴い、それらが意図しない挙動をした際のストッパーとしての役割も持たされた。現在では火災報知機と同じく、家庭への常備が義務付けられている。価格は10枚1束で2000円ほど。


・日本近代産業文化財

1996年の文化財保護法改正によって定められた、新登録制度に基づく文化財。江戸時代から昭和時代にかけて、文化や技術に大きな影響を与えた、または文化的・技術的に貴重である産業製品が登録される。第一号「占事略決」をはじめ様々な産業製品が登録され、他には「零式艦上戦闘機(国立科学博物館所蔵)」「トヨダAA型乗用車(ナゴヤ自動車博物館所蔵)」「土御門・乙02式湯婆(国立歴史民俗博物館所蔵)」「護衛艦わかば(江田島海軍博物館所蔵)」などがある。変わったところでは、「戦艦大和(戦没した船影が確認できた際、特例で登録)」「箱根登山鉄道線路(現在も使用されている物の登録では初)」などが存在する。

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日本近代産業文化財第18-00256号 疑似生体型暖房器具「湯婆」 いだいなほ @174yda010

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