日本近代産業文化財第18-00256号 疑似生体型暖房器具「湯婆」

いだいなほ

日本近代産業文化財第18-00256号 疑似生体型暖房器具「湯婆」

「日本のロボット産業は、陰陽学の研究が結実した『式神函』の登場から始まったといってもいいけれど、実際はそれを作り出した土御門家が――」

「はいはい、安倍晴明が使役した式神こそが最初のロボットである――ですよね?」

「もー。先に言わないでってば」


 私が不満を言うと、カスミは呆れた顔をしながら「だっていつも言ってるじゃないですか」とぼやく。

 そんなことより早くお湯を持ってきて、と私はやかんをカスミに押し付けると、「わかりましたー」とカスミは渋々給湯室へと向かった。

 


 二番研究室は私のテリトリーだ。

 この県立日本近代産業博物館では近代産業文化財の修復を行っており、文化機械関係の修繕は私の担当だ。室内には、修復を待つ文化財候補たちがひしめきあっている。


 土御門陰陽院――現在のツチミカド・テック社は、現在でいうコンピュータにあたる「式神函しきがみばこ」を発明し、イギリスやフランスに次いでロボット産業を開花させた。また、幕末に流入した近代産業技術により、メモリーに当たる人工ヒヒイロカネの光学脳や、ネブリウム炉の主要材料であるネブリウム呪合金じゅごうきんの国内量産化が可能となり、これらは明治初期の文明開化に大いに貢献した。

 しかし時代が移り戦争の時代を迎えると、軍事転用による徴収と損失、ネブリウムの価格高騰、科学発達による陰陽学の凋落といった要因で姿を消していった。そして、戦後に訪れた集積回路の発明によるコンピュータの登場によって、式神函はその役目を終えた。現在、式神函は一部のユーザー向けに、ツチミカド・テック社とその子会社が受注生産・修理受付をしているのにとどまっている。


 そんな式神函を使った最初期のロボット製品が、今回私が修復した「疑似生体型暖房器具」、通称「湯婆たんぽ」である。

 欧米に先んじて導入されたシリコンマッスルは式神函との相性が良く、人間の動きと自然な会話を持つロボットを完成させた。そして一般普及するにあたり付与された機能が、暖房器具――湯たんぽとしての機能であった。

 もちろん暖房器具というのは建前に過ぎない。実際は執事・侍女の代役として、富裕層向けに製造されていたのである。

 そして、その需要のほとんどを占める女性型に関しては――まあ、言いづらいことだが、いわゆる「夜のお相手」としての役割も持っていた。新技術を真っ先にエッチなことと結びつけるとは、日本人は今も昔も変わっていない。


 改めて、今回修復を行った「彼女」を見る。

 明治20年代後半の、今はなき芦屋躯体造業製作所あしやくたいぞうぎょうせいさくじょで作られたオーダーメイドモデルである。フランス人形を参考にしたかわいらしくも大人びて見える顔の造形に、皮膚は透明度のあるシリコンスキンが使用され、今は閉じているが目にはラピスラズリと黒曜石を加工したものが使用されている。それに加え、絹糸をそのまま使った髪の毛によって、人間離れした美しさが表現されている。全長は約130㎝。今で言えば小学4年生に相当する大きさで、多く普及していた他のたんぽと比べるとかなり小型だ。ジュニアブラが必要になるぐらいの胸や腰回りの曲線などは、二次性徴が始まった頃の女児の特徴をよくとらえている。シリコンマッスルは劣化があったので、当時と同規格のものと交換している。

 ちなみにであるが、「夜のお相手」に必要な部分――股間部の劣化は他の部分よりも進んでいた。要するに、これで「お相手」していたということになる。ロリコンはいつの時代だっているものなのだ。まあ、私も正直、興味がないわけでもないが――。

 頭部に搭載された式神函や光学脳、胸部に搭載されたネブリウム炉に目立った損傷は見られなかった。よって、劣化が見られた配線を交換し、ネブリウム炉の錆取りなどの清掃を行っている。

 しかし驚いたのは式神函だ。外装こそ芦屋製だが、内部は相当な改造が施されている。現代の価値で百万以上の値段はするであろう総天然ヒヒイロカネ製の式札は初めて見た。それだけでなく、製造当時は日本に無かったはずのミスリル製の式札まで入っているなど、分からない改造が何か所も確認されていた。光学脳も外国製のものが増設されており、当初どのような影響を与えているか不明であった。

 発見された家が生糸による海外貿易によって栄えた邸宅で、一緒に海外の骨とう品も見つかったこと、そして後の特定作業から、「彼女」に外交の際の通訳の役割を持たせていたのではないだろうかと推測している。

 何にせよ、式神函を起動してみなければ「彼女」の詳細は分からない。今「彼女」は絹の襦袢を着せられ、吸い込まれそうな寝顔で起動の時を待っている。


「先輩、お湯の準備できましたよ」


 考えを巡らせていると、カスミがやかんいっぱいにお湯を入れて、研究室まで戻ってきた。

 カスミは今年配属されたばかりの学芸員だが、大学で陰陽学を専攻していたため、式神函の清掃や式札の用途の特定などに貢献してくれた。特に天然ヒヒイロカネとミスリルの式札が、言語と所作を司る式札だと特定してくれたのは非常に助かった。

 ――だが、彼女の式神函に対する変態的な愛情にはちょっと辟易している。例の式札をはじめて見たときに、興奮のあまり失禁したのは絶対忘れないからねマジで。


「じゃあ、丹田たんでんを開くから入れちゃって。炭の準備もできてるから」


 私はそうカスミに言うと「彼女」に居直り、すべすべとした絹の襦袢を開く。透き通った乳白色のシリコンスキンは、当時は人力肌と呼ばれて手袋の素材としても使われたものだ。大人への成長を再現した胸のふくらみと腰つきは、思わずため息が出そうになるほどに完成された造形美だ。みぞおちに当たる部分には、丹田と呼ばれる開口部があり、全身を循環するお湯とネブリウム炉の熱源となる炭を補給する。

 ネブリウム炉によって熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、その電気によって式神函を動かし、全身のシリコンマッスルを制御する――それが大まかな「たんぽ」の構造だ。


「お湯、入れ終わりました! 炭はどうします?」

「炭は私がやる。主任だもの」


 七輪で赤くなった備長炭をトングでつかみ、丹田へと運ぶ。これを入れたら「彼女」が目覚めると考えると思わず手が震えてしまうが、なんとか落とさず、シリコンスキンも焦がさずに入れることができた。

 そしてひとつ深呼吸をして――丹田を閉める。


「いよいよですね、先輩」

「ええ……」


 襦袢の前を閉めて、「彼女」の前に居直る。

 これからどんな声を聞かせてくれるのだろう。どんな知識を聞かせてくれるのだろう。そう考えていると、私の手は自然に「彼女」の頬をなでていた。

 炉が稼働したことで電気が供給され、表情筋にあたるシリコンマッスルがほんのりと熱を帯びてくる。人造物なのに、こんなにも「命」を感じ、こんなにも美しいだなんて……。


「先輩! 腕が!」


 カスミの声に気付く間もなく、私の空いていた手に感触が宿る。そして間もなくそれは、腕を強く圧迫する痛みに変わった。

 目を痛みの先に向けると、私の腕を華奢な手が爪を立てて掴んでいる。その手は何物でもない、目覚めた「彼女」のものであった。

 視界の隅、閉じられた脚絆の下で整えられた足が動き、力強く床を踏みしめ、そして伸びる。反動によって飛び上がった「彼女」はすぐさま足を私のみぞおちに向け、再び伸ばす!


「うあッ!?」


 腕を支点にした強烈なドロップキック! 何もできずモロに食らった私は後ろに倒れていく。呼吸すらもできない。何も抵抗できないまま後頭部が床に打ち付けられる。意識が飛ぶ――。


 おなかの上に重さを感じ、私は意識を取り戻す。たぶん意識が飛んだのは一瞬だ。カスミの悲鳴が遠くに聞こえる……。

 そして、息が苦しい。口を開くと、一気に肺の中まで空気が入り、呼吸音が頭の中に響く。自分でも引くぐらいに大きな呼吸音だ。

 そのとき、高いところから声が投げかけられた。


「同意なく辱めを受けたならば全力で抵抗せよと、主人から仕っておる」


 ひどく古風な固い口調で、しかしながら鈴のように澄んだ声。カスミの声でも、ましてや私自身の声でもない。であるとすると――。


「問う、わらわを斯様に辱めたのは主か」


 もう一度声がしたかと思うと、白い影が私の目の前に迫り、同時に二の腕に重みを感じた。

 間違いない。白い影に輝くのは黒曜石とラピスラズリの両目。透き通ったシリコンスキンで造形された肌と唇――。声の主は、彼女だ。

 同時に今の状況も理解できた。今私は彼女に馬乗りにされている上に、両腕を抑えられて身動きが取れない状態にあるのだ。

 だけどちょっと待って。彼女の顔……かなり近くない?


「言葉が解せぬか? 英吉利いぎりす語が良いか? それとも仏蘭西ふらんす語か?」


 この状況を見るに、どうやら私は尋問されているようだった。する側だったはずなのに、ものの一瞬でこんなにされてしまうとは。

 未だ息が整わない中、なんとか声を絞り出す。


「識別を、問う。汝は、如何なる、式、なるや」


 式神函の識別を問う、基本のプロトコルだ。式神函はこれを聞かれた場合、必ず答えなくてはならない。所有者認証を兼ねる、式神函の根幹にあるプログラムと言ってよい。


「……当式は芦屋躯体製第八百二十四式。所有は味原和一。号はキイトと申す」


 だ。式神函製造各社は、暗黙の了解で式神函の通し番号の下一桁が「4」となる番号を欠番にしていた。何故かといえば、その欠番にしていた番号の式神函は裏に流通させるために、「流通しているはずがない」としたほうが都合がよかったためだ。

 そしてこの流れるような身のこなしと体術。間違いなく彼女――「キイト」は、四番台のたんぽとして秘密裏に流通されたものに違いない。


「用は済んだか。このまま首を掻っ切るがよろしいかの」


 かわいい声してものすごい物騒なこと言ってるよこの式。

 とにかく私はこのままだと首を切られてしまうらしい。そしたら死んじゃう。それはいけない。

 こんなときに頼りになるのは……頼れる後輩!


「カスミっ、『節電符せつでんふ』!」


 ありったけの声で叫ぶ! 声に驚いたのか、「キイト」は二の腕から手を放して身体を起こす。

 しかし次の瞬間には顔をこちらに向けて、拳をふりかぶっていた。彼女に使われているシリコンマッスルは規定内の出力しか出ないものの、遠心力を使って殴られれば、脳震盪を起こすぐらいはたやすい。

 だがその前に……紙の束が「キイト」の体に当たる。


「ま、間に合いました……」


 カスミの憔悴した声が聞こえる。そしてあっけにとられたキイトの体に、束からほどけた紙がぺたぺたと張り付いていく。


「な……なにをしたのじゃ、これは……」


 節電符。文字通り消費する電気量を制限する工学呪符だ。

 今やどの家庭にも数枚は導入されている節電符だが、本来の使い方はコレなのだ。


「やめよ、ちからが入らぬ、いやじゃ……」


 コンピュータの登場によって式神函は役目を終えたと述べたが、それには実はもう一つの要因がある。

 戦後、各国の技術力が判明するとともに、オカルトと考えられていた技術の統合運動がおこった。勿論、その中には陰陽学も含まれていた。

 そうして生まれた「魔術工学」は様々な魔術要素を取り込みながら技術体系化していき、科学技術の最先端であったコンピュータと出会うことで、魔術の産業革命が起こったのだ。

 今や、かつて魔法とされていた現象はそのほとんどがコンピュータによるプログラミングで再現可能であるし、マジックアイテムの量産も機械で行われるようになった。式神函は、より小型化した「ボット」にとってかわられ、「たんぽ」も、電子世界と現実世界両方をサポートできる「オートメイド」がその後任となっている。

 カスミがバラ撒いた節電符だって、今や家電量販店で普通に売っているものだ。

 実を言えば、彼女の基礎情報も解析ボットを通じて把握済みだったのだ。しかし、肝心の記憶情報の出力が解析ボットの言語に対応していなかったため、修復と起動の申請をし、現在に至るのである。

 その結果、こうして美少女たんぽに馬乗りにされ、危うく命を奪われそうになるとは思っていなかったけれど。


「先輩! 大丈夫でしたか!?」

「もう大丈夫。それより彼女よ! はじめまして、キイト」


 カスミが心配しているが、この通り私は、永い眠りから覚めたキイトへの興味で頭がいっぱいである。


「私の名前は橘。60年近く眠っていたあなたを修復して、再び目覚めさせたのは私。貴方の主人は、50年前に病気で往生しています」

「な、なんじゃ。次から次に何を言いよる……」


 キイトが振り上げた腕は節電符により出力を制限され、今は力なく下げられている。

 顔には困惑の表情が読み取れ、とても先ほどまで私を一方的に攻めていたとは思えない。


「四番台ということはやっぱり諜報目的? それとも要人暗殺? 異言語能力があるってことはやっぱり諜報よね? それともまさか……そういう人たちの夜のお相手? ひゃああ! もしかしてそのしゃべり方も、廓言葉からの派生だったりする? 妾っていう一人称は明治中期以降のたんぽで多用されていたのよね。へりくだって使う一人称だから、従者のポジションには最適だったのよね! ねえもっと妾って言って、わらわ! この一人称大好きなの!」

「先輩、ヨダレ出てます。それにいつまで馬乗りにされてるんですか」


 オタク特有の早口でまくし立ててしまい、挙句カスミにもドン引きされてしまっていた。

 ひとつ咳払いをして空気を改めようとすると、私の上に乗るキイトに動きがあった。両手を自身の股間に移動させ、泣きそうな顔で、もじもじ。

 これは……!


「左様じゃ! ま……まま……まずは妾を下ろせ、さもなくば」

「さもなくば?」

「で……のじゃ」


 と、言い終わる前から、彼女の乗る私のお腹に温かくて湿った感覚がした。やがて「シュイイ」と音を立てて、それはあふれ出してくる。その出どころは、ふたつの小さな手のひらに隠された……秘部から。


「先輩! その子、おもらししてます!」

「あ……ふぁあ……」


 たんぽがお湯をためる部分は、重心の関係や、足のポンプ効果でお湯を循環させるという機能上、腰のやや上の部分に設置されている。初期型こそ手動でお湯を入れ替える必要があったが、たんぽの意思でお湯の温かさを判断し、自ら給湯と排出ができるようになった。結果、給湯に関しては丹田または口から、排出については――人間と同じく、股間からされるようになった。

 排出部分は人間と同じく括約筋に当たるシリコンマッスルによって制御されている。その制御が外れれば、もちろん――。


「も、漏らしてしもうたぁ」


 そう、おもらししてしまうのである。


「は……はひっ、たんぽちゃんのおもらしっ、最高ぉ」

「先輩、ちょっと先輩!?」


 びしゃびしゃのほかほかになったおなかの上で、粗相してしまった張本人は今にも泣きそうな羞恥の表情……。

 本来、人工物には必要ない排泄というプロセスをさせるという「無駄の機能美」、感情など必要ないはずなのに羞恥の表情をあえて作り出す「人間性の追求」……!


「なにをにやけておる……人間は分からん……」


 たんぽのおもらし。

 これは芸術だ、残すべき文化だ。



*** *** ***



 一か月後。


「着慣れぬ着物じゃと落ち着かぬのう……」

「そんなこと言わないで。博物館の方針なんだから」

「今様の給仕服じゃろ? こんなもん着たことないんじゃが。股が冷えて落ち着かぬ……」

「でも似合ってるよ、和風メイド服」


 仕事場である県立近代産業博物館のバックヤードで、私はキイトにメイド服を着せていた。

 何でこうなったかと言えば、平たく言えば「猫の手も借りたいから」である。

 後ろのひらひらリボンを整えて前を向かせて、右胸には「きいと」と大きく書かれた名札を付ける。

 もちろん、名札には名前のほかに小さく「日本近代産業文化財 第18-00256号 疑似生体型暖房器具『湯婆』」と書かれている。


 キイトからの証言によれば、政府高官の翻訳者として製造されたものの数年で払い下げられ、横浜の外国人向けサロンでの接客を経て、最後の所有者である養蚕業者の味原氏に渡ったということだった。

 現存し、なおかつたんぽが政治的に有効的に使われていた証拠だとして、博物館を通して改めて文化財申請を行い、晴れて名札通り文化財として扱われるようになったのだ。


「それにこれは……やはり恥ずかしいのじゃが」

「これって?」


 というと、困惑の表情を見せながらキイトはフリフリのメイド服のスカートをたくし上げる。

 彼女の下半身を覆うものは、白地にピンク色のかわいい絵柄が描かれた――紙おむつである。


「これはあれじゃろ、今様の『』じゃろ。妾しっておる」

「そう、おむつ。だってキイトちゃんすぐおもらしするじゃん」

「それは仕方ないじゃろ。仕様なんじゃから……っ」


 問題なのは払い下げられた先のサロンで、表向きは普通のサロンだが、実態は外国人向けの娼館だったらしく、彼女も少なからずそういう事をされたそうだ。

 で、そういうことをされるときには、お股からお湯が出ると何かと都合がいいので、式神函の中の式札をいじって出やすいように仕様変更されていたのだ。

 しかし文化財認定されるためには、式神函の修理は行っても仕様変更はしてはいけないということだったので、キイトはお股からお湯が出やすい状態のままである必要があったのである。


「見せるものじゃないから平気平気。それに、わざわざかわいいやつを見つけてあげたんだよ。似合ってる似合ってる」

「そ、そうか。それなら良いのじゃが」


 そして何故彼女が和風メイド服を着ているかというと、えっちじゃない接客のためである。

 文化財とはいえ、修復により良好な受け答え能力を持つ彼女を、ただ展示物としておくのはもったいない。さらに言えば、当博物館は慢性的な来場者不足に陥っている。

 ということで、キイトには時代の生き証人として、展示物兼接客担当として働いてもらうこととなったのだ。

 外国語も英語とフランス語に対応、しかものじゃ口調。一人称も「妾」。これはもう、その、たまらないでしょう!

 ホームページにも「明治から昭和を駆け抜けた小さなおばあちゃん! きいとが直々に案内します」と大々的に宣伝してしまっている。

 後戻りはできないぞ。キイトちゃん。


「先輩、もう来場者来てますよ!」

「わかったわかった! よし、行ってらっしゃい」


 学芸員のカスミもイベント用にそろえた和風メイド服に着替えている。ちなみにカスミのメイド服は、2年前の特別展で私が着せられたものだ。お前も私と同じ恥ずかしさを味わえ……と思ったけれど思いのほかノリノリで着ていたので、どこか悔しい。

 あの一件以来、カスミには距離を取られている気がするけど、私と式神函を見た感動で失禁したカスミとは同じ穴の狢なんだぞ。


「妾は60年前のババアなんじゃぞ。本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。みんなはあなたに聞きたいことがいっぱいあるんだから」


 そのために、この1か月間、キイトと私は博物館で共同生活しながら、現代知識をいろいろと学習してきた。そう、カメラに映ったって魂は取られないし、マナーの悪い客をその場でシバくと逆に罰せられてしまう。


「前を向いて。あなたは博物館のアイドルになるんだから」

「あいどる……じゃと?」

「さあ、始まるぞ! 第二の人生が!」


 そして私はキイトの背中を押した。これから始まる、ちょっと昔のロボットとの新しい生活に心を躍らせながら。

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