9. 章の締めで字数オーバーするの癖になってんねえ、分割しよか




 ハラダとの会談かいだんはその日の夕方、LINE上で行われた。

 あまり人には知られたくないのだと言う。



原田大我:俺もそれほどくわしくないから推測すいそくが多いが、この呪いは蔓の正体である冬瓜に注目すべきだ


みはる:うん


原田大我:瓜子姫うりこひめは知っているか?


みはる:グロい昔話


原田大我:そうだけど、思い出すべきなのは姫が瓜から生まれたということだ。瓜は女性や生殖せいしょく象徴しょうちょうなんだ


みはる:瓜が 何で?


原田大我:それは今どうでもいい。冬瓜の呪いは生殖の反転、すなわち死。実が成ったら終わりだ。呪ったやつは相当あいつを憎んでいたんだろう


みはる:どうでもいいのかなあ


みはる:マナちゃんは先週靴に画鋲が仕込まれたのがきっかけって言ってたけど


原田大我:それは関係ないんじゃないか、冬瓜とからみが無さすぎる。夏取れて冬まで保存できるから冬瓜と言うんだ、仕込まれたのはもっと前だ。今から犯人捜はんにんさがししても難しい


みはる:そうだとしてどうすればいいの?


原田大我:瓜田不履納


みはる:文字化け


原田大我:違う。瓜田かでんくつれず、盗人ぬすっとと疑われないように瓜の畑には靴を入れるな、ということわざだ


原田大我:だが本来の意味じゃない。さっきも言ったように瓜は生殖や生命の象徴。その畑は神聖しんせいな土地で、そこに土足で踏み込んではいけない、ということだ。あのブスはタブー禁忌を犯したんだ、この呪いの本質ほんしつはそれだ。


原田大我:何か呪いのかくになる物があるはず。例えば、呪力じゅりょくを込めた種を踏んだとかだ。そしてそれは呪った時と同じ地にある、育つ蔓の為に土にを生やさないといけないからな。呪物じゅぶつを探し、あいつ自身が根を断ち切れば呪いは消えるだろう


みはる:呪物のある場所に手掛かりは無いかな?


原田大我:あいつの通り道だろう。通学路や、買い物で行くところ、駅の辺り、


みはる:ありがとう。マナちゃんと探してみる!


みはる:でも、原田君優しいんだね。マナちゃんと仲悪いのかと思ってた


原田大我:直接言っても聞かないからな


原田大我:【ガルパンの自動車部が『気を付けてね!』と言っているスタンプ】







 翌朝、決然けつぜんとマナちゃんの家に行く。

 インターホンを押したらマナちゃんのお父さんが出てきて、門前払もんぜんばらいかと思いきや。


「それが、昨日から帰ってないんです」


 彼は平然へいぜんと言い放った。

 あまりに普通な様子なので意味を理解するまで時間が掛かった。


「友達の家に泊まってるってことですか?」


「いや、全然」


警察けいさつは」


「呼んだ方がいいかなあ……」


 実の娘が失踪しっそうしたのにぼんやりと、整った口髭を撫でる。


 な、なにこれ……。ボクは目を白黒しろくろさせる。

 ここ数日見てきたけど、こんな人じゃない。マナちゃんと話している時は確かに親しみがあった。


 呪いのせいだ。

 そう思った時、お父さんと壁の隙間すきまから何か動くのが見えた。


「すいません」


 と、靴を脱いで家に上がる。屈んで彼の脇の下を抜け、直角に曲がると階段の三段目にマナちゃんがいた。一方の壁にうつかり、もう一方に折り畳んだ足をつけて窮屈きゅうくつそうに。玄関から見えたのは包まっている毛布のはじっこだった。

 ボクの後を追って振り向いたお父さんが驚く。


「マナ、いたのか?」


「まあね」


「そうか」


 お父さんはやれやれと言った調子で、台所の方に戻っていった。


「昨日からあの調子。何度伝えても私がいる事をすぐ忘れる、お母さんもそう」


「ボクみたいに、呪いのこと話してみたら見えるかも」


「パパ達には心配かけたくない」


 眉間みけんしわを寄せたマナちゃんは、だるそうにボクを少しだけ見た。

 よかった、眼光がんこうするどさはまだ失われていない。


「大丈夫? 痛みはある?」


「何しに来たの、早く帰って」


 やっぱり話してくれる気はないようなので、毛布から覗く黄色い花を指差す。


「あのさ、その蔓、冬瓜でしょ」


「そうだとして何?」


 目は壁を見たまま、でも少し揺れた。手応てごたえあり。


「わかったんだ、その呪いのこと――」


 ボクは恐る恐るハラダから聞いたことを話す。名前を出すと聞いてもらえないだろうから、ネットで調べたこととして伝えた。


 全て話し終わった後、マナちゃんは寒そうに体を震わしてから口を開く。


「で、誰から聞いたの」


「え、それは、ネットで」


「教えて」


「いや、だから……」


 彼女は億劫おっくうそうに息を吸って、これ見よがしにため息を吐いた。


「おんなじだ」


「え?」


「一昨年の夏の終わりの、テニスコートで」


 うっ。


 マナちゃんは外ぐらい冷たい声で、ブツブツとしゃべった。


「陰口にキレたヤマダが帰ろうとして、ハルカがその背中に思いっきりボール打って。あの時もミハルちゃん、ヤマダをかばって当たりに行った後、いくら聞かれても何があったか教えなかったよね。おんなじ、マナにもそうなんだ」


「それとこれとは話が……」


 ……吐き気がして言葉が続かない。

 失望しつぼう軽蔑けいべつ眼差まなざししにうつむく。


 大きな舌打ちの音。


「いいよ別に、責めてないし。元々ミハルちゃんに期待もしてないから」


 まだブツブツ、自分におまじないをとなえるかのように。


「むしろ幸運、ここを乗り切れば、この呪いでまた怖い話が作れる。これでいい」


「マナちゃん……どうして、なんでそんなに一人で抱え込むの?」


  顔を上げることなく、隙間風すきまかぜみたいな声を出す。



 意表いひょうを突かれて顔を上げてしまう。

 マナちゃんは階段の踏み板に手を掛け、立とうとしていた。


「これぐらいのこと……一人で何とかできなくちゃ」


 バランスを崩して彼女はどたりと転げ落ち、毛布から満開の花があらわになる。下半身が全部動かなくなっているのかもしれない。

 それでも彼女は止まらず立ち上がろうとする。


「マナちゃん、マナちゃんは何をしようとしているの!?」


「それは」


 その続きはわからなかった。

 『それは』より後、彼女はボクの前から姿を消してしまったから。








「ハ、ハラダ君いる!?」


 マナちゃんちでどうやってもマナちゃんが見つけられなかった後、ボクはハラダにLINEを送り、答えを待たずにコンビニに駆け込んだ。


「トイレ」 


 やっぱり今日もイートインにいたハラダの友達が、店内の奥を見ながら答える。

 なるほど、ボクはトイレまで行ってドアを激しくノックした。


「ハラダ君、大変大変!」


「わ、止めろ止めろ!!!」


「お客さん……」


 戸惑うハラダと店員さんの目を見てすぐ止める。

 いけない。興奮していた。


「LINEは読んだ。大変だったな」


 イートインの座席で気持ちを抑えてじっとしていると、ハラダが手を拭きながら声を掛けてきた。


「うん、もうどうしたらいいのか……」


 ボクの横に座ったハラダは腕を組んで、息を吐く。


「すぐあきらめるな。やることは変わらない、呪物を探すんだ」


「でもボク一人じゃ」


「手伝ってやる」


 それから彼は友達の方に目をやった。


「悪い、俺帰る」


「ええっ、ステラのまほう秋アニメのきらら枠の反省会まだ半分も済んでないぞ!?」


 と、二重にじゅうあごが不満そうしゃくれる。


「やっぱ百合アニメしか観ないんだ……」


 思わず口から出てしまった言葉を聞くと、ハラダは立ち上がって胸を張り、真顔でこう言った。


「ああ、百合が俺達を人間にしてくれた」


 フッと鼻で笑ってしまい、いけないと口元をおさえて、しばらくしてから気付く。


「冗談?」


「まあな。少しは気が晴れたか? ひどい顔してたから」


 ハラダの爬虫類顔がぎこちなくゆがみ、ちょっと愛嬌あいきょうを感じる。


「うん、ありがとう」







 その後、二人で手分けして呪物を探したけど何も手掛かりは無く、日没前に切り上げた。


 家に帰った後、ハラダとはLINEであれこれ明日探す場所や呪物の隠し方についてしばらく話し、いつの間にか深夜になってから気付いた。


 うーみんさんに何も返事してない!

 急いでツイッターを開くとあんじょうDM欄が大変なことになっていた。



うーみん:オッチマさん、先日のDMについて謝罪させてください。決してよこしまな目的があったわけではないのです。ただ仲良くなりたかっただけなんです。恥ずかしながら今まで貴方のような若い女性と話す経験が無く、今回のように間違えてしまいました。


うーみん:すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんせすいません



 謝罪のDMは他にもたくさん。

 うーみんさんはネガティブになるとそこが深いんだ。



オッチマ:こちらこそ返事が遅くなってごめんなさい



 ボクもペコペコと謝り、少し驚いただけで後は現実で忙しかったのだと説明する。すぐ既読がついて、上機嫌になってくれた。よかった。


 それから彼はやりとりのなかったここ数日の進捗しんちょくについて報告してくれ、ボクがマナちゃんと行動を共にしていたと話したことからある発見をする。



うーみん:そのソコツネさん㊙情報疑惑ぎわくのお友達と一緒にいたなら。ツイッターをやっているところは見ていないんですか❓ ㊙情報は日中も活動していましたヨ🤔



 そう言われて記憶とアカウントの投稿時間を確かめる。



オッチマ:してませんでした。でも自動投稿かも


うーみん:そうですね。後は他のクラスタと複数で運営うんえいしている可能性もあります



 複数……。

 『一人じゃないし』と言われたことが頭をよぎる。



うーみん:ところで、何故そのお友達と一緒にいたのか聞いても❓🥺



 つまんで、カウンティング婆探しと呪いでそれどころじゃなくなったと話す。

 しばらくしてから返答が来た。



うーみん:変だな🤔


オッチマ:どうしたんですか?


うーみん:オッチマさんの呪いの話には重要な視点が抜けているんですヨ


オッチマ:視点


うーみん:呪いの本質と言ってもいい


オッチマ:それは何ですか?


うーみん:呪いの本質、それは『隠す』ことです😏




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