8. 登場人物は全員あの街に多い名字ぶち込んでる




うーみん:⭐🧡💛あけおめオッチマさん💚💙⭐今年もクラスタ潜入頑張がんばろうネ😁😁私も精一杯やっちゃうから🦾🦾😡😡

 でも、仕事あるし、最近はすぐ目が疲れちゃうおじさんだから、、、😢

 若い子に肩んで欲しいナ、、、ナンチャッテ^^


うーみん:ところで決意を込めてってことで、新年会やりませんか❗❔


うーみん:二人だけで、、、サ(ヘンな意味じゃないよ😝)



 ぐぇあ。






 うぐっ。

 年始ねんしから強烈きょうれつなのが来ちゃった。


 うーみんさんは気さくだけど、距離感きょりかん近いしやたらオフ会の誘いをしてくるからDMが来る度ドキッとする。


 ことわりの言葉を考えながらスマホを自分のベッドに投げ出し立ち上がり、パジャマを脱いで着替える。シャツの上に一番分厚いセーター。


 今は午前十時過ぎ、お母さん達は諏訪大社スワタイシャ初詣はつもうで中だ。


 怪談:カウンティング婆探しもこれで四日目になる。







 昨晩ボタ雪が少し降って凍り、マナちゃんの右の厚底雪駄あつぞこせったが踏みしめる度ザクザク言った。

 蔓はかなり成長して、脹脛ふくらはぎに巻きついている。


 今日の目的地はマナちゃんちから一番近いファミマ。里山――小泉山コズミヤマって名前――を回り込む必要があるので合流してから大分歩く必要がある。

 現地集合にしないのはもちろん色々聞く為だ。


ばばあさん見つけてからどうするの?」


「ねむ」


 マナちゃんは欠伸あくびをかみ殺す。鼻がピクピクして猫みたいだ。


「今日見つけたとしても何もしないよ。ガキ使大晦日の特番のせいで頭が動かん」


「ボク途中とちゅうで寝ちゃった、全部見た?」


 それからガキ使に話が反れて、今年のバスはどうだ、ジミーのキャリアハイは何時だとか評論家ひょうろんかぶってネタを採点さいてんしたりした。


 サンシャイン池崎いけざきの物まねしていた俳優はいゆうさんを潰した感じの人に最近会ったと彼女が言うので、ボクはすかさず教える。


「コイトさんじゃない?」


「あーあいつか」


「あの人どうなったのかな」


「知らなーい」


 マスクからモワーと白い息が出て、通り過ぎた地点に置き去りになっていく。


「いいんだよ、ああいうのはどうなっちゃっても」


「そうかな……」


「やっちゃいけないことやっちゃうやつなんだから」


「うーん」


 四日でこれぐらいは話すようになった。







 先々月に開店したばかりで駐車場ちゅうしゃじょうも広々のそのファミマは、カウンティング婆の補給所ほきゅうじょだ。昨日店員さんに直接聞いた。

 闇雲やみくも目撃情報もくげきじょうほうを追わず、婆の生活圏せいかつけん想定そうていし通いそうな所を当たったのが奏功そうこうした。


 来る日はいつもお昼以降だそうで、この季節なら日没までだろう。だから今日の予定はイートイン買い食い場に居座って張り込み……だったのだけど。



「なんだお前ら」


 辿たどり着いたそのコンビニに入って左側を見ると、白くて綺麗なイートインを占領せんりょうする男子達がいた。

 ボクの隣のオタクと、その太った友達だ。二人ともPSVita携帯ゲーム機を持っている。


「ハラダくさい」


 マナちゃんが大袈裟おおげさに顔をそむける。

 ハラダ、隣席のオタク男子は 確かマナちゃんと同じ豊平小トヨヒラショーだったっけ。仲がいい感じではないけど……。


「あっち行けよ、マナ達が使うから」


 と彼女が指差すのはガラスかべの外、道路の向かいの東屋あずまやがある辺りだ。


「バカ、お前らが行け」


 ハラダは取り付く島もないけど、横の気弱きよわな彼はキョドっている。マナちゃんの矛先ほこさきが向いたら可哀想だ。


「まあ席はあと二つあるし、ね、マナちゃん」


「ヤダよ。同じ場所にいたら臭死くさしするから」


「なら今死ねよ」


「あー臭……ホラ見て店員さんも毒がみてつらそう」


 店員の若いお兄さんはごとにウンザリしているだけだ。


「マナちゃんあのね、ちょっと落ち着いた方が」


「いいから。東屋行きたいの?」


「そういうわけじゃ」


 睨まれると黙ってしまう。

 少し沈黙が生まれて、ジロジロこちらを見ていたハラダの目がマナちゃんの足の方を向く。


「つーかお前ら、何なんだよ」


 何の意味が足のことか、ボクらの関係のことか取りかねていると、タラララタ・タターン……と入店のメロディ。

 店内の全員の視線が入り口に集まる。


「あれ、マナ」


 イトウさんだ。立ちえりのあるグレーのコートとスキニーのジーンズで大人っぽい。駐車場の方からお母さんらしい女の人もやってくる。


 コンビニに同級生五人。田舎いなかだから休み中に行くところも少ないので、こういうことがまま起きる。


 驚愕きょうがくが収まるとイトウさんは、マナちゃんに近寄り、まっすぐ見つめた。アーモンド形で、外の陽光ようこうたたえてあわく光る。


「モロズミちゃんまで。ねえ、マナ、どうしたの?」


「……散歩さんぽ


 マナちゃんは後ろ髪をいじりながら、目を合わせず答えた。

 イトウさんの眉が悲し気に垂れ下がる。


「……どうしてLINEも電話も出てくれなかったの?」


「ごめん。でも、謹慎中はスマホは親に取り上げられてたから」


「今は?」


「ごめんって言ったじゃん……」


 普段からは想像もつかないぐらい歯切れの悪いマナちゃん。

 イトウさんのお母さんが入口から不思議そうに通り過ぎて、店員さんに煙草を注文する。

 

「心配したんだよ、何か悩んでいるんじゃないかなって、みんなで」


「アサカ達はそんなこと考えなくていいよ。余計なお世話」


「そんな言い方!」


「そうだよ、もう少し話してくれてもいいんじゃ」


 イトウさんの表情が見るに堪えないので、思わず口をはさんだけど、思いっきりマナちゃんに睨まれる。


「マナ、最近おかしいよ。今の貴方を見ていると……」


 イトウさんはそこで初めて目を伏せ、顔を上げると改めて口を開いた。


「不安になるの、去年のハルカちゃんみたいで」


「い、イトウさん!」


 ボクの制止もお構いなしに彼女は続ける。


「ごめんね、思い出して辛いと思うけど。一人で苦しむのは止めて」



 ――私達、友達でしょ?



 正面からぶつかっていく彼女を見ると、眩しくて、胸が痛んだ。


 マナちゃんは無表情にしばらく黙り、思い出したように息を吸ってから口を開く。


「どうでもいいし。帰る」


 それで入口の方に向かった。


「ちょ、ちょっとマナちゃんもう少し……」


 ボクが追いかけてコートの裾を掴もうとするとマナちゃんはうざったそうに振り払い、冷めた目でこちらを見る。



「コウモリヤロー」



 ぐぇあ。




 タラララタ・タターン タラララタ―ン……。






 うぐっ。


 ダン!


「モ、モロズミちゃん!?」


 一瞬の気絶で倒れかけ、咄嗟とっさに足を踏み出すと大きな音が鳴った。

 立ち直って店内を見回すとイトウさんやオタクや店員さん達が驚いている。


「……イトウさん、平気?」


「い、いや、私は別に」


 そうは言っても彼女の瞳はうるんでいた。


「あの、マナちゃんもいっぱいいっぱいだと思うんだよね。だからこういう時って誰かに当たっちゃったりするから……」


「うん、うん……」


 それから彼女が落ち着くまでごちゃごちゃなぐさめの言葉をかけ、他の人たちに謝ってからファミマを出ると、マナちゃんはもうどこにも居なかった。

 






うーみん:あれ😥昨日から返信が無いんだけど、、、


うーみん:深く考えなくてもいいんですョ❓



 スマホを自分のベッドに投げ出して、重い息を吐く。

 パジャマを脱いでクローゼットに向かう。


 扉の鏡に人間が映っていた。ボブカットに満遍まんべんなく寝ぐせがついて、肌は色褪いろあせてみじめな子どもが。

 薄い肩をいからせ、唇を噛んでなるべく赤くしてみる。



 行かなくちゃ。







 昨日ファミマから逃げ戻った後、マナちゃんには何もフォローしなかった。

 どうせ答えてはくれないだろう。いつものままでいいとアルガ先生も言っていたし、カウンティング婆探しを続ければいいんだ。


 さいわい張り込みがあるから無為むいに歩く必要もない。

 カウンティング婆との血沸ちわ肉躍にくおどる何やかんやがあれば忘れるはず……と皮算用かわざんようしていた矢先やさき、マナちゃんちへの路上にマナちゃんが倒れているのが見えた。


「嘘!?」


 急いで駆け寄る。

 その歩道ほどうはアスファルトで舗装ほそうされるているけど今は雪と氷を被っていて、物凄ものすごく冷たい。うつ伏せの彼女の口元から白い息が出るのを見てとりあえずホッとしたけど、速く起こさないと。


「マナちゃん!」


 声を聞くと彼女は両手で上半身をよろよろ起こし、体をボクの方にじる。


「右足が、動かない」


 辺りを見ると雪に新しい靴やひざをついた跡がいくつもあった。


「ど、どうして!?」


「花が」


 そう言われて右足を見ると、咲いている。

 蔓がグルグル巻きのももの下、雪駄と地面の間から黄色い花が。咲いて、五つの大きな花弁が風で震えるようにそよいでいる。


「な、何で」


「昨日つぼみができて、今朝家を出たら……やっぱり歩くと進行する呪いだったんだ」


 ボ、ボクが連れ出したりしたから……。


「あそこのえだ取って、つえにするから」


「そ、そんな」


 立とうとするマナちゃんに背中を向けてしゃがむ。


「お、ぶってくよ! 呪いもどうにかしないといけないし」


「いいよ。ミハルちゃんうるさいし、役に立たないし」


 マナちゃんは少し這い、ガードレールを掴んで立ち上がる。

 昨日と同じ、青い顔色に無表情。


「一人で何とかするから。ついてこないで」



 この後、言葉に反してずっと家までついていき転びそうになる度支えたけど、結局口も利いてもらえなかった。







 呪いをなんとかしなきゃ。


 ただ草が生えるだけで、他の人には見えてないようだからついっといてしまったけど、本当は恐ろしいものだったんだ。


 マナちゃんちから戻ったボクは、例のファミマのイートインでノートとスマホを広げていた。ここならWi-Fiもあるし家と違ってお母さんやナツヤの横槍よこやりも入らない。オタク達はいるけど。


「いいなあスマホ……親父がダメってさ」


 ハラダの友達がボクをチラ見して言うのが聞こえた。気にしてない風で買ったカフェオレをすする。


 一人対策会議は早々に暗礁あんしょうに乗り上げた。

 情報が無いのだ。蔓の生える呪いなんて聞いたこともないし、ググってもなしのつぶて。

 行きづまって落書きなんか始めて、これじゃだめだと顔をむ。


「おい」


 突然、不躾ぶしつけな呼び声がして無視しきれず振り向く。


「それ、冬瓜トウガンか?」


 ハラダが見ているのはボクのノートに描かれた蔓の葉と花だ。

 蔓の品種ひんしゅなんて考えもしなかった。


 彼はこちらの席に自分の椅子を引きずってきて、続けて小声で問う。



?」


 エッと声を上げそうになったけど、ハラダが友達を気にしているの見て止める。


「み、見えてたの?」


 顔を寄せ、囁くように聞いた。


「……そういうのが見えるんだ、昔から」


 初めてまじまじ見るハラダの顔はトカゲみたいにつるりとしてるけど、今日は何だか目がねつっぽい。


「今、マナちゃんが大変なことになってて」


 ハラダは一つうなずくと唇を舌でチロリとめてから口を開いた。


「ああ。あのは危険だ。このままだと……命取りだ」




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