4. 4,700字?4,700字あるんですけど!削れないんですけど!
「うぐっ」
腹部に
ボクはゴミさんに
「き、気が付いた?」
「ありがとう……」
別に
すぐに一人で立って、状況を確認すると何も変わってないことがわかった。
マタイ塚の前には一組の男女、若いお兄さんと……マナちゃんだ。
二人ともボクらを見ている。
しぶしぶ近づくと、男の人は
「君ら、何?」
「あ、あの、えー」
口ごもるボクをゴミさんがすっと手で
大丈夫かな?
「デートです」
「違います」
ダメだった。
ゴミさんもテンパっている。
「じゃあ何しに来たの」
「マナが呼びました~」
困りきったところにマナちゃんから嘘の助け舟。
男の人から『うえっ』と
「ごめんなさい、だって、心細くて」
彼女が
「いや、で、でも、それって……そういうこと?」
マナちゃんはコクリと
男の人は困ったような
……嫌な感じ。
ボクに何かさせようとしてる。絶対よくないこと。
目的はわからないけど、お昼にマタイ塚の話をされたのもここに
まんまと手のひらの上に乗せられている気がする。
いや、でも
止めなくちゃ。
「あー、ど、どういうこと? てかそっちこそなんですか?」
ゴミさんの質問に、マナちゃんは
「ゴミトコは呼んでないから帰れよ」
発音はゴミ箱と同じ。
ゴミトコは
「あ?」
意外にもゴミさんは
正直
「ごめん、ちょっと色々あって。後は一人で何とかするから」
「え……よくわかんないけど、いいの?」
「うん、ごめん、また明日」
心細さを
パン。
マナちゃんが手を打ち合わせ、
「――さて、
「始めるって?」
勇気を
マナちゃんは男の人の方を見て、
「何でしたっけ?」
「えぇ~」
「ふふっ、冗談です」
そうやって男の人と
“圧”が……うっ。
「じゃあね、まずは自己紹介。ほら、こっち」
言われるがままボクは男の人の前に行ってしまう。
「はい、ミハルちゃんから」
「え……モロズミミハル、二年三組です」
その時、胸がキュッとなるような
「それだけ? じゃあ」
「よろしく、俺はコイト」
もちろん
「あ、あ、コイトは『
と言って、いそいそとダウンのポケットからスマホを出し、ツイッターのアイコンを見せてきた。
「すいません……」
漫画の絵で、色黒の
「あの、コイトさん達はツイッターで?」
「そそ、アニメやYouTuberの話で」
「えーじゃあ二人は……お友達、ですか?」
コイトさんはピクンと震え、空気が変わるのがわかった。
とても悪いことをしているような顔。
マナちゃんが二ヤリとする。
ほとんど直感でこの二人の関係と、彼のボクを見る目の意味を理解し、一気に血の気が引いていく。
少し
「そうだよ、ミハルちゃんともそうなりたいな」
俺も、誘われて、こういうこと、初めてなんだけど……と、彼は言葉を選んで
「大丈夫、ここから俺の車で、家は山の方なんだ。この時期はみんな寒くて外出しないし、誰にも見られないから、だ、大丈夫」
遠回しで、どこか
「キミも同じ額で、大丈夫なのかな?」
「か……」
顎から
「帰ります!」
ボクは
◆
来た道を
信じられなかった。だってあれは、その、嘘、ダメまだ気持ちの整理がつかない。
マナちゃんは何がしたいの!?
学校では謹慎で、外では……。
理解できない、だって、あれは、あれは……!
「あれ?」
そこでボクは足を止め、異変に気付く。
気付くと日の
ゴミさんに教えてもらった道を戻るだけなのに、引き返しているのだ。
ところが、それから何度やっても同じことになった。
道に迷っているのとは違う。少し前に曲がった場所に戻ろうとしても、いつの間にか知らないところに行って、来た道を引き返している。
そして、マタイ塚の近くに戻ってきてしまう。
◆
もうすぐ夜。見晴らしの良い太い道に来たけど、暗い住宅街と山脈に囲まれて
街灯の下で通学カバンをアスファルトに投げ
その腕が背後から
「マタイ塚って、実はこういうことなの」
よく響く声に振り返ると、探したよ、とマナちゃんが暗がりに立っている。
「塚の前で別れた二人はどこにも行けなくなって塚の前で
――自分の名前、わかる?
バカにされてるのかと思ったけど、少しも思い出せなかった。
マナちゃんの手を振り払い、
「ど、どうして、マタイ塚って一体……」
「あれは再会の場所なんかじゃない、
こんなハナシを考えたよ、と彼女は語り出す。
「隠れキリシタンが作ったってのは間違い。マタイ塚は本当は
「それ、作り話……だよね?」
「うん。でも、今日からそうなる」
と、マナちゃんは得意げに鼻を鳴らす。
やっぱり、男の人を呼んだのは怖い話を作る為だったんだ。
ボクは彼女から離れて立ち上がり、真正面から向き合う。
「この
「
「違うよ! ボクは本気で、本気で」
口が、止まる。
彼女が楽しげにマスクのひだを
「ボクだって」
吐き捨てるような言い方。
「ボクなんて言うようになったんだ。ウケる、いつから?」
いつから。
答えられない。
「前は気絶もしてなかったし、
黙りこくるボクをニヤニヤ眺めてから彼女はまた口を開いた。
「まあいいや。今日なんで塚に来たの?」
「それは、マナちゃんを止める為」
「止める。なんで?」
「怖い話を作るとか言って、悪いことする……気がするから」
「ふふっ、そう! でも、私が悪いことして何がいけないの。ミハルちゃんには関係ないんじゃない?」
「それは」
今日も昨日も 雪の空
ユキの歌声と、ブルーシートが
息を深く吸う。
「同じクラスや学校の、仲間とは、仲良くして、助け合って……間違いがあれば、お互い正し合うものだから……そのやり方を学ぶのが、学校だから……って」
「何それ、誰が言ったの?」
「二年になった時、アルガ先生が」
「そう、そうなんだ!」
マナちゃんは腹を抱えて大笑い。
自分の顔が真っ赤なのがわかる。全部
彼女が目に
「でも違う。今日悪いことするのはマナじゃないし、ハナシはまだ終わってない。そろそろ自分の心配しなよ」
彼女はボクに背を向ける。
「塚に名前を取られると自分がわからなくなって、家にも帰れなくなる。一生ね。だから塚に戻って名前を取り戻さないといけない。実は、塚の前で名乗り合った二人だけがお互いの名前を覚えているの。きっと舌に
「え、でも……ボク」
「うん、コイトの本名聞いてないんだよね。つまりアナタはこれから彼に
たっぷりの間。
今日一の悪い顔。
「塚のことは彼にも説明済みで~す」
ぐぇあ。
うぐっ。
「そ、そんなあ!」
想像の十倍最悪だ。
彼女は
「ね。あのロリコンとも、仲良くして助け合うとこ見せて」
ヒントは塚の周り自体が塚の口ってことね、と付け加えて彼女は手を振った。
◆
墓場までの足取りは重かったけど、
もう真っ暗で、気温は多分氷点下。
頭がボーっとしてくるけど、絶対に油断できない。こっちは一方的に
コイトさんは白い息を吐きつつ、塚への短い石段の前で立っていた。
「やあ」
足音で目ざとくボクを見つけ、スマホのライトをこちらに向ける。
「探すより、待っている方が早いと思ってたんだ」
唇を引き結ぶと冷気で顔がビリビリした。
そんなボクを見て彼はため息を吐く。
「寒いからすぐ済まそう」
彼は自ら石段を上る。
上りきるのを確認してから、石段の半ばで止まって様子を見る。
彼は塚の前に行き、自分の本名を大声で言った。
そのまま振り返り、ギョッとするボクを見て微笑む。
「本気で彼女の話を信じてたんだ」
「大丈夫だよ。ほら君もこっちに」
塚のことを信じていないのかな?
恐る恐る彼の傍に行く。針葉樹に
塚の前でボクは彼と向き合う。
サングラスは取っていたけど、微笑の
「君の名前は――」
彼は
しかし、小さくて聞き取れない。これも塚のせい?
「え?」
半歩寄ると、彼もにじり寄る。
「モロズミミハルだよ」
次の瞬間、ボクは彼に抱きしめられていた。
「うわっ!」
もがいても鞄までガチッと腕を回されて身動きできない。
い、痛い!
「こうすればいいんだろう、あの子のハナシ通りだ!」
マナちゃん何言ったんだ!
「は、離して!」
大丈夫、安心して、安心して、と彼は
吹き込まれた内容次第でボクは、ボクは……。
抵抗しても力づくで抱き寄せられ、ダウンの
『ヒントは塚の周り自体が塚の口ってこと』
名前を取る舌があるなら、呑み込むための
塚の喉は名前を取られた人間にだけ開かれ、その行き先は怨霊たちの眠る土地。
『今日悪いことするのはマナじゃないし』
塚に喉があるとすれば。それはきっと。
ボクはもがくのを止め、コイトさんにもたれかかる。
彼は驚いてバランスを崩し、ボクはそのまま思いっきり、塚のまんまるい地べたの方に体を倒し――
◆
「やっぱり本当は変わらないね、ミハルちゃん」
石段を降りるとマナちゃんがいて、そう言われた。
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