怪談二:マタイ塚
3. 主人公がわからん。素直に一話で「オッス!ボクミハル。協調性が高く、気絶する」でよかったのでは?
◆
「ご飯と牛乳の組み合わせって犯罪的だよね」
何気ない発言に、ボクと机を寄せ合う二人は別々の表情をした。
「
ユキは
「い、
ゴミさんはぎこちなく口元をたわめる。
うっ。
ボクは一瞬
みんな友達同士で机を寄せ合い、それぞれ給食とお喋りを楽しんでいる。
平穏なクラスにほっとして、ボクは前を向く。
やっぱりユキがゴミさんを
「トッコ、まさか美味しいと思ってる?」
そう言われるとゴミさんは牛乳を一口、すぐにご飯を
口の中のこうや豆腐の炒め物を飲み込んでから答える。
「そう言えばミルク
「何それ?」
ゴミさんが首を
自分の考えに
「モロズミちゃん」
ちょうどよく後ろからボクを呼ぶ声。
足と色素の薄い髪が長い、マナちゃんと仲良しの子の一人だ。
「あのね」
声を
「数学のプリント、まだ出していない人たちがいて」
「うん、誰?」
小声で返す。
「ヤザキとかの辺りがグルになってて……あとソコツネさん」
「大変だね」
シバタがああなってから、プリント魔のトダ先生がボクらの授業を受け持つようになった。不真面目な男子の一部はそれを快く思ってなかったけど、半ばボイコットになってしまったらしい。宿題当番の彼女も顔は広いが、
「先生に言っちゃおう」
「私だってバレちゃうし」
「トダさんじゃなくてアルガ先生だよ。ヤザキ君んちは勉強
最初の一人が倒れれば後はもうガタガタになるし、憎まれ役はヤザキだ。
彼女は胸のつかえが取れたような顔をする。
「ソコツネさんは……トダさんに任せよう」
「すごい、なるほど! いつもありがとね」
と、お礼もそこそこに彼女は自分のグループへ。
首を戻すとゴミさんが
「た、
「ただ話しやすいだけだよ」
「面倒じゃないの?」
ユキはうんざり顔。
幼馴染以外は広く浅いボクの元には、友達に
「話せないまま問題になるよりはずっといいから」
食事に戻ろうとすると、また呼ばれた。
「モロズミさん」
声は教室前方窓側、灰色の事務机から。
背の高い女の人が優しげな笑顔を浮かべている。
「はい」
アルガ先生だ。
◆
お昼を食べ終えたボクは図書室に向かう。
先生に頼まれたのは本の
今日も良く晴れて寒さが
「ミハルちゃーん」
ハンドベルのようによく
恐る恐る声の方を
校内
「トイレ行くって言えば抜け出し放題よ」
「あ、ああ。そう」
答える声が
こないだからマナちゃんを見ると
だから、もうあれから四日
彼女はクラスの様子を聞いてきて、少し雑談してから「そう言えば」、と本題を切り出す。
さっと身を
「マタイ
「えっ」
知ってる。
でもそれは……。
「あの、デートみたいな、時の」
「それそれ。どこにあるか知らない?」
マタイ塚はデートスポットだ。
それも実際には誰も行かない、彼氏がいる子を
「ううん。でも確か、
「そうなんだ。ありがとう」
「あの!」
得心の行った顔で戻ろうとする彼女を呼び止める。
「マタイ塚の場所を聞くのって、怖い話を作る為?」
彼女は立ち止まり、その
「面白いこと聞くね」
と言って、振り向くといつもの“圧”顔。
「デートする為に決まってんじゃん」
気絶しそうで、もう何も聞けない。
そのまま立ち去る彼女をボクは
シバタについて、みんなはマナちゃんが授業がゴミ過ぎることにキレたせいだって話になった。
そうかもしれない、でも。
『シバタはマナちゃんにゴミ箱に突っ込まれてああなった』と、
……何かが起きている。マナちゃんが起こしているんだ。
マナちゃんより先にマタイ塚に行かなくちゃ。
◆
「い? マタイ塚!?」
放課後、ゴミさんが大声を上げたのは
「違うよ、そんなんじゃなくて。委員会の企画だよ?
東中は確か三つの小学校から集まった生徒でできていて、ボクは
「そ、そう。彼氏とイイコトす、するのかと思った」
「なにイイコトって、あはは」
ゴミさんは新しい友達だ。二年に上がり、クラス替えで初めて出会った。
ボサボサの長髪と
……バカにする子も多いけど。
「ま、着いてきて。う、うちんちにも近いし」
進み出す彼女の後を追う。
道はずっと下り坂。市内の半分以上は八ヶ岳の
似たようなベージュのダッフルコートを着込み、巨大な指定カバンを背負ったボクらは隣り合って歩く。
住宅地を抜けて
テレビや本の趣味が合わないので、二人になると勉強のことや共通の知り合い……一番はユキのことをよく話した。
「でもい、意外。いつもユキちゃんと一緒なんだと思ってた」
「そんなことないよ」
ちょっと返事がぎこちなくなる。
ユキには今日は一人で帰ってもらっていた。
それは確かに
「あの足で
「うん……」
ゴミさんはさっと顔を
「ねえ、モロズミさんとユキちゃんてテニス部だったんだよね」
「廃部になるまではね」
すると、彼女の目がぐっと
「あ、あれ? なんか怒ってる?」
うっ。
言い方が冷たかったかも。
「いや、別に。
「ほら、うるさく聞いてくる子たちが多かったから、ちょっとね。でも悪いのはユキじゃないんだよ。先輩や……同じ学年でも合わない子たちが多くて、さ」
「……多くて?」
大真面目に聞いてくるゴミさんにボクは
「……
さすがにそれは知っていたらしく、彼女も顔を青くした。
「ご、ごめん。私、ユキちゃん、あ、モロズミさん達とと、友達になるまで……友達いなくて。聞いたことなかった」
「だからユキの前では部活の話はしないであげてね」
「うん。でも、ユキちゃん、今は元気そうだしよかったよね、モ、モロズミさんみたいなしっかりした人がそばにいて」
「そんなことないよ」
そこで会話が
◆
マタイ
彼(彼女?)はキリスト教の
青森にはキリスト、石川にもモーゼの墓があると聞いたけど、多分キリストさん
それがデートスポットになったのは、
マタイ塚で別れた二人はいつか必ずその場所でまたいつか出会う、らしい。『この塚は実は江戸時代、幕府に
それに
「でも実物はぜ、全然。全然だから」
そんなロマンチックをゴミさんは
「
「そうなの!?」
「ちょっと外れたところだ、だけどね」
塚に着くころにはもう
太い道を
少し
「あっちに
「
「中一の頃、家に帰りたくない日は、隠れて誰か来ないか
「そうなんだ……」
そんなことして何が楽しいんだろう……。
「あ、あれ?」
墓場への
どうしたの、と開いた口も彼女に
いる。
そう囁く彼女の
伸び
その前に二人いる。
一人は若い男の人だ。背がひょろ長くて、モコモコのダウンジャケットを着込んでいる。大きな黒いサングラスで目元はわからないけど、口はだらしなく開かれて笑っている。
もう一人は女の子で、灰色のダッフルコートにバカでかい東中の指定カバンを背負っている。髪は短くて白いマスクで顔の下半分は見えない。でも一目でわかる。
マナちゃんだ。
さらに、目が合った。
「ぐぇあ」
「あっ」
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