第2話C「魔術師野郎」

 綾side

 紫から市役所の屋上で落ち合おうという連絡が来たので市役所に向かう市役所の近くに人がいないことを確認してから変身を行う。そして再度確認した後、市役所の屋上へとジャンプする。屋上に着いたので、見られないように移動して変身を解除する。紫はまだ来てな・・・ちょうど来たようだ。

「おーい、こっちこっち」

 紫に呼びかける。紫が近くに来る。

「じゃ、どう動くか決めましょうか」

「ああ」

 スマホの地図アプリを起動してこの街の地図を出す。今いる場所を指して、

「ここはこの街のちょうど中心部分にある。だから、上と下、又は右と左で分担しようってことなんでしょ?」

「そういうことだね」

「じゃあ私はこの街の右半分を担当するね」

「わかった。僕は左だね」

「じゃあ、えーと今が9時半だから・・・10時になったら一度連絡を取りあおうか。仮面野郎を見つけたらすぐに連絡。その時どっちかだけが見つけてたら見つけてない方がすぐに見つけ方へ向かう。どっちも見つけたらその場で戦闘。これでいい?」

「そうしよう。じゃあ僕は行くよ、君も頑張ってね」

 紫がサンダルの描かれた注射器をドライバーに刺す。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『タラリア!』

 紫の足に翼が生える。

 タラリア。ギリシャ神話の神ヘルメスが履いていたとされる有翼のサンダルで、履くとあらゆる鳥よりも速く飛ぶことが出来るサンダルだ。今回のように時間が限られている状況ではぴったりだろう。

「じゃあね」

 紫が飛び立つ。

「さ、私もやりますか」

 私も同じ注射器をドライバーに刺す。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『タラリア!』

 足に翼が生えると同時に、夜の街へ飛び込んでいく。さあ、仮面野郎を探そうか。

 side out


 紫side

 綾と別れてからしばらく経った。今の時刻は・・・午後10時前。ちょうど私の担当地域の半分くらいを回った所だ。ちょうどいいので綾に連絡する。

「こっちは半分ほど回ったけど仮面野郎らしきものは見つからない。そっちは?」

『こっちも同じ。今からもう半分回る所』

「わかった。それじゃ」

『ええ。それじゃ』

 必要最小限の連絡を交わし再び見回りに戻る。

 連絡を15分ほど経った後。私は仮面野郎らしき影を見つけた。綾に連絡する

「仮面野郎らしき影を発見。今から確認する」

『そっちも?』

 そっちも?ということはあっちも見つけたのだろうか。

「そっちも?って聞くことは綾も見つけたの?」

『ええ。私も見つけたから連絡しようとしてたところ』

「ふむ・・・つまりこれは」

『ええ』

「二人それぞれで戦うということだね?」

『相手が本物ならね』

「じゃあ今から確認するね。本物なら連絡しない。OK?」

『OKよ。こっちもそうするわ。あ、仮面野郎は仮面かコート、又は両方が本体の可能性があるから気をつけて!』

「わかった。それじゃ」

『ええ』

 連絡を終わらせて、仮面野郎らしき影を確認する。・・・厄介だな。気を抜くとすぐに視界から消える。いや、気に留めることができなくなる。これが噂になっても騒がれない理由か。だが私にとっては違う。噂を知っていればこんなことをする時点で犯人だと言っているようなものだ。一応外見も確認する。嘴付きの仮面、全身を覆うコート、間違いない。こいつが仮面野郎だ。近くに人はいない。

「ねえ」

 声をかける。

 side out


 綾side

「ねえ」

 ーーー紫が仮面野郎に声をかけたのと同時刻。近くに人がいないのを確認して私も仮面野郎に声かけた。

「・・・・・・」

 反応はない。というわけで仮面を剥いでみる。嘴を掴み引っ張るが取れない。どうやら顔にくっついてるようだ。ついでにコートも剥いでみる取れない。なんかくっついてるみたいだ。

「何をしているんだ君は?」

 仮面野郎が声をかける。どうやら私のしていることが気に障ったようだ。

「あなたの仮面とコートを剥ごうと思って」

「君が何をしているかではなく君が何故私の仮面とコートを剥ごうとしているのかを聞いているんだが?」

「だって、あなた仮面かコートで人を包むことでその肉体を乗っ取ってるんでしょ?じゃあ取らないと」

「私がこの仮面やコートに乗っ取られている?冗談だろう?頭でもおかしいのか?私は普通の人間だよ」

「逆に聞くけど、普通の人間は意識しても気に留めるのが大変なほど存在感が希薄なのかしら?あり得ないわよね。じゃあやっぱ仮面が乗っ取ってるんじゃない」

「ふむ、なるほど。確かに君のいう通りだ。訂正しよう。確かに私は一般人ではない。しかし身体構造は普通だ。そしてこの格好は私の一派の格好だ」

「・・・へえ。じゃああなたは何者?私の姿を見ても動ぜず冷静に対応してる時点でおかいしいよね?」

「私は魔術師だ」

「へえ、魔術師。では魔術師さんが何の用でここに?それにあなたみたいな格好のやつがいま噂になってるんだけど?」

「その二つの質問の答えは一つだな。私達は儀式をしているんだ」

 私達。仮面野郎はそう言った。つまり、仲間がいる。紫のとことあわせて最低二人以上か。会話を続ける。

「その儀式が最近よく出る白骨死体と関係あるのかしら?」

「その答えはイエスだ。彼らは生贄なのだ」

「生贄?」

「普通なら教えないが私が君に動じないように君も私に動じてないからな、君もおそらく『こちら側』だろう、だから教えてやる。私達は怪異を呼び込むための儀式をしている。彼らはそのための生贄だ」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーこいつは、いま、なんて、いった?怪異を、呼び込む?

「怪異を、呼び込む?」

 自然と口から漏れ出た。

「ああ。最近怪異が減っているだろう?私達は人が怪異によって呼び起こされる恐怖をエネルギーとしているんだ。しかし怪異が減ったらエネルギーが減る。それは困る。だから怪異を増やすんだ。彼らもそのための生贄となって喜んでいるだろう」

 巫山戯るな。怪異を、呼び込む?エネルギーの為に?巫山戯るな、巫山戯るなよ!私の中で何かが切れた。心が急速に冷えていく。表情が消える。「ーーーそう。あなたは怪異を呼び込むことにも、生贄を使うことについても、何も感じてないのね」

 声が平坦になる。

「ああ。逆に何を感じるんだ?君だってそうだろう?」

「いいえ。私は怒りを感じるわ。かつてないほどに」

「何故だ?何故怒る?」

「ーーーそれがわからないならあなたは人間じゃない。怪異よ。だから私がーーーー破壊する」

「なっーーーー何を言っているんだ君は?私が怪異?私を、破壊する?何故?私はただ私達に必要なことをやってるだけでーーー」

「うるさい」

 魔術師野郎の体を掴んで地面に押し倒す。

「ガッーーー」

「あなたに必要かどうかなんて関係ないわよ。ただあなたが怪異をよび、その為に躊躇なく一般人を犠牲にするという行為を持って、私はあなたを怪異と捉える。残念だったわね、私がこの街の怪異を減らしてる原因よ」

 力を込める。

「グッ・・・君が、貴様がそうなのか!だが貴様は何故怪異をそこまで憎む!?何故私を殺そうとする!?」

「簡単よ。私は怪異に家族を奪われた。そして、こんな思いを、もう誰にもさせたくないからよ!だから私は、怪異を全て破壊する。全てが消えるまで。だから、怪異を、呼び込み、増やそうとするあなたは、お前は、私が完全に破壊する!」

「貴様は狂っている!たかだか怪異への復讐の為に無関係な人を殺すのか!?人を!」

 更に力を込める。

「言っているでしょう。あなたが躊躇なく一般人を犠牲にして怪異を増やそうとした時点で、もう人じゃないのよ。人は人を殺せる。それは事実よ。だけど、躊躇なく人を殺せるモノが人な訳ないでしょう。それはただの怪異か、化物よ」

「ええい、貴様の論説に付き合ってられるか!:@mqlzm@vrvr!」

 魔術師野郎が理解出来ない言葉を唱える。瞬間、私の体が吹き飛ぶ。

「はは、どうだ!じゃあな!mpwpu(@m#w)!」

 魔術師野郎が逃げる。魔術師野郎は歩いているように見える。しかし、追いつけない。・・・なるほど。これが噂の真実ね。相手が歩いているのに追いつけないんじゃない、私の速度が遅くなっている上に、相手の速度が速い。幻覚もかけているのだろう。これでごまかして曲がり角で消えるーーーハハッ。こんな手品が通用すると思ったのだろうか。

 タラリア。あらゆる鳥よりも速く飛べるサンダル。つまり、これは最速で飛べるのだ。走るのではなく。だから、上空に飛ぶ。やはり地面周りの空間が奴の魔術とやらの効果対象なのだろう。速さが元に戻る。見つけた。魔術師野郎の背後に降り立つ。

「ハァ、ハァ・・・これで逃げ切れたな。ハッハッハ、ザマアミロ!アホめ!」

「誰がアホだって?」

「そりゃおまーーーなっ!?」

「お前を破壊する」

『セット!』

『ブレイク!』

『タラリア・エンド!』

 瞬間。足の翼が無数の鳥へと変化する。

「啄め」

 鳥が奴の体に群がり、啄ばみ始める。

「ヒィッ・・・痛い、痛い・・・!」

「お前は人を殺しすぎた。それでも足りないくらいだが・・・続きはあの世で支払え」

「お、まえ・・・私を殺しても、私の仲間が・・・ガァッ!」

「知ってるよ。私にも同業者がいてね、そいつは絶対にお前らを殺さない。絶対に生け捕りにする。なら、そいつから全てを聞き出してお前ら全員を破壊するだけだ。・・・じゃあ、終わりにしようか」

「なっ・・・!?」

 魔術師野郎の体を啄んでた鳥達が上昇する。高く高く。高く高く。そして鳥が消失し、私の足に戻る。私は高速で上昇、落下を始めた魔術師野郎に狙いを定め、急降下を開始する。

「ハァァァァァァ・・・・!」

 気合いを込める。

「地獄の果てまで、落ちるがいい!」

 私の高高度からの飛び蹴りが魔術師野郎に当たる。魔術師野郎が断末魔すらあげずに消失する。全てをタラリアに喰われたのだ。

「っと」

 魔術師野郎を喰った後、地面に着地する。念のため、空の注射器で魔術師野郎の残存粒子を吸収、消失させる。

「これで終わりだ・・・」

 しかし、魔術師野郎共の件は終わっていない。急いで紫のところへむかうとしよう。

 side out

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