第3話 魔人と二人の子供

 太陽が青空の真上に上がり、そろそろお腹が鳴り出す時間。俺とフィレアは旅初の街ニーベルンまであともう少しという所まで来ていた。

 あの盗賊の一件以来、魔物などが現れることも無く、フィレアのイチャイチャに構ってあげられるほどだった。

 そのフィレアはと言うと、俺の肩ですやすやと寝息をたてて昼寝中だ。


「フィレア、そろそろ着くぞ」


 俺が優しく声をかけるとフィレアは目を擦り中がら着いたら教えてと、俺の膝を枕にしてまた眠り始めた。



 *******


 

 それから数分後、俺とフィレアは街の前まで行くと、街の門の前にいる兵士に目がいった。

 普段、門番兵はできるだけ軽めなプレートと腰あて、そして片手剣を越しに装備しているのだが、俺たちの目の前には重々しい装備で身体を固めていた兵士が2人いた。


「フィレア、起きろ」


「・・・・ん~、着きましたか?」


「あれ、なんかおかしくないか?」


「何がですか?」


 フィレアは目を擦りながら体を起こした。

 俺は兵士を指さす。


「あの装備、街に何かあったとしか思えないだろ」


「・・・・魔物、ですかね?」


「聞いてみるか」


 俺とフィレアは馬車から下りると馬車を引いて2人の兵士の元に向かった。


「・・・・っ!?誰だお前は!」


 俺達に気づいた兵士は左足を引き剣に手をかけると臨戦態勢に入った。


「俺達は商人だ、これを見ればわかるか?」


 俺は首元から金色のタグを取り出した。

 これは商業ギルドに登録すると必ず貰うことができるタグで、自分の名前と経営する店の内容が書かれている。


「・・・・なんでも屋か、偽物ではないみたいだな」


「それで、この街では何かあったのか?」


 俺が真剣な顔でそう聞くと兵士は深刻そうに答えた。


「つい2日前、この街に魔人が攻めてきたんだ」


「魔人か・・・」


 魔人それは魔物よりも知能と無限に等しいほどの魔力を持ち、魔人一体大きな街ひとつが潰れる程の力を持っている。普通大きな街は結界を張っているのだが、魔人はそれを楽に破壊できる。魔人は繁殖能力はほぼないが、ここの力が強すぎるため、約1000年前は5人の魔物でこの国が消されかけたそうだ。


「何とか、この街にちょうど来ていたSSランクの冒険者2人によって魔人を追い出すことができたが、街は半壊し、死人も大量に出てしまった」


 SSランク2人でも討伐は出来なかったのか・・・

 SSランクはXSランクの1つ下で、ある程度の魔物は1人で討伐することが出来る力を持っている。

 俺が魔人を知ったのは16の頃、親父が現役時代に魔人と戦ったことがあるというのを聞いてその存在を知った。英雄と呼ばれた親父でも魔力を全て使い切っても魔人の体力の半分も削り切れなかったという。


 俺達はそんな街の状態でなんでも屋初の街ニーベルンに歩みを進めた。


「・・・・っ!?」


 俺達は街を見て言葉を失った。

 入口から長く続いている住宅街は形が残っているものが3つほど残っているだけで、その他は全壊していた。

 辺りからは子供たちのなく声が聞こえ、家が無くなった人々はボロボロの布を地面に敷いてその上で横になっていた。


「ここまでやるのかよ・・・」


 俺はこの時、街をこのようにした魔人に酷く怒りを覚えた。

 女、子共見境なく命を奪い、家だけでなく心までもボロボロにした魔人共が許せなかった。


「アーシャさん、どうしますか?」


「子供がいる家を優先に食べ物を配る。けが人がいたらフィレアの治癒魔法で治してあげてくれ」


「分かりました」


 俺とフィレアは馬車を進めながら子供のいる家族から順に食料を配り始めた。

 ちょうど最後の家族に食料を配り終わった時、10歳ほどの少女が赤ん坊を連れて俺たちの元に歩いてきた。

 周りを見渡すが親がいないようだった。

 フィレアは話しやすいように、子供の目線に合わせてしゃがむと、優しい声で喋り出した。


「どうしたの?お父さんとお母さんは?」


 フィレアがそう聞くと、少女は首を横に振った。


「はぐれちゃったのかな?」


 次に俺がそう聞くと、少女はさらに首を横に振り、崩れた家屋を指さした。少女は一言も喋らなかったが、俺は言いたいことが分かった。


「分かった・・・お腹すいてる?」


 女の子は食い気味に縦に首を振った。


「よし、そしたらその子はそこのお姉さんに預けて、俺と一緒にご飯食べよっか」


 俺が優しく微笑むと、少女は頬を赤らめて頷いた。

 俺は女の子と手を繋ぎ、後ろに止めてあった馬車の荷台に座らせると、パンとフルーツ、俺が魔法で即座に温めたホットミルクを少女の前に置いた。


「これ、全部食べてもいいからね」


 俺がそういうと、少女は物凄い勢いでパンを食べ始めた。

 途中で少女が喉に詰まらせそうになったので背中をさすってあげ、ゆっくり食べなと声をかけた。



 *******



 数分後、少女は俺が出したものを全て平らげた。


「お腹いっぱいになった?」


 そう聞くと、少女は初めてうん!と声を出して頷いた。


「そっか、なら良かった」


 すると少女は突然、目元に涙を浮かべて俯いてしまった。

 これもまた、聞かずして理由がわかった。

 俺は少女をそっと抱き寄せると、背中をさすった。少女は俺の腕の中でわんわんとないた。

 その声を聞いたのかフィレアは赤ん坊を抱きながらどうしたの?と荷台を覗いてきた。


「ずっと不安だったんだろうね、その子を守らなきゃ行けないっていう正義感と、両親がいないという寂しさが、この子の心を縛り付けてたんだと思う」


 いくら大人とはいえ親という存在は偉大なものだ。その2人がいなくなれば誰だって不安にもなるし、強がる。

 それがこんな少女に降りかかった。

 まだ産まれて数年という命、心も成長し切ってはいないのにこのようなことが起きてしまうと、大人になってもその恐怖感がこの子に付きまとうだろう。

 魔人という手によってこんな幼い子供が体だけでなく心までもズタズタに引き裂かれたのだ。


 少女は数分間泣き続け、そのまま泣き疲れたのか俺に抱きついたまま寝てしまった。


「アーシャさん、この子達どうしますか?」


 フィレアは深刻そうな顔で俺に言った。


「このまま孤児として預けるとしても、今このような状態だとどの家族も受け付けないだろうな」


「私たちで引き取る・・・」


「やっぱりそれが1番無難かもな」


 この子達が成人を迎えるまでは必ず親の手が必要になる。そこを考えると俺達が引き取るのが1番最善な策だと言えるだろう。


「この子にも聞いてみるか」


「そうですね」





 なんでも屋の始まりがこうなることは誰も予想はしていなかっただろう。

 だが、今この街にはアーシャ達の手助けが必要だ。少なくとも、なんでも屋としての役目は果たせそうだった。


────が、この後さらに、この街を悲劇が襲う。




 *******


 投稿まで日が空いてしまいすいませんでした。

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冒険者パーティーをクビになったのでお嬢様と一緒になんでも屋を開きます @sasaki_kure

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