操縦権? 私の物です!

sadistic solid sun

Trochilidae

 自販機に紙幣を入れ、青地に白縁の青と赤の混じった円が描かれた清涼飲料水を選択する。この有名なマークは難解な数学的手順を経て描かれる、と本で読んだ事ある。

 出てきたペットボトルとお釣りを取りだし、右に、きた道を戻る。

 窓から陽光が射し込む白い通路を進み、SCTF指令待機室に入った。

 入り口そばのコーヒーメーカーに備え付けられた紙コップを一つとって、椅子に座る。

 お釣り、ジュース、紙コップを机に置く。


「マイフレンド。そいつは何だ?」


 向かいに座っている男が片方の眉を上げ、ジュースに指を向けながら言った。


「ペプシ」


 それだけ言うとキャップを開け、紙コップにペプシ・コーラを注ぐ。


「解ってねぇぜ」


 ふん、と鼻を鳴らしたその男は、赤いラベルのペットボトルをあおる。喉仏が力強く上下する。


「くぁーっ! こいつが良いんだよぉ!」


 いかにも美味そうにコカ・コーラを飲む男を無視し、そいつの前に置かれた皿からポテトチップスを取って口に放り込んだ。オニオンの旨みの後に、ハラペーニョのピリッとした辛さが口に広がった。


「おい、俺のプリングルスだ。やんねぇぞ!」


 僕におやつを取られまいと騒がしく手を振り回す男。ダニエル・ヘンドリックス。僕の僚機パイロット。


「マニューバの高Gで吐いても知らないぞ」

「うるせえ、んな事にはなんねえよ」


 僕に警戒の目線を送りながら、プリングルスをパクつくダニエルを尻目にニュースを見る。

 我が偉大なるアメリカ合衆国に喧嘩を売ってきた国の報道が続いている。お陰さまで僕達は休日返上でここにいる。ダニエルはまんざらでも無いようだが。


「へへ、いつでも来いよ。蠅共が」


 喧嘩を売ってきた国家元首が映ると、ダニエルがテレビに中指を立てて言った。

 好戦的な性格のダニエルの胸には、タキシードの紳士が会釈をし、その正面にマリリン・モンロー似のレディが何人も並んでいた。

 ダンス待ちのレディ達。

 現実のレディ達はダニエルとダンスをして空に散っている。


「そんなに嬉しいか?」


 敵の動向について、軍の広報が色々言っているのを嬉しそうに眺める変人に聞いてみた。


「ん? まだこの戦争は終わらねえ。それだけで嬉しいさ」


 変人。いや、狂人かな? 月でも見すぎたのだろう。


「訳がわからんな」


 僕の罵声を聞いてダニエルは嬉しそうに口角を上げた。

 空になった紙コップにペプシを注ぐと、一口飲む。紙コップに注ぐ事で程よく炭酸が抜け、味がマイルドになる。強い炭酸の苦手な僕はいつもこうして飲んでいるのだ。

 なんの前触れもなくサイレンが鳴り響く。敵さんのお出ましだ。 


《エリアA1-2に敵機確認。ゼファーチーム、ショットガンチーム。出撃用意》


「来客だ。丁重にもてなしてやろうぜ」


 ダニエルが獰猛な笑みを浮かべて立ち上がった。

 隣接したロッカールームで、つなぎのような構造の耐Gフィジカルプロテクトスーツに着替え、ヘルメットを脇に抱えて扉の前に立つ。鏡面に磨きあげられた扉に自分が映りこむ。ゴワゴワしたスーツを着ているので“スモウレスラー”の様なシルエットだ。

 扉が開き、エプロンに出る。

 二機の戦闘機が整備員に囲まれていた。戦闘機は変形デルタ翼にV尾翼、エンジン二基、全体的に角ばった形状をしている。高いステルス性をもつスマートで無駄のないデザインだ。

 僕とダニエルを見つけた整備員が駆け寄って来た。


「機体、エンジン、アビオニクス。その他全てチェック済みです。搭乗して下さい」


 手短に報告を受けると、すでに出されていた昇降ラダーに手をかける。

 寝そべる様にシートに身を預け、ヘルメットを被る。ヘルメット後頭部の端子にシートから伸びるコードを繋げる。

 右側スティックのスイッチを押すと、キャノピー代わりの機首シールドが降りる。

 この機体にキャノピーはない、代わりにCFRP製のシールドがある。シールドを降ろすとコクピットはほぼ真っ暗で、身じろぎするのも難しい。

 左側スティックのスイッチを操作すると、スーツの接続ハードポイントとシートが接続、ロックされた。

 さらに操作し、戦闘機とのリンクを始める。

 体の感覚がなくなり、視界が広がった。


 正面にA滑走路、後ろに整備員、右に戦闘機、左にも整備員、上は快晴、下はアスファルト。

 整備員が離れたのを確認するとプリスタート点検。

 外部電力でエレクトリック・エンジン・スターターを作動させ、回転数を上げる。

 エアインテークから外気を取り込み、コンプレッサーがそれを圧縮する。

 アニュラ型燃焼室に高圧圧縮空気が流れ込む。そこに高圧加圧された燃料をノズルから噴射、霧状になった燃料に電気プラグの電気火花を浴びせ点火。イグニッション。

 回転数30%へ上げ、更に60%にまで上げる。異常なし。


 回転数15%-IDLE


 エルロン、フラッペロンを上下に動かす。

 ラダベーターとスタビライザーを兼ねる全遊動式尾翼を動かす。

 スポイラーをバタバタとたてる。

 三次元推力偏向パドルをぐるりと一周させる。

 今、自分は最新鋭ステルス戦闘機ハミングバードになっている。

 パイロットはこの機体とリンクして、機体を自身の体のように操縦できる。従来のスティック等を使用した操縦に比べ、より高度な動きができ、脳で直接動かすためラグもない。

 現在もっとも優れた操縦方法を採用している。

 各種電子装備、油圧系、燃料系等が自動でチェックされる。機体の状態も全てハミングバードの搭載コンピュータが行う。パイロットは面倒で忙しい事をする必要はない。

 普通のパイロットなら、愛機ぐらい自分で確認しろ。と言うかもしれない。

 けど、その愛機がオーケーだと言っているのだ。それを信じるのが当たり前だ。


《ゼファーチーム、こちら地上管制。聞こえるか?》


 無線が入った。チャンネル諸々も、ハミングバードの自己判断能力を備えた中枢コンピューターがやってくれる。ダメ男製造機である。


「聞こえる」


《離陸にはA滑走路を使用。離陸後の指揮は早期警戒管制機に移る》


「了解」


 パーキングブレーキ-OFF


 ノーズランディングギアを操作し、滑走路に出る。

 正面に長大な滑走路がくると通信が入る。


《ゼファーチーム、離陸を許可する》


 出力-ミリタリーパワー


 機体が滑走を始める。

 フラップを下げ、ラダベーターを上昇のため角度を調整。


 アフターバーナー-ゾーン1


 短い滑走で飛び上がる。ランディング・ギアを収納。

 ピッチを10度にして緩やかに上昇。


《ショットガンチーム、滑走路侵入を許可する。続けて離陸しろ》


《ゼファー1、高度制限解除。グッドラック》


 右後方にダニエルの機が上昇して来るのが見えた。

 さらにその後ろにショットガンがいる。

 ゼファー2が速度を上げて僕の左20m後ろにつき、ロッチ編隊。

 ショットガンはフィンガー・フォー編隊。


《各機、こちらAWACS ボーダーライン。君達には先行して敵編隊を叩いてもらう》


 上空には僕とダニエルのゼファーに、四機編隊のショットガン。計六機のハミングバード戦闘機が敵機迎撃に上がっている。見えないが早期警戒管制機もいる。

 ボーダーラインは確か、民間の超大型四発機ベースの最高性能の機体だ。


《敵機 方位:280、距離:420km、高度2500m、接近中。AAM-99の有効射程内まで超音速で接近、撃破しろ》


 高度8000m、指示通りに巡航速度M2で超音速航行。

 機体下部カメラで見える海が高速ですぎ去っていく。

 クルーズ中のハミングバードパイロットは暇だ。機体が全てやってくれる、パイロットは遊覧飛行気分でいればいい。

 レーダーを超長距離探知モード。ルックダウン。

 レーダーに敵が引っ掛かれば長距離ミサイル、中距離ミサイル、近距離ミサイルと距離別でミサイルを撃てば良い。近頃の空戦は昔ほど派手じゃない、地味なものだ。

 しばらく銀色に輝く海面を眺めていると、パルスドップラーレーダーが敵機を見つけだす。


「こちらゼファー1、コンタクト。攻撃する」


 FCS-ON

 マスター・アーマメント-ON


 翼追加パイロン、ウェポンベイに取り付けられたミサイルに通電。

 兵装を選択。


 RDY AAM-99 Lomgbow - 4


 敵機四機をロック。

 FCSが情報を処理、各ミサイルに目標を割り振る。

 四発の長距離ミサイルを同時発射。かすかな振動。

 白い尾を引いて飛び去るロングボウ。

 追加パイロンをパージし、ステルス性保持にため接続部のカバーパネルが閉じられる。

 ハミングバードから照射され、目標から反射した反射波をロングボウ搭載レーダー・シーカーが受けとると、反射源に向かってM6近くの高速で突っ込む。

 目標が近づくと、ロングボウの誘導が中間誘導のセミ・アクティブ・ホーミングから、終末誘導の赤外線ホーミングに切り替わり、敵機の放つ赤外線を追い始める。

 レーダー上の敵機が散開。敵機回避運動。

 着弾まで3、2、1...。

 着弾。

 命中4。


《こちらボーダーライン。敵機撃破を確認》


「あっけねな」


 ダニエルが嘲笑する。


《各機。帰投しろ》


 ボーダーラインの指示に従い、機体を緩いバンク角で旋回。

 帰投しようとした時、ミサイル警報装置が警告を通知。


「こちらゼファー1。ミサイル。敵機は?」

「こちらショットガン3。俺もだ」


 無線に次々と報告が上がる。

 レーダーに反応はない、敵は非ステルス機とステルス機の両方がいた? なぜ?


《こちらボーダーライン。敵機を捕捉できない。敵はステルス機である可能性が高い》


 フレアを撒いて右にブレイク。敵ミサイルはフレアの方へと飛んでいった。


「ボーダーライン、こちらゼファー1。どうすればいい?」


 思案中なのか応答が遅い。


《各機。こちらボーダーライン。敵は新型ステルス機と思われる。旧式の中距離ミサイルはダメだ。短距離ミサイルを使用しろ》


 つまり、接近しろと言うことか。

 旋回し、ハミングバード6機で編隊を組む。

 レーダーを短距離探知モード、赤外線探知モードに変更。

 追撃がこないので、相手のレーダーにもこちらは映っていないようだ。お互いに見えない敵と戦っている。理論上でしかなかった現代航空戦の現実が、今、この空にはあった。

 全周囲カメラでも警戒を行い、かなり近づいてからレーダーが敵機を探知。


「こちらゼファー1。二時方向に敵機」


 敵は真っ直ぐこちらに向かってくる。


《ショットガンチーム、ゼファーチーム。ドッグファイトになる気を付けろ》


 中枢コンピューターの自己判断でレーダーがスーパーサーチモードになり、目標を捕捉。

 短距離ミサイルAAM--110に敵機情報をインプット。


 RDY AAM-110 Rinkhals - 4


 ウェポンベイを開き、ランチャーをせりだし発射可能状態へ。AAM-110の接続コードを外し、母機と切断。

 リンカルスのロケットモーター内点火装置が作動。過塩素酸アンモニウムが燃焼し、アルミが熱量を高める。高圧燃焼ガスがノズルから吹き出し、ミサイルに推進ベクトルを与える。莫大なエネルギーを得たミサイルは、母機からの情報と、シーカーに映るIRパターンを頼りに敵機を仕留めんと加速する。


《ゼファー1、FOX2》


 すぐさまウェポンベイを閉じて上昇。敵は左に大G旋回。敵の放つフレアを無視してミサイルが追い詰める。

 有効射程に入った途端、ミサイル先端部が炸裂。弾頭部搭載フレシェット弾が敵機をズタズタにし、ミサイル本体が爆発。

 ミサイル発射から数秒でバラバラになり墜落する敵機を見届けると、状況を確認する。

 1km程先で、ショットガン1,2,3,4が敵三機とローリング・シザースで後ろを取り合っている。ゼファー2が二機と交戦中。

 ゼファー2は右500m先、右翼端カメラで見る。

 敵一機を後ろから追っている所だった。そこにもう一機がゼファー2の左上から急速降下。機首が煌めく。

 ゼファー2の機体がゆれ、左へブレイク。機首に穴が空いていた。


「ゼファー2、こちらゼファー1。大丈夫か?」


 応答がない。

 だが、ゼファー2の機体は急激な機首上げで下からの攻撃に移ろうとしていた。通信装置がイカれたか、話せない状況かどちらかの様だ。


《ゼファー2被弾。ゼファー1は援護にまわれ》


「了解」


 推力偏向パドルを上に、ラダベーターも上昇の為20度ほど傾ける。敵一機に向けて急速上昇。

 敵機は急降下。お互いに機銃を撃つがあたらない、すれ違う。


「ゼファー1。背後に敵機」


 後部にウェポンベイを開き、ランチャーからミサイルが放たれようとしている別の敵機。

 ロケットモーターを点火した敵ミサイルのシーカーと目が合う。


 アフターバーナー-ゾーン4


 全身の血液が後ろに置いていかれ、シート側に寄る。

 背後からにじりよるミサイルを回避する為、大きなバンク角で左にブレイク。

 脳への血液が不足する。それにともない意識が薄れ、消えた。


 ぼく、私は私自身を守らなくてはならない。

 後ろから追っかけてくるミサイルをフレアとハイGターンでかわす。

 機首を下げて水平飛行。

 私にミサイルを射ってきた機体は後ろに張り付いている。

 機体を左右に激しく振るが敵機は執拗に追ってくる。攻撃に移ろう。

 フラッペロンを下げ、スポイラーを立て調整。高速状態なので動翼の油圧アクチュエータに大きな力がかかるが、12000psiのハイパワーで空気力をねじ伏せる。

 揚力を増した機体が浮き上がり、同時に急激に抗力も増す。

 速度エネルギーを失った私を追い抜く形で敵機とすれ違う。

 上面カメラで敵パイロットと目が合う。驚愕に目を見開いて、こちらを見ていた。キャノピーが無いのに驚いたのか、いきなり減速したのに驚いたのか、もしくはその両方かな?


 アフターバーナー-ゾーン4


 失った速度エネルギーを取り戻す。

 機銃発射の為、パネルを開く。

 わざと外して0.1秒射撃。別に私は人の死体が見たい訳じゃない。

 敵機が警戒すると垂直尾翼辺りに射撃。二枚の垂直尾翼が吹き飛び、きりもみ状態になる。

 しばらくZ軸を中心として回転していたが、キャノピーが吹き飛び、座席ごとパイロットが射出された。


《各機、こちらボーダーライン。敵全滅を確認。今度こそ帰投しろ》


 ベイルアウトしたパイロットが海に落ちる。私を撃墜しようとした奴の顔を見てやろうと、ピッチダウン、緩くバンクして付近に降下する。

 自分を殺しに来たと勘違いしたのか、パイロットが逃げようとする。

 機首を垂直に立て、パイロット正面に回り込む。そこそこ若い青年だった。バイザー越しに青い目がこちらを見ていた。

 右エルロンを上げ、左エルロンを下げて右ロール。

 何度か回るとパイロットに高温の排気が当たらない位置まで移動し離脱、仲間の元へと戻った。


 滑走路が見えてくると出力をおとし、減速する。

 滑走路にアプローチ。

 フラッペロンを下げてランディング・ギアを下ろすと、スポイラーを立てる。

 ピッチアップ。

 グライド・パス、ローカライザーにピッタリと合わせる。

 ゆっくりと滑走路に脚を降ろす。

 オレオ式緩衝支柱のメタリングピンがスッとオリフィスを通り、ミネラルオイルと窒素が圧縮して衝撃を吸収する。

 着陸で沈みこんだ機体がゆっくりと元に戻る。

 大地は私の居場所じゃない、空が私の居場所。また空に上がるまでお休みだ。


 脳が働き、思考がまわりだす。


《ゼファー1、こちら地上管制。聞こえるか? 応答しろ》


 地上管制員の怒号が聞こえた。

 地上管制? 僕は敵の迎撃に上がったはずじゃ。そう思っていたが、自分が着陸している事に気づく。

 いつの間に?


《繰り返す。ゼファー1。聞こえるか?》


 慌てて返答する。


「こ、こちらゼファー1。聞こえます」


《戦闘途中から一切の応答をしなかったんだぞ。どういうことだ!》


 そんなこと僕が聞きたいよ。


《まあいい、詳しいことは後だ。いつものガレージに行け》


 地上管制員が疲れた様子でそう言った。

 ガレージに向かっていると別の滑走路にゼファー2、ダニエルの機体が着陸する。そこに整備員や救急車が駆けつけている。

 右翼端カメラでダニエルの機体をズームする。

 機首に穴が空いていた。整備員がシールドを開け、中のダニエルを引きずり出す。

 まず、ダニエルの上半身が出てくる。そして、酸化したヘモグロビンで暗赤色に染まった下半身が出てきた。

 腰が裂けていた。明らかに死んでいる。あの時、撃たれた時のものだろう。あの時点でダニエルは死んでいた。

 じゃあ、どうやってダニエルはここまでやって来て、着陸したんだ?

 それに僕は一体あの空で何をしていたんだ? 


 ハミングバードを操縦していた僕、わた。

 僕は何を?

 僕が操縦していたのか?


 私? そう私。

 彼は私に気づかない。


 放心した状態でガレージまで機体を操作し、整備員の手を借りて機を降りた。

 スーツとヘルメットを外して待機室の椅子に座り込んだ。

 机の上には食べかけのプリングルスと、炭酸の抜けたコカ・コーラ。

 まだダニエルがいるみたいな、出撃前と変わらない部屋。

 ダニエルがいなくなって、僕も変わった出撃後。

 そんなグロテスクなアンバランスさに吐き気を覚え、僕はハミングバードの元に行く。

 艶消しの黒、抵抗を感じさせない滑らかなボディライン、出撃前も後も変わらないハミングバード。

 そんな彼女に僕は安堵を覚えた。








【下記にF-30Hummingbirdの緒言及び、ゼファーチームに起きた現象について機密を含む報告を記す】







《F-30 Hummingbird》


 ・性能


乗員:1名

全長:19.75m

全高:4.28m

翼幅:13.44m

翼面積:83.08m2

空虚重量:18,900kg

運用時重量:30,100kg

最大離陸重量:41,000kg

動力:HP製F208-200 A/B付きターボファンエンジン 221kN×2

最大速度:M2.64

巡航速度:M2.18

巡航距離:31,000km

実用上昇限度:21,000m


 ・電子装備


アビオニクス:AS/FFTC-90 GE2

レーダー:AS/ALR-122

レーダー警報受信機:AS/AAR--65

ミサイル警報装置:AS/ALE-63

チャフ・フレア・ディスペンサー


 ・リンクフュージョンシステム


 YFS-2 GE4 block 2



 [機体概要]


 高いステルス性、スーパークルーズ能力、高性能コンピューター、新型操縦システムを特徴とする。

 高性能レーダーと高いステルス性により、先制発見・先制攻撃・先制撃破を可能とする。

 構造はセミモノコック構造であり、チタン合金、アルミ合金、炭素系複合素材、樹脂素材等を使用した高強度かつ軽量な構造で瞬間的には20Gの荷重にも耐えうる設計である。パイロットは機体とリンクし操縦するため、キャノピーは廃止されCFRP製シールドとなっている。視野は各分部カメラにより全方位視野を確保。シートは対Gを想定したリクライニングシートを採用。

 ステルス性重視のためレーダー吸収塗料が塗布され、複合素材もレーダー吸収素材が使用される。また、スキンの継ぎ目やウェポンベイ等の前後部は三角形の並んだ形状により、レーダー波の集中を防いでいる。各部カメラのウィンドシールドには金が蒸着され、内部へのレーダー波侵入を防いでいる。

 主翼は変形デルタ翼であり、前縁後退角約45度、後縁前進角約20度。

 また、ステルス性向上のため機体各部の角度は統一されている。

 尾翼はステルス性重視のためV尾翼である。全遊動式であり、スタビライザー、ラダベーターおよびエアブレーキを兼ねる。

 兵装は固定武装の機首機銃、各種ミサイル、各種爆弾によりなる。

 固定武装の六銃身機銃は23×110mm弾を使用。即事射撃のためスピンアップを0.2秒まで短縮、使用弾種は複数種あり任務に応じて変更できる。毎分4000~7000発を発射可能であり、砲口初速約1200m/s、有効射程910mの高初速弾は格闘戦において少ない命中弾で敵を破壊可能。

 ステルス性重視のため発射口はパネルで閉じられ、射撃時のみ展開する。

 各種ミサイルは機体下部、側面のウェポンベイに収納される。収納可能搭載数はミサイルや爆弾の種類による。その他に翼下部ハードポイントに追加パイロンを取り付け、武装を増やす事も可能。追加パイロン投棄の際は接続部カバーパネルがクローズ状態となり、ステルス性を維持する。

 側面ウェポンベイはクイックリリーフ機能を持ち、素早いミサイル発射が可能。

 燃料タンクは胴体、右翼、左翼に搭載。複数搭載されたコンピューターの冷却水も兼ねるため、専用熱交換機がタンク内に取り付けられている。また、コンピューターの排熱はコクピットの暖房にも使用される。



 [エンジン]


 6段式高圧圧縮機を1段式高圧タービンで駆動。3段式低圧圧縮機を2段式低圧タービンで駆動する2軸式ターボファンエンジン。

 スーパークルーズ能力を重視した極めて低いパイパス比により、ターボジェットエンジンに近い性質をもつ。

 燃焼温度、推力偏向パドル等の数百の要素はコンピューターにより制御され、あらゆる状況において最適な状態を維持し、高いパフォーマンスを維持する。

 エンジン始動時には外部電力を使用するが、搭載亜鉛蓄電池でも可能。なお、亜鉛蓄電池は従来のリチウム蓄電池と比較し、小型高出力高容量である。

 エンジン自体は最新鋭耐熱素材および新型冷却システムを採用し、軽量、高出力、抵赤外線放出を実現している。なお、この新素材は推力偏向パドルにも採用されている。

  推力偏向パドルはピッチング、ローリング、ヨーイングの全ての機動が可能であり、低速時高速時問わずに機体に高い機動性を寄与する。



 [アビオニクス]


 アクティブ・フェーズド・アレイ方式のレーダーを採用。周波数は9GHz帯、Xバンド。

 探知距離300kmの長距離探知能力、低被探知、130度のレーダー視野、高い対電子妨害能力、高い電子妨害能力を持つ。

 レーダーにはレーダー視野、探知距離等により多数のモードが存在し、中枢コンピューターに状況により自動で変更させる事も可能。

 中枢コンピューターは主要処理装置と補助処理装置により構成され、自己学習機能が備わり、パイロットを支援する。また、パイロットのクセや特徴を学習し支援を最適化する。

 中枢コンピューターはFCS、フライト・コントロール・システム等と連係し、状況に合わせたコマンドを実行する。

 また、中枢コンピューターには人工知能が搭載されている。これは自己学習機能をより高度なものにするためである。

 アビオニクスの通常電力は地上電力及びエンジン発電機であるが、エンジン停止などの場合はジェット燃料を使用するEPU、もしくは蓄電池から電力を得る。


 [リンクフュージョンシステム]


 通称LFS。

 パイロットの脳にチップを埋め込み、機体とリンクさせるシステム。

 パイロットが脳で直感的操作するため、スティック等で操縦する従来型に比べ訓練期間は長くなるが、より高度な操縦が可能。

 速度、装備、通信等の情報は全てパイロットの脳に直接送られる。これにより、コクピットの計器類等が不要であり、機体軽量化や高い対G装備の使用が可能。



 《機密事項》


 《非公開次項》


 《以下の事実は公開してはならない》


 《LFSについて》


 本システムは高度な操縦を実現するのも目的だが、それは副次的な物であり、パイロットの脳をコンピューターとして使用するのが本来の目的である。

 搭載コンピューターはスーパーコンピューター並の高性能ではあるが、瞬間的判断、柔軟性かけていた。そのため、それを補うために高い瞬間的判断能力、高い柔軟性を持つ人間の脳の使用が候補に上がり、陸軍主導の次世代歩兵システムとの連係により実現した。

 中枢コンピューターとパイロットを主要コンピューターとし、高い演算能力を実現。

 基本的にはパイロットが機体コンピューターを操作するが、パイロットが死亡以外の操縦不能に陥った場合は、機体側が一部脳機能を活性化させ、機体を操縦する。

 この緊急時操縦においてパイロットへの負荷や医学的問題は無い。



《LFSによる機体の機能意識》


 LFSは人間の脳を使用するにあたり、機体コンピューターと人間の脳が一つのコンピューターのように働く、特に緊急時操縦ではその働きが強くなる。

 そのため、〈閲覧済〉の〈閲覧済〉における戦闘に参加したゼファーチームの2名に機能意識が生まれた事が確認された。

 これはパイロット側の別人格であり、ハミングバードとリンクした際のみに現れる人格だと考えられる。

 機体の各コンピューターとパイロットの脳が、一つの脳として別人格を構成している。

 人間で言うと運動野等に機体コンピューター、前頭葉等の感情系や瞬間的な判断をパイロットの脳が担当している。

 この人格は機体を自らの体の様に感じ、高い操縦技術を有する。



《確認された別人格》


 本名     〈閲覧済〉

 コールサイン ゼファー2

 TACネーム  ルナ


 初めて別人格が確認されパイロット。

 敵の機銃により重症をおい意識を失った際に別人格が形成された。この人格はスーツを操作しパイロットを保護しながら戦闘を行った。パイロットは着陸後に救助のため機体リンクを切られると、同時にスーツの操作も失われ死亡した。この際に別人格も失われた。

 この事により、別人格は機体コンピューターではなく、パイロットの脳がコンピューターとの接続等の条件を満たした際に生まれる人格であるという事が判明した。


 本名     〈閲覧済〉

 コールサイン ゼファー1

 TAC ネーム  マイフレンド


 二人目に確認されたパイロット

 交戦中の大Gによる意識喪失時に別人格が形成された。

 着陸後に意識を取り戻したが、本人は別人格の存在は認識しておらず、記憶もない。

 意識喪失時が異常に長かった事から、意識を取り戻した理由に別人格の干渉があったと思われる。

 なお、別人格の性別は女性である。これはゼファー2も同様である。



《F-30 Hummingbird及びLFSの将来性に関する追記》


 F-30のLFSにより得られたパイロット別人格は、機体を最も理解した非常に優れたパイロットであり、今後の軍用機に革命を起こす可能性が非常に高い事をここに記す。



 編集:技術監督官 B・マッケンリー

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