ラブコメを破る者とラブコメを装う者(3)

「──次にカササギさんは彼女が現状を脱するつもりがあるのか、手の差し伸べれば掴むかどうかを勘案するため、ふたたびゲームを持ち出した」


 NGワードゲームでは、彼女が虐待されている現状をどう思い、こちらが相談と救助の仲立ちをした時に、両親を告発できるかどうかを知りたかった。

「大神匡子さんの話を聞く限り、カササギさん、貴方はゲームと称して、その実、やっていたのは虐待を受けている彼女へのカウンセリングだった。NGワードゲームの時のカウンセリングでは『ひぐらしの鳴く頃に』というサウンドノベルゲームを題材にして、彼女が他人を信用し、社会に助けを求められるかを図った。

 ──結果として、彼女は伸ばした手を掴もうとはしない、そう判断した」


 刑事さんは捜査手帳をひらき、別のメモに目を向ける。

「カササギさん、貴方は中々慎重でしたね。大神匡子さんへのカウンセリングの他に御友人に彼女の中学生時代の素行を洗ってもらっている」


 七瀬ちゃんに依頼したのは、中学生時代に同じように虐待されている事実が露見していたのではないか、という推測の裏付けだった。

 両親による虐待を確信したあと、僕は七瀬ちゃんが言っていた先輩の噂のうち、『家族に虐待されていると喚いて児童相談所に怒鳴り込む』という噂が、かなり真実に即したものではないかと踏んでいた。

 となれば中学生時代の時に、あるいは僕の時と同じように虐待された痕を知人にみられ、大きく騒がれた過去があり児童相談所まで訪れたのではないか。しかし大事になっていないところを見るに、その虐待は事件性まで問われなかった。


 その時、僕の脳裏に、やや踏み込んだ解釈が生まれた。

 もしや彼女が日常的に虚言を吐き出したのは、この日が境ではないかと。

 その飛躍した解釈は、残念なことに、七瀬ちゃんの裏付けによって証明された。

 ──大神匡子先輩の告発は〝嘘〟として処理されたのだ、と。

 それを御丁寧にも、刑事さんが補足してくれた。


「彼女は一度、同じように傷を見られて騒がれたことがある。学校側は半信半疑で対応に遅れ、彼女が助けを求めたにも拘わらず、児童相談所に乗り込んできた親の虚言癖という拙い言い訳に押し返されていた。彼女の虚言が加速したのはその頃から。そこで貴方は彼女の評定した。彼女は今の状況に我慢することで耐えしのごうとしている。こちらを一切信用、協力せず、彼女は自分の手を払うと」


 僕は七瀬ちゃんの報告を受けて、思案せねばならなかった。

 彼女への虐待は日常的に起きてる。

 だが彼女はもう社会に救済を求めようとはしない。

 ならば、彼女が再び両親を告発できるように。

 僕は彼女を脅迫することにした。

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