全てを顧みないほどのラブコメ(6)

「──二年B組、大神匡子先輩ッ。一目会った時から、貴女のことが好きになりました。是非付き合って下さいいぃぃッツ!!」

 校舎に轟かせるように叫んだ。


 自慢じゃないけど僕の声はとても通る。校舎にいる人はおろか、その周辺の通行人の耳にまで、僕の先輩への告白は朗々と響き渡って木霊した。

「ごほん。以上、僕のTRUTHでした。それでどうです」

 振り返り、僕は先輩の感想を求めた。

 恋に恋する一介の学生であるなら、少しばかり頬を染めてほしいものだが、先輩の表情はいまこの瞬間をもって、僕の心の裡が読めたとばかりに青ざめていく。


「次で最後です。始めましょう」

「いや。いや、いや」

 先輩はだだをこねる子供のように首を横に振る。

 その拒否反応は、遠く方々から聞こえる声によって更に加速する。他の学生達が僕の告白を訊いて囃したてるように騒いだり、どこが告白現場なのか、多くの人達が野次馬根性を働かせて、ここ部室棟の三階、角部屋の部室に集ってくるだろう。


「残念ながら途中退場は却下だ。貴女は選択するんだ」

 僕は利き手でカードをとる。血にまみれたカードは『スペードの4』。

「これは貴女のカードです」

 もやは震えを隠さなくなった彼女に向かって、血の飛沫と共に投げつけたのは『スペードの5』。最後の勝負は先輩の勝ち。だから質問権は彼女にある。

「ほら、何でも良いです。訊きなさい。尋ねろ。知りたいだろう」

「やめて、もうやめて。わたしはこれで、これでいいから」

「駄目だ。坂を転がる雪石は転がり始めで拾わなければ、雪崩となって降り注ぐ。その時にどう足掻こうが、制止は無理なんだ。──僕がそうだった」


 先輩が顔をあげる。

「あなた、も?」

 僕は笑う。

「残念ながら、それは答えられません。だから挑戦します」


 すばやくナイフを取る。

 瞠目する先輩をみて、僕は笑う。

「貴女を施設に引き連れることは無理なんでしょうね。我慢することで適応してきたんだから。どれだけ説得しようが耳を貸さないんでしょうね」

 僕は先輩に詰め寄る。


「やめて。お願い。わかったから、わかったから」

「だが事が大きくなれば、虚飾でかざることも出来なくなる。継ぎ接ぎだらけの殻ももろく崩れ去る。さあ選択しろ。選択しろ。もはや逃げることは許さない」

「やめて!」

「駄目だ。僕はね、先輩。本当に先輩に惚れてるんです。貴女のような、どうしようもない人間が好きなんです。どうしようもなくなって、もはや世界は暗澹としたものだと沈んでいる人間を崖から突き落として嘲笑うのが趣味の変態なんですよ」

 だからね。

「僕は貴女を脅迫する」


 僕はナイフを逆手に持つ。

「いったでしょう。転がる雪玉は転がるほどに勢いを増す。だから、ここは少し強引な方法で加速させましょう。読者も驚く急展開だ。貴女が向き合わなければならないほど早く。手っ取り早い方法で」

「だめ!」

「いいや、やるね」


 僕はそのまま自分の腹を刺き差した。

 ただひとつだけ想定外だったのが、余りにも勢いよく差したため、そのまま後ろに転んでしまい、ガツンと机の角に後頭部をぶつけたことだ。

(・・・・・・なんというか、僕という人間はいつも様にならないな)

 ああ、だけど。

 これはこれで痛くなくて良いな。

 などと思いながら、意識は霞んでいった。

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