全てを顧みないほどのラブコメ(2)
「お待たせしました」
「待ってないけど」
つつがなく授業がおわり、いつもの放課後。
西日が差し始めた部室には、先輩がひとり読書を嗜んでいた。
僕は彼女の対面に座ると、ぐっと背伸びをする。
「よし。ではゲームをしましょう」
そういうと先輩は訝しげな視線を向ける。
「また何か企んでいるの?」
「まさか。僕はいつだって誠実ですよ」
「そう。それで今日は何を賭けるの」
「賭けませんよ。なにも。今日やるゲームは、その遊びに罰ゲームが内包されているんです。だからそれで充分」
「そのゲームは」
「『Truth or Dare』。海外版王様ゲームみたいなものです。クジに命令者と服従者をいれて引く。命令者は服従者にひとつの問いを投げるんです。服従者は基本敵にその問いに『真実』で答えないといけませんが、もし答えたくない場合は命令者からの『挑戦』を受けなければならない。──よく海外のB級ホラー映画とかで見かけるでしょう?」
「・・・・・・そういうのは見ないけど、以前、流行った恋愛小説にあったわね」
「へえ、読むですか」
「・・・・・・なにか?」
「いえ何も。含みなんてものは一片たりともありません。──それで、やりますか?」
「やるわ」
先輩は即断する。
僕はいつものようにごねると思ってただけに肩透かしにあった気分だ。
「むしろ、貴方が提案しないなら、私から持ち出そうとすら思っていた」
「へえ」
「貴方の目論見がなんで、私に関わってきたかを知りたい」
「嘘をつくかも」
「付かせない。ついたら刺し殺すもの」
先輩はナイフを取り出すと、ドン、と机に突き刺した。
鈍色にひかる刃が、西日にあてられ灼鉄色に染まる。僕はその鮮やかな色を一瞥して、朝から策謀していたもっとも効果的で、尚且つ一番行いたくなかった脅迫方法の布石が、僕等が饗する碁盤の上に置かれたことを確認した。
「いいですね。じゃあコウしましょう。真実を言えず、挑戦になった場合、そのナイフを使うというのは」
先輩、瞳にわずかに動揺の色を浮かべる。しかしすぐに持ち直して了承する。
「いいわ。始めましょう」
こうして僕と先輩の最後のゲームが始まった。
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