度し難いほどのラブコメ(5)

 僕がカードをとり、先輩もとる。

 追放カードは脇に寄せて、最後の審議が始まる。

「・・・・・・・・・・・・」

 先輩は一、二ゲーム目のやり口を変えて、役職を言うことはなかった。

 僕の出方を見ているのだろう。ならば僭越ながら僕から語り始めるほかない。

 ・・・・・・ありがたい。ここまでは予定通りだ。


「──うん。そうだな。先輩は映画は観ますか」

「は?」


 問い返すような声を、僕は気づかないふうを装って話を進める。

「最近映画を観るのにハマってましてね。学校帰りにDVDレンタルで借りるんですよ。新作や誰かに借りられてたり、値段が高くて手が出にくいですけど、旧作なら百円+消費税で一週間観賞できる。新作と旧作の違いなんて、レンタル日が早いか遅いかです。面白さには関係ない。だから面白い旧作を借りに借りて、暇なときは一日中寮で観るんですよ。それで──」

「貴方」

 先輩の鋭い声が制する。

「勝負を捨てたの?」


「まさか」

 僕は不敵に笑う。

「勝負に出たんです。──それでね、今ヒューマンドラマものにハマってまして。たとえば友人の青春ものとか、偶然知り合った人にに助けられる話とか。それから家族ものとかも良いですよね。友達間とのすれ違いからの諍いや、不意に知己を得た人々との関係。それと家族通しが強く絆を結ぶ家族愛。ああいうのを観ていると、なんだか胸がすうっとして、真っ当に生きようと想えるんですよ」

 僕は手振り身振りで語る。

 先輩は胡乱げな視線を投げかけるだけで、むっつりと口を閉じていた。

 だが、人は関心があるものや興味を覚えているものだ。先輩も一切無関心を貫いているようにみえて、また自分に近しい関係性などに、知らず知らず反応を示めしていた。

 

「先輩は、・・・・・・そうですね。家族愛がテーマの作品とかお好きですか?」

 先輩は〝家族〟という語彙に強く引っかかりを覚えているように見えた。なんといえばいいのだろう。どこか顔の表情がぎこちないのだ。多分、顔に表れそうな感情を無理矢理押し込めたような固い表情だ。


「なんでそう思うの」

「そうですね。強いて言えば、先輩の仕草がそう語っていました」

「仕草?」

「そうです。そうです。人間って案外正直な生き物なんですよ。あれは『交渉人』っていう映画で観たんだっけな。交渉人の主人公が立てこもり犯と交渉するんですが、その立てこもり犯の表情や仕草をよんで、主人公は犯人の内心を探るんです。僕も拙いながらそういうことが出来ましてね。先輩の心の裡が読めるんですよ」


「それで家族モノが好きだと?」

「ええ。当たってました?」

「そうね」

 先輩は深く息をはく。

 肺腑にたまった不快な空気を吐き出すように。


「素敵だと思うわ。・・・・・・・・・・・・それで、どうするの。ゲームは継続するつもりはある?」

「勿論ありますよ。僕の役職は『村人』で」



 そういって僕はすっと先輩を指をさす。

「先輩が『人狼』だ」



 


 さて勝負の結果はというと。

 僕が指摘したとおり、先輩は人狼だった。

 さて最後のゲームのあと、先輩はどうして人狼と見抜けたかを問い糾してきた。

 僕は『これこそ先輩の表情を読んだんですよ』と格好つけてみたものの、実をいえば勘だった。なんとなく人狼かな? 程度の当て勘で言ってみただけなのだ。


 まあ言いようによれば、第六感というのは、無意識下に拾い上げた様々な要素を統合して導き出した答えのようなものだ。

 となれば勘も莫迦には出来ない。

 ただ嘘をついて負い目として、もってきた飲食物の数々は新入部員の貢ぎ物として、先輩に捧げることにした。

 

 まあ過程はともあれ、僕は社会調査研究部の部員となり。

 先輩は同校の先輩であり、同部活での先輩にもなり。

 度し難いラブコメは勢いを増していくのである。

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