第512話 お化けと悲鳴


 飛鳥たちは暮らす地域には、二つの小学校があった。


 駅近くに建つ桜聖第一小学校と、神社の側に建つ桜聖第二小学校。

 

 どちらも、創立100年近くなるこの小学校は、昔ながらの趣を残し、街の人々から親しまれていた。


 だが、それでも一時期は、少子化の煽りを受け、第一小と第二小を合併させようという話も立ち上がったこともあった。

 

 だが、その後、桜聖市による子育て改革が功を評し、他市や他県からの移住者が増加。二つの小学校は、今も合併することなく維持されている。


 だが、長くあり続けるからこそ、どちらも、そこそこの年季の入った小学校だった。


 そして、その独特の古さと趣が、お化け屋敷という空間を、より不気味に演出していた。


「な、なんか、すっごく薄暗いんだけどっ!」


 お化け屋敷に入った直後、暗くヒンヤリとした廊下を目にした華が、びくびくと怯えながら、そう言った。

 

 小さい子も楽しめるくらいの、優しいお化け屋敷かと思っていたが、どうやら違ったらしい。


 しかも、薄暗い廊下の奥からは、他の客たちの断末魔のような悲鳴まで聞こえてくる。


「や、やっぱ、でようぜ」


「な、何言ってんのよ、蓮! ここまで来て、戻れるわけないでしょ!?」


 ちなみに『ここまで来て』などと言っているが、まだ校舎に入ってである。


 つまり、全く進んでいない。


「いや、今ならまだ引き返せる! このまま進んだら、もう戻ってこれない気がする!(次の人たちが入ってくるから)」


「戻っちゃダメだって! エレナちゃんは先にいってるんだよ! 年上の私たちが、怖がっててどうるんのよ!?」


「年は関係ないだろ!? 大人だろうが、男だろうが、怖いものは怖いんだよ!」


『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


「「ひぃぃぃ!!!」」


 瞬間、暗い廊下の先から、またもや悲鳴が聞こえた。


 そしてその声は、聞き覚えのある声だった。


「い、今の、エレナちゃん……?」


「だ、大丈夫だよな?」


 双子が恐怖に震えながら、心配する。

 

 どうしよう!!すぐに駆けつけるね!なんて言っておきながら、早くも腰が砕けそうだ!


「華、大丈夫だって。エレナちゃんには、狭山さんが付いてるんだから」


 すると、怯える華を見て、葉月がすぐに慰めた。


 よしよしと、余裕綽々でなだめる葉月は、もはや同級生というよりは、お姉ちゃんだ。


 すると、そんな頼もしい葉月に、華は

 

「わぁぁぁん、葉月~! 今日は、絶対、私から離れないでねっ!!」


 そういって、しっかり葉月の腕に抱きついた。


 だが、まるでカップルか!と言いたくなるような親友との体勢に、葉月は苦笑いを浮かべた。


 男女四人で入ったにもかかわらず、女同士でこれとは。なんと色気のないことか?


「ねぇ、華、抱きつくならに抱きつきなさいよ」


「へ??」


 すると、葉月が華に耳打ちするように、コソッとそういって、華は首を傾げる。


「男子に? なんで?」


「だって、男子とお化け屋敷に入ってるんだよ? 少しは、顔もたててやりなさいって。というか、こういう時は、男子の方が頼りになるでしょ?」


「そんなことないよ! 葉月は、めちゃくちゃ頼りになるよ! むしろ、蓮よりカッコイイ!!」


 双子の弟があまりに情けないからか、葉月の凛々しさが際立ってみえるらしい。


 目を輝かせながら華が力説する。


 だが、どうやら他にも理由があるらしい。

 華は、その後、申し訳なさそうに……

   

「それに私、前に蓮と間違えて、榊君に抱きついちゃったし」


「あぁ……覚えてたんだ、あの時のこと」


 それは、去年の夏休み。


 このメンバーで、遊園地・ラビットランドへ行ったことがあった。

 

 そして、その時に、華は弟に抱きつくつもりが、間違えて、航太の腕に抱きついてしまったのだ!

 

「覚えてるよ。めちゃくちゃ恥ずかしかったし。それに、また、間違えたら、榊君を困らせちゃうでしょ?」


「………」

 

 確かに、相手は、華に好意を寄せていた相手だ。


 あっちは、完全にフラれたと思っているが、また同じような間違いを起こせば、榊を振り回すようなもの。

 

 それを危惧して、華は、絶対に間違えないよう、葉月に抱きついたままでいようと思っているらしい。


「まぁ、華らしいといえば、華らしいけど。でも、榊は、抱きつかれても嫌がったりはしないんじゃない?」


「いやいや、ダメ! 絶対だめ!だから、今日は葉月から離れない!」


 浴衣姿の可愛らしい華が、目を潤ませながら、そう言った。

 

 きっと、この光景を榊が見たら、顔を真っ赤にしているだろう。


 だが、華はこの調子だし、榊もあの調子だし。


 この二人の場合、普通の友達のようにふるまえるようになっただけでも、かなりの進歩なのかもしれない。

 

「はいはい、わかった、わかった。じゃぁ、華は、私が守ってあげるから! とりあえず、いこっか!」


 すると、葉月は華と腕を組んだまま、歩き出した。

 

 せっかく四人で入ったのだし、今は、このお化け屋敷を楽しもう。

 

 ちなみに、このお化け屋敷は、この校舎にあるすべての教室を回り、計8個のスタンプを押して戻ってくることになっていた。

 

 つまり、スタンプを見逃してはいけないわけだ。


 そして、それは、高校生とはいえ、子供心を擽る楽しいゲームでもあった。

 

 そんなこんなで、薄暗い廊下を進むと、一つ目の教室の前に立った。

 

 一年一組と書かれたプレート。


 そして、葉月と華のあとに続き、蓮と航太もその前に立つ。


 さぁ、中にはどんなお化けがまっているのか? 

 

 ――ガラッ

 

 瞬間、閉められた扉が開け放たれた。

 そして、葉月と華が、中を見つめる。


 すると、その瞬間──


「「ぎゃあああああああああ!!」」

 

 と、葉月と華の悲鳴が飛び交った。







*あとがき*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16818093084115936660

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