第511話 順番と意図


「あ、戻ってきた。飛鳥兄ぃ、もうすぐだよー!」


 理久を連れて、お化け屋敷の会場に戻れば、華が『早く早くー』と急かしながら、手を振ってきた。


 どうやら、もうすぐ順番が回ってくるらしい。


 飛鳥は、無事に理久を、あかりへ引き渡すと、その後、華や隆臣に話しかける。


「結局、誰が入るの? 組み合わせは決まった?」


「決まったよー! 私は、蓮と葉月と榊くんと4人で入ることになって。エレナちゃんは、保護者が付き添った方がいいだろうってことで、狭山さんが一緒に行ってくれることになった!」


「え、狭山さん? ミサさんと父さんは?」


「ミサさんは、お化け屋敷、苦手なんだって。だから、お父さんは、そのままミサさんと待機!」


「あー、なるほど」


 まぁ、ミサはミサで、一人きりにはできないだろう。あの美貌だし。


 なにより、エレナは狭山さんにも、よく懐いてるし、無難な組み合わせだろう。

 

「次の方、どうぞー!」


 すると順番が、回ってきたらしい。


 係の人の声に促され、1つ目のグループである狭山とエレナが出発する。


「エレナちゃん! 怖かったら、狭山さんに助けて貰うんだよ!? 私たちも、すぐに駆けつけるからね!」


「マジで、秒で行くから! 走って行くから!」


「え、ダメだよ! ちゃんとお化け屋敷、楽しんできてね!」


 怖いからか、走って向かうなどという蓮に、エレナが、のんびり来い!と返すと、飛鳥は、相変わらずだなーと、微笑ましく思いながら、エレナと狭山を見送る。


 すると、他のメンバーはどうするかと、飛鳥は隆臣を見つめる。


「隆ちゃんは? どうすんの?」


「俺は別に。入ってもはいらなくても、どっちでもいい」


「そっか。じゃぁ、あかりは?」


 すると、飛鳥は、改めて、あかりに問いかけた。


 さっき『あなたと入りたいです』と言われたあと、なんだかんだ、話があやふやになってしまった。


 結局、あかりは、どういうつもりで、一緒に入りたいといったのか?


(やっぱり、理久くんも一緒にってことかな?)


 あかりの返答を、今か今かと待ち構える。

 だが、あかりはあかりで、続く言葉に困っていた。


(ど、どうしよう?)


 さっきは、思わず『一緒に』と言ってしまったが、それは、二人きりで話したいと思ったから。


 だが、ここで、理久を置いていく選択肢はない。

 なら、三人で入ることになるだろう。


「そ、そうですね。理久も」


「姉ちゃん、俺、このお兄さんと入りたい!」


「「!?」」


 だが、その瞬間、またもや理久が割り込んだ。


 そして、このお兄さんと言って、手を繋いだ人物は、なんと隆臣だった!!


「さっき、待ってる時に仲良くなったんだ」


「え! そうなの!?」


 そして、それには、あかりも飛鳥も驚いた。


 だが、それ以上に驚いるのは、手を繋がれた隆臣の方だった。


(俺、いつの間に仲良くなったんだ?)


 確かに、エレナ捜索中は、一緒に待っていた。


 だが、仲良くと言えるほど、懐かれた記憶はないし、、一緒にお化け屋敷に入るほど仲良くなっていたら、あとでドヤされそうだ!!


(なにを考えてるんだ、この子は?)


 飛鳥をトイレに誘ったかと思えば、今度は自分とお化け屋敷に入りたい?


 理久の行動の意図が掴めず、隆臣は、疑惑の眼を向ける。


 だが、自分が理久くんとお化け屋敷に入れば、飛鳥とあかりさんを、二人きりにすることが出来る。


 それに気づくと、隆臣は、この突飛な状況を、あっさり受け入れた。


「わかった。じゃぁ、俺は理久くんと入るから、飛鳥はあかりさんと入れ」


「「え!?」」


 そして、いきなり二人でと言われ、飛鳥とあかりは困惑する。


 なんか、図られたように二人だけにされてしまった!!


 だが、これはどうしよう!?


「えっと……あかりは、俺と二人きりでいいの?」


 迷いながらも、飛鳥はあかりに、ストレートに問いかけた。


 ここで『嫌です』と言われたら、それはそれでショックだが、ちゃんと聞いておくべきだたと思った。


 すると、あかりは


「は……はぃ…っ」


 と、小さくだが、はっきりと声を発して、飛鳥は、不覚にも胸を高鳴らせた。


(二人だけで、入ってくれるんだ……っ)


 自然と頬が緩みそうになったのは、純粋に嬉しいからだろう。


 飛鳥は隠すように口元を押さえた。


 夏祭りというこの会場で、二人きりになることは、絶対にないと思っていた。


 それは、あかりにとっては迷惑だろうし、なによりも、あかり自身が、それを許してくれるとは思えなかった。


 だけど、あかりは、二人きりになることを許してくれた。


 隣にいることを、受け入れてくれた。


 それが、こんなにも、嬉しくて──…



「はい、次の方~」


 すると、また係の声が聞こえて、今度は、華たち高校生組が出発する。


 飛鳥とあかりは、その次だろうか?


 順番を待つ間、とくん、とくん、と鼓動が早まるのを感じた。


 そして、それは飛鳥だけでなく、あかりも同じだった。


 久しぶりに、二人きりになる。


 好きな人と、同じ時間を過ごす。


 それは、底知れない幸福と、甘やかな恥じらいを同時に連れてきた。


 だからこそ、二人は同じことを願っていた。



 どうか、入るまでに


 この胸の高鳴りが、少しでも落ち着きますように──と。



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