第504話 お姫様と虎の尾
「華!!」
不良たちの元から去った後、体育館付近には、華の友人たちが、わらわらと集まった。
先に葉月が現れ、華に抱きつくと、華も、ほっとしたように葉月に抱き返す。
「うわぁぁぁん、葉月。怖かったよ~」
「もう、何があったのよ! ていうか、なんで
「あ、それは」
神社にいて、トイレに行ったはずの華。
それが、なぜか小学校でピンチに陥っていた。
すると、その理由をすぐさま察したらしい。
葉月と一緒にやってきた蓮が
「エレナちゃんがいると思ったんだろ」
まるで、華の心を読むように、ピタリと当て、華は関心する。
こういう所は、やっぱり双子だ。
というのも、蓮は蓮で、航太と一緒に迷子放送を頼みに行った後、華と同じようにエレナの計画を思い出したのだ。
その後、体育館裏に向かう途中で、葉月に遭遇。
しかも、華達が大ピンチたというから、大忙しで駆けつけた。
だが、どうやら事件は解決したあとだったらしい。
華とエレナの側には、誰よりも頼りになる神木家のお兄様がいるのだから──…
「兄貴が、助けてくれたの?」
「うん。怖いお兄さんたちに絡まれてたんだけど、飛鳥兄ぃが来たとたん、震えだして土下座してた」
「え? なにそれ?」
「なんか、お兄ちゃんの後輩だったみたい……というか……飛鳥兄ぃ、あの人たちに何したの?」
「ん?」
急に話を振られ、飛鳥は首を傾げる。
何をしただなんて、心外だ。
あれは完全に、正当防衛なのだから。
「別に。殴られそうになったから、ねじ伏せただけだよ」
「ね、ねじ伏せた!?」
「うん。しかも俺、あの頃、よく隆ちゃんと一緒にいただろ?」
「え?」
確かに、高校時代の兄は、よく隆臣さんと一緒にいた。
だが、それとあの不良たちと一体何の関係があるのか?
すると飛鳥、にっこり笑いながら
「あいつらさ。生徒会室に来るなり、なんて言ったと思う? 『お前なんて、空手部の主将(隆臣)が横にいなかったら、何もできねー、弱っちい男なんだろ』って。しかも『顔しか取り柄がない、お姫様』だとか『女顔が、女を口説いてんじゃねー』とか『ブサイクになるまで、顔ボコボコにしてやる』とか言い出して」
「………」
「流石の俺もカチンときちゃってさ。なにより、俺はあの人の彼女を口説いたことはないし、告白もしっかり断ってるわけだし。なにより、弱くないし、隆ちゃんがいなくても、お前らくらい余裕で潰せるわって思ったから、それを教えてあげただけだよ」
ニコニコと笑顔を絶やさず、それでいて、さらっと答えた飛鳥に、双子は蒼白する。
確かに、隆臣さんは、空手部の主将だった。
しかも、都大会で優秀するほどの実力があり、めちゃくちゃ強い!
そして、そんな隆臣さんと、兄はよく一緒にいた。
しかも、兄は美人で華奢で、しおらしい見た目をしているため、横にいる隆臣さんは、自然とボディガードのように見えたのだ。
そして、それはまさに、お姫様に仕える騎士!
もしくは、お嬢様を守る敏腕執事!
だからか、あの不良たちが、勘違いするのもわからなくはなかった。
だが、か弱そうなお姫様は、決してか弱くはなく、心理戦と護身術を駆使した、えげつない攻撃を仕掛けてくる魔王だった。
そして、そんな兄に、『女顔だ』といじっただけじゃなく『お姫様』に『弱っちい』さらには『隆臣がいなきゃなにも出来ない』とまでいわれたら、虎の尾と、龍の髭と、地中に埋まった地雷を、三つ同時に踏み抜いたようなものだ。
つまり、完全に逆鱗に触れてしまったのだろう。
(……だから、あんなに怯えてたんだ)
(相当、しぼられたんだろうな)
そして、当時の不良たちのことを考え、双子は青ざめた。
兄を怒らせるなんて、馬鹿なことをしたものだ。
もう、ご愁傷さまとしかいえないが、それでも兄は何も悪くないし、完全なる正当防衛だろう。
しかし、そんな兄にまんまと反撃され、その上、恐怖の対象である兄と、こんなところで最悪な再会を果たしてしまうなんて、その不良たちの運が悪さに嘆息する。
やっぱり、悪いことはするべきではないということだ。
いつか必ず、こう言う、しっぺ返しがやってくる。
「それはそうと、兄貴、よくここがわかったね?」
「そうだよ! 昔から、私たちが隠れると、すぐに見つけてたけど、もしかして、エスパーなんじゃ!?」
すると、華と蓮が、また話を戻した。
幼い頃から、かくれんぼをすれば、いつも兄に見つかっていた。だが、今回もとは!
しかも、華がエレナの元に来てから、そう時間は経っておらず、スピーディーに解決してしまった。
多分、エレナが消えて、見つかるまでに要した時間は、ざっと30分くらい。
そんなわけで、早々に見つけた兄に、まさか、超能力者なのでは?!と華が疑い出せば、飛鳥は呆れたように
「そんなわけないだろ。あかりから電話があったんだよ。泣きそうな声で」
──早く行ってあげてください。
そう言って、震えるあかりの声が、脳裏によみがえる。
あの声を聞けば、どれほど心配しているのかが、よくわかった。
(でも、まさか、俺にかけてくるなんて……)
そして、助けを求めた相手が、近くにいたはずの隆臣ではなく、自分だったことに、自然と頬が緩む。
あかりが困った時、無意識にすがりつきたくなる相手が、自分であったこと。
それが、純粋に嬉しかった。
だが、これに関しては、自分が小学校にいて、一番華たちに近かったからというのもあるかもしれない。
ぬか喜びで終わりそうで苦笑いもするが、それでも、頑なに連絡をとらないという自分の意思をぬじ曲げてでも、あかりは、華とエレナのために電話をかけてくれた。
自分の大切な人たちを、変わらずに、大切にしてくれる。
そんなあかりの姿に、胸が熱くなった。
(……早く伝えてあげなきゃな、あかりにも)
そして、今も心配しているだろうと、あかりのことを思う。
だが、その前に──
「エレナ」
「……っ」
瞬間、飛鳥は、エレナを見つめた。
あの後から、エレナはずっと黙ったままで、色々あって、落ち込んでいるのかもしれないと、飛鳥はエレナに呼びかけた。
だが、腰を落とし、目線を下げたのは、飛鳥なりの配慮だったのだが、あまりにも真剣な目で見つめられたからか、エレナは、表情をこわばらせた。
さすがに、怒られると思った。
こういう時の飛鳥は、ミサが怒った時の雰囲気と、とてもよく似ているから……
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