第503話 罰とアドバイス
「さっき言ってただろ。先輩の言うことは、絶対だって──」
表情は女神のように美しいのに、その言葉は悪魔のようで、男たちの顔からは限界まで血の気が引いていく。
だが、確かに言ってしまったのだ!
『先輩の言うことは絶対だ』と。
だが、まさか、あの言葉が、こんな形で返ってくるとは思わなかった!
「あの、それは……っ」
「世間の常識なんでしょ? じゃぁ、俺の言うことも聞くってことだよね。君たちの先輩だし」
ニコニコとまぶしい笑顔が、弱りまくったハートを、ぐさりと突き刺す。
もはや反論のしようがなかった。
そして、敵に回してはいけない人を敵に回してしまったと改めて理解した男たちは、かなり脅えていた。
一体これから、どんな無理難題が飛び出すのか!?
「ていうか、先輩だって脅して、俺の妹に何をしようとしてたの?」
すると、飛鳥がさらに問いかけた。
これはある意味、禁断の質問だ。
返答しだいでは命がない。
「あの、えーっと…っ」
「言っとくけど、嘘をついても華に聞けばわかるからね」
「そ、そうですよね。あの……祭りを一緒に、まわりたいなーと」
「うん、それだけ?」
「そ、それだけじゃ…ないです……あわよくば、彼女になれと」
「……………………」
うわ、怖い!!
そして、沈黙が長い!?
でも、そうなるよな!?
脅して彼女にしようだなんて、やってることがクズだし!?
「あ、あの神木先輩! 本当にすみませんでしたぁ!」
「俺たち、もう二度と、こんな卑怯なことはしません!!」
「心を入れ変えて、真っ当に生きます! だから…ぐすっ、許して…ぐずっ、くださいッ」
(……なんか、俺がイジメてるみたい)
そして、口々に反省の言葉を述べつつ泣き始めた男たちをみて、飛鳥は複雑な表情を浮かべた。
(なんで、こっちが悪役みたいになってるんだろう?)
というか、何も言ってないのに、勝手に反省して、勝手に改心してしまった。
「あの、飛鳥兄ぃ。もう、そのくらいにしてあげたら?」
すると、流石に可哀想だと思ったのか、華が憐れむようにそう言った。
「すごく反省してるみたいだし、私もエレナちゃんも怪我はなかったし。それに、みんな心配してるから、早く戻ろうよ」
相変わらず、優しい妹だ。
だが、確かに、こんなところで説教をしている場合ではない。
エレナが行方不明になって、みんなが必死になって探している。
特にミサさんは、泣きながら探していたわけだし。
「確かにそうだね」
((ゆ、許して貰えた! ありがとう、華様!!!))
そして、目の前の悪魔とは違い、華が天使に見えたらしい。男たちは、キラキラと目を輝かせた。
しつこく迫って怖がらせたというのに、まさか、助けてくれるなんて!
君が、神木先輩の妹じゃなかったら、本気で惚れてたよ!
そう、神木先輩の妹じゃなかったら──!!
「うーん。でも、なんのお咎めもなしって訳にはいかないかな?」
「「え?」」
だが、飛鳥の方は、華のように甘くはなかった。
どうやら、何かしらの罰を与えるつもりらしい。
飛鳥は、しばらく考えると
「人助けをして」
「え?」
だが、それは、あまりにも予想外の言葉で、一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「あの、今なんて?」
「だから、人助け。華たちを困らせて怖がらせた分、他の誰かを助けてよ。それで、今回のことは許してあげる」
「た、助けるって、例えば!?」
「それは自分たちで考えなよ。人の役にたつことって、色々あるだろ? というか、人助けと女の子の扱い方って、よく似てるんだよ。相手の気持ちに寄り添って、何をしてあげたら喜ぶかを想像する。それが自然と考えられるようになったら、あんなに強引なナンパなんかしなくても、女の子と仲良くなれると思うよ」
その言葉は、罰というよりはアドバイスのようにも聞こえて、男たちは目を見開く。
「神木先輩…っ」
「まぁ、難しいっていうなら、この会場のごみ拾いでもいいし。あと、後輩には優しくね! 俺みたいに、怖~い先輩もいるわけだし。じゃぁ、俺たちはもう行くから、華のスマホ返して」
「あ、はいっ!」
その後、男の一人が華のスマホを返せば、飛鳥達は、そそくさと体育館裏から離れた。
そして、残された男たちは……
「神木先輩って、怖いけど優しい」
「アレは、モテるよな?」
きっと、顔だけの人じゃない。
中身も揃ってイケメンだから、あんなにモテるのだろう。
数年前、生徒会室に乗り込んだことを思い出しながら、男たちは『神木先輩には、絶対敵わない』と、心底、思ったのだった。
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神木さんちのお兄ちゃん!が、19万PVを突破しました。たくさん読んで頂けて嬉しいです。
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