第499話 小学校と着信


「あ、エレナちゃんのお兄ちゃんだ!」


 第二小の中を探していると、その途中で、エレナのクラスメイトたちと出会でくわした。


 エレナの友人である芦田あしださんを含め、4、5人の子供たちに囲まれた飛鳥は、腰を低くして、にっこりと笑いかける。


「こんばんは。久しぶりだね」


 この子たちとは、授業参観の時に話した以来だ。


 飛鳥は、ミサが入院している時、母親の代わりとして、エレナの授業参観に出席したことがあった。


 そして、その時に、子供たちから質問攻めされ、あっさり懐かれてしまった。

 

 だが、あの時とは違うのは、迷子放送を聞いたからだろう。


 子供たちは、エレナの心配をして、飛鳥に声をかけてきたようだった。


「エレナちゃん、いなくなっちゃたの?」


「うん、どこかで見てない?」


「うーん。6時半くらいに、私のダンスを見にきてくれたの。でも、その後は見てない」


「俺は、お母さんと一緒にいるの見たよ!」


「私も、わたあめ屋さんの前にいたのは見た!」


 口々に、子供たちが、エレナの目撃情報を伝える。


 だが、いずれも得られたのは、ミサと侑斗と一緒にいた時の情報だけだった。


(一人になってからの情報が、全く出てこないな)


 とはいえ、知らない人と一緒にいたという情報もないため、十中八九、エレナは自分からいなくなったのだろう。


 あの迷子計画を、実行するために──


(ほんと、心配かけてばっかりだな、俺)


 あんな小さな妹にまで、気を遣われるとは。

 なんて頼りない兄だろうか?


 飛鳥は、申し訳なく思う。


 だが、今は自分の不甲斐なさを嘆いている場合ではない。

 

(早く、見つけてやらないと……)


 自分から隠れたとはいえ、ずっと一人でいさせるわけにはいかない。


 だが、かなり、うまく隠れたらしい。

 失踪経路が、全く分からなかった。

 

 しかも、この小学校は、かなり広い。


 桜聖第二小学校は、主に二つの校舎と、体育館、そして、グラウンドからなっている。


 石段を登った上にあるのが、一年から三年の子供たちが授業を受けている上校舎で、この夏祭りでは、お化け屋敷の会場にもなっているらしい。


 そして、下校庭には、四年から六年が授業を受ける校舎と体育館、そして、グラウンドがある。


 出店やイベントなどで、盛り上がっているのは、主にグランドの方だけだが、広いがゆえに、隠れられる場所は、何ヶ所もあった。

 

 なにより、かくれんぼに持ってこいの場所だろう。


 エレナは、この学校の生徒なのだから──


「ねぇ、かくれんぼする時、みんなは、どこに隠れる?」


 すると、飛鳥は、子供たちに問いかけた。


 この小学校のことは、この学校の子供たちに聞くのが、一番早い。


 そう判断し、優しく声をかければ、子供たちは、夫々隠れ場所を口にする。

 

「うーん、私なら、上校舎の遊具の中かな? ドームになってるんだよ!」


「俺は、音楽室の裏!」


「音楽室?」


「うん。上の校舎にあるよ。あっち!」


「ありがとう!」


 上校舎といわれ、とりあえず、そっちに行ってみるかと、飛鳥は、子供たちにお礼を言いい、走り出した。


 エレナが隠れられそうな場所は、片っ端から探していこう。


 飛鳥は、浴衣の裾が乱れるのを気にすることなく、上校舎へと続く石段を駆けていく。


 もちろん、すれ違うたびに、頬を赤らめながら飛鳥を見つめている女性たちがいたが、そんなことは、全く気にもとめず──


(えーと、ドーム型の遊具は……あっちか)


 そして、石段を上り終えれば、飛鳥は校庭を広く見渡した。


 夏の風が吹き抜ければ、飛鳥の長い髪をさらりと揺らし、月の明かりか、金の髪が美しく照らす。


 だが、その時……


 ──トゥルルルル。


「!」


 突然、飛鳥のスマホが、音が奏でた。


 誰からなのか?

 飛鳥は、すぐにスマホを取り出し、その画面を確認する。


「──え?」


 だが、それは予想外の人物からで、思わず画面に釘付けになった。


 表示された名前は

 ずっと待ち焦がれていた名前だった。


 何度も何度も、メッセージを送って

 だけど、一切、返事はなくて


 声を聞きたくて、かけた電話ですら

 全く出てはもらえなかった。


 それでも──


 いつか、この画面に

 彼女の名前が表示されるのを


 ずっとずっと、待っていた。


「……っ」


 思わず息を呑み、微かに鼓動が早まるのを感じた。


 だが、迷うはずはなかった。


 飛鳥は、すぐさま通話ボタンを押すと、その先の声に、そっと耳を傾けた。

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