第496話 美貌と群れ


(そうだ。エレナちゃんは、に隠れようと言ってた……!)


 計画中のエレナの言葉を思い出し、華は『もしかしたら、体育館裏に隠れているかも?』と、エレナの居場所を思案する。


 だが、そうだとしても、これから、どうしたものか?


 やはり、兄や父に伝えるべきか?


 だが、伝えたら、今度は、エレナちゃんが怒られてしまうのでは!?


(ど、どうしよう……!)


 ──ピン、ポン、パン、ポーン!


「!?」

 

 すると、その瞬間、祭りの運営からアナウンスが流れた。どうやら、蓮と榊くんが運営に到着し、エレナの特徴を伝えたらしい。


 アナウンスの内容は──


『迷子のお知らせを致します。紺野エレナさんという、女のお子さんを探しています。金色の髪をした10歳の女の子で、金魚柄の浴衣に──』

 

 ああああああああああぁぁぁぁ!!?


 これは、エレナちゃんが、めちゃくちゃ恥ずかしいやつでは!?


 しかも、かなり大ごとになってる!?


「わ! 私、お手洗いに行ってくる!」


 すると、華は、勢いよく立ち上がった。

 

 何はともかく、今は、エレナちゃんを確保しに行かなくては!?──そう判断した華に、葉月が


「トイレ? 私も一緒に行こうか?」


「うんん! すぐそこだし、一人で大丈夫!」


「本当に、大丈夫か?」


「大丈夫だよ、隆臣さん! 私、もう高校生なんだかから!」


 そう言って、心配する隆臣や葉月を振り切り、華は猛スピード(と言っても浴衣だから遅い)で、隆臣たちの元から離れて行くった。


 そして、向かったのは、もちろん、第2小の体育館裏!


(エレナちゃんを見つけたら、すぐに戻るよう伝えなくちゃ……!)



 ◇


 ◇


 ◇



(……父さんたち、どこかな?)

 

 その後、エレナを探しに向かった飛鳥は、神社の隣にある桜聖第2小学校にやってきた。


 こちら側は、校庭や教室などを利用してもよおされているため、神社よりも広く、人が多い。


 だが、そんな中でも、飛鳥は、すぐに侑斗たちを見つけた。


 ……というか、見つけるのは簡単だった。


 なぜなら、自分とよく似た美貌を持つ女性が、しおらしく泣いていたからだ!


「ぅう……ぅ、エレナッ」


「ミサ、泣くなって。エレナちゃんなら、大丈夫だから」


「そうですよ! 絶対、見つかるから、泣かないでください!」


「俺達も一緒に探しますから!!」


 そして、その周りには、たくさんの男たちが群がっていた。


 若い男性から、年配の男性まで。


 しかも、いなくなった娘を心配し、涙を流すミサは、それはそれは美しかった。


 オマケに、今日は浴衣を着ているからか、儚さが際立って見える。


 そして、そんな女性が弱々しく泣いていれば、男なら、ほっとかないだろう。


 群がる男性たちは、我こそはと勇敢な姿をアピールしつつ、ミサに声をかけていた。


「エレナちゃんって、さっき迷子放送で流れていた子ですよね!」


「は、はい……あの子が、迷子になるのは、初めてのことで……っ」


「それは、心配ですよね!! でも、大丈夫! 俺達がついてます! よし! 手分けして探すぞ!」


「「おおおおお!!!」」


 

 そして、そんなミサの姿は、見るからに魔性の女だった。


 特殊なフェロモンでもでているのか?と、言いたくなるくらい、男を魅了している。


 そして、そんな魔性的な部分も含め、自分は見事に受け継いでいるのだなと、飛鳥は、しみじみ思う。


(うわぁ……あそこには、近づきたくないな)


 そして、その光景を目にした瞬間、飛鳥の足はピタリと止まった。


 父と合流しようと思っていたが、やめておこう!


 あの輪の中に入れば、今度は、飛鳥の美貌に吸い寄せられたまで詰めかけ、会場全てを巻き込んだエレナ捜索が始まってしまいそうだ!


 そんな訳で、飛鳥は合流するのをやめ、エレナが行きそうな場所を考えつつ、父に電話をかける。


 トゥルルルル――とコール音がなり、その後、すぐに侑斗が電話に出た。


『飛鳥か!?』


「父さん、ごめん。一旦、合流しようと思ったんだけど、やめとく。俺は、このままエレナを探しに行くから、父さんは、ミサさんとそこにいてね」


『え? ここに?』


「うん。もしかしたら、エレナが戻ってくるかもしれないし。それに、泣いてる女につけこむ悪い男もいるかもしれないから、ミサさんのこと、しっかり守ってやってね。──じゃ」


「え……!」


 すると、飛鳥は要件だけを伝え、あっさり電話を切り、侑斗はスマホを見つめたまま目を丸くする。


(守ってやって……か)


 まさか、そんな言葉をかけられる日が、来るとは思わなかった。


 あれほどまでに、嫌悪していた母親ミサに。


 だが、それと同時に、飛鳥らしいと思った。


 きっと飛鳥は、どんなに苦手な相手でも、その相手の不幸を願ったりはしないのだろう。


 それに──


(俺と喧嘩したあと、よくミサが泣いてたって、飛鳥、いってたな)

 

 飛鳥が幼い頃、ミサは、よく泣いていたらしい。


 そして、その度に、飛鳥が慰めていたのかもしれない。


 《お母さん、大丈夫?》──と、優しい声で。



(相変わらずだな、飛鳥は……)



 本当に、優しい子に育ったと思う。

 そして、そんな息子に頼まれたのだ。


 しっかりミサを守らねば!と、侑斗も気合いがはいった。


 だが──


「えぇ! シングルマザーなんですか!?」

 

「こんなに綺麗な人と、別れる男の気が知れない!?」


 と、ミサに声をかける男たちの姿が見えて、侑斗は再び、眉をしかめた。


 先ほどの群れが、エレナ探しに向かったかと思えば、今度は、また別の群れが、ミサに声をかけていていた。


 横に連れ(侑斗)がいるにもかかわらず、何故こう何度も!?


 しかも、若い頃ならともかく、四十代この歳でも、こうだとは!?


(しかたない。ここは一旦、恋人のフリでもしとくか……っ)


 今のミサなら、余裕で悪い男に付け込まれそうで、心配になった侑斗は、ミサをなぐさめつつ、これ以上、男たちが群がらないよう尽力したのだった。

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