第494話 迷子と迷い
『飛鳥! そっちにエレナちゃん、行ってないか!?』
「──え?」
酷く焦った侑斗の声に、飛鳥は目を見開いた。
エレナに、何かあったのか?
その様子は、尋常ではなく──
「どうしたの? エレナなら来てないよ」
『そ、そうか……あの、怒らないで聞いてほしいんだけど』
「…………」
もう、その前ふりだけで、何かやらかしたのだと感じた。
「なに? まさか、迷子にでもした?」
『あはは、さすが飛鳥! 察しがいい!!』
「察しがいいじゃないよ! 大人が二人も着いてて、何やってんの!?」
少々、マジなトーンで叱りつければ、侑斗は、反省した子供のように
『ごめん! 本っっ当に、ごめんなさいッ! でも、まさかあのエレナちゃんが、何も言わずに、俺たちの元を離れるなんて思わなかったんだよ! ミサも、知らない人に勝手について行く子じゃないっていうし』
「………」
確かに、エレナは結構しっかりした子だ。
一緒に暮らしていた時も、行先は、必ず告げてから出かけていた。
だから父も、勝手にいなくなるなんて夢にも思っていなかっただろう。
とはいえ、子供とは、一瞬で迷子になるものでもある。
特に、このような賑やかな場所では、感情が高ぶりやすい。
エレナが、夏祭りに来たのは初めてだし、経験がないからこそ、突飛な行動に出てしまう場合もあるだろう。
「友達を見かけて走って行ったとか? それに、エレナは、スマホ持ってるだろ。電話にはでないの?」
『あぁ、電話もかけたけど、電源が切れてる。それに、エレナちゃんの友達にも聞いてみたが、見てないって……あと、俺も、できるなら、もっと広範囲を探しにいきたいんだけど、ミサがパニクってて、一人にする訳にもいかなくてな』
「…………」
こっそりと小声で話された内容に、飛鳥も深く納得した。
大事な娘がいなくなったのだ。
今は顔面蒼白で、この世の終わりのような顔をしているかもしれない。
『昔、飛鳥が居なくなった時も、ナイフ持ち出して探しに出たやつだし、ほっといたら、何するかわからないよな?』
「そうだね」
侑斗の言葉に、飛鳥は素直な返事を返した。
また一般人を、勘違いで刺したらシャレにならない。
ゆりの件があるからか、父子ともに当時の記憶が蘇り、ミサの扱いには、厳重注意を余儀なくされた。
そんなわけで──
「分かった。父さんはミサさんについてて、俺が、そっちに行って探すから」
『あ、でも、さっきエレナちゃん、華からLIMEを貰ったみたいなんだ』
「華から?」
『うん、飛鳥たちが、あかりちゃんと合流したらしいってわかって、かなり喜んでたらしくて……もしかしたら、あかりちゃんに会いに、そっちに行ったんじゃないかって、ミサが』
「あかりに?」
そう言われ、飛鳥は、あかりをみつめた。
確かにエレナなら、あかりに会いに来るかもしれない。あんなに懐いているのだから……
「あの、エレナちゃん、大丈夫ですか?」
すると、あかりが心配そうに飛鳥を見つめた。
エレナに何かあったのかと、気が気じゃないのだろう。
そして、それは、あかりだけではなく、向かいのベンチに座っていた華たちも、険しい顔で聞いてきた。
「兄貴、エレナちゃん、迷子になの?」
「そうみたい。急にいなくなったって」
「え、なんで?! まさか、誘拐とかじゃないよね!?」
「わからない。とりあえず、俺はエレナを探しに行くよ」
「あの、私も行きます!」
すると、食事そっちのけで、あかりが名乗り出てきた。
エレナの一大事だからか、こういう所は、相変わらずだ。
(あ、そう言えば、迷子になる作戦を考えてるって、前に華が言ってたよな?)
すると、飛鳥は、ふと思い出した。
あかりとの仲を進展させるために、エレナが迷子になって、自分とあかりと二人っきりにするという作戦を、妹弟たちは計画していたらしい。
まぁ、その作戦は、結局、あかりが来ないと聞いて、お流れになったのだが…
(あぁ、そう言うことか……っ)
そして、あかりと目を合わせたまま、飛鳥は、エレナが消えた理由を理解する。
きっとエレナは、華から、あかりと合流したというLIMEをもらい、たった一人で迷子作戦を決行したのだろう。
兄である飛鳥の恋を応援するために──…
(だから、何も言わず、いなくなったのか)
まさかの事態に、飛鳥は頭を悩ませた。
迷子になるのが目的なら、わざわざ、親に行先を告げたりはしないだろう。
しかも、ご丁寧にスマホの電源まで切るという徹底ぶり。
(エレナのやつ、どこに隠れたんだ?)
そして、第1小学校出身の飛鳥は、第2小学校のことは詳しくない。
かくれんぼをするなら、どう考えても、エレナの方が有利だろう。
それに、一緒に探すと名乗り出てくれた、あかりへの対応でも迷う。
きっと、エレナは、あかりと二人で、探しに来て欲しいのだろう。
俺とあかりを、二人っきりにするために、わざわざ、迷子になっているようなものだから……
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