第493話 似た者同士と疑問


「好きだからかな」

「……っ」


 その言葉に、あかりは息を呑んだ。


 す、好きだから?

 いきなり、何を言ってるの?


 心拍が微かに上昇する中、あかりは、恐る恐る飛鳥を見つめる。


 すると、飛鳥は──


、理久くんは、俺に冷たいのかな?」


「へ?」


 だが、それは、どうやら、理久の気持ちを代弁していたらしく、あかりは拍子抜けする。


 てっきり、神木さんの肩をもつのは、私が神木さんを好きだからという意味なのかと思った。


 だが、どうやら違ったらしい。


 あかりは、ホッとするが、それを言われた理久の方は、さらに飛鳥につっかかりだした。


「何だよ。シスコンだとでもいいたいの?」


「違うよ。お姉ちゃんを守るために必死になって、すごく家族想いで、優しい弟なんだなって、思っただけだよ」


「……っ」


 だが、それは予想外の言葉で、理久は不覚にも頬を赤らめた。


 それは、顔が良いからというのもあるかもしれないが、それ以上に動揺したのは、思っていた回答と違ったから。

 

 いつも姉の話題になれば、シスコンだと、みんなにからかわれていた。


 それなのに──


(……この人は、バカにしてこないんだ)


 まともに話したのは、これが初めてだった。


 だが、金髪だし、イケメンだし、めちゃくちゃモテまくってそうだし、勝手に、チャラそうな人だと思っていた。


 だけど、優しい弟と褒められたからか、さっきまでの印象が、あっさり覆り『性格が悪い』といったことを、思わず撤回したくなった。


 でも──


(いやいや、騙されちゃダメだ。姉ちゃんは嫌がってるし……、嫌なヤツだ!)


 陥落しかけた思考をなんとか振り払うと、理久は、負けじと飛鳥を睨みつけた。


 今、ここで、姉ちゃんを守れるのは自分だけ。

 だからこそ、騙されるわけにはいかない!


「とにかく、お金はいらない!」


「そっか。じゃぁ、これは受け取るよ」


「え? いいの?」


「うん。だから、早く食べな。唐揚げやたこ焼きは、温かい方が美味しいよ」


 そう言って、あっさり引き下がった飛鳥は、突き返されたお金を、さらりと浴衣の中に仕舞いこんだ。


 そして、その姿が、あまりにも雅で、理久は、ついつい見とれてしまった。


 なにより、その美しさに見とれたせいか、毒気を抜かれたらしい。


 さっきまでの反発心も、同時に消え去ってしまう。


(なんか、普通にいい人だ……っ)


 きっと、冷めないうちに食べさせようとしたのだろう。


 さっきは、姉が階段から落ちそうなところを助けてくれたし、脅迫まがいな誘い方はされたけど、とても穏やかで優しい人でら、姉があそこまで嫌がるほどの人だとは思えない。


 だからか、あかりの不可解すぎる行動に、理久は疑問を抱く。

 

(姉ちゃんは……この人の何が嫌なんだ?)

 

 


 ◇


 ◇


 ◇




「飛鳥……お前、そうとう嫌われたな」


 その後、理久とあかりが、たこやきをたべはじめると、その隣りで、隆臣が、こそっと飛鳥に声をかけた。


 飛鳥と背中合わせに、腰掛けていた隆臣は、まさか、好きな人の弟に嫌われるなんて──と飛鳥を憐れむ。


 だが、飛鳥は──


「確かに、嫌われてるかもしれないけど、大丈夫だよ。むしろ、気が合いそう」


「いや、どうして、そうなる」


「だって、理久くんの気持ち、俺にはよく分かるよ」


「気持ち?」


「うん。だって、俺だって警戒するしの。金髪で、チャラそうな俺みたいな男が、華のことを猛烈に口説きまくってきたら」


「あぁ……つーか、自分で言ってて悲しくならないか?」


「ちょっとね? でも、実際のそういうふうに見られることもあるんだよね。顔がいいのも、モテまくってるのは事実だし、遊んでそうとか、セフレがいるとか、5股かけてそうとか」


「5股!?」


「うん。だから、まずは理久君を、安心あせてあげないとね?」


 『警戒されるのは、当然。でもそれは、それだけあかりを大切に思ってる証拠だ』と、飛鳥は目を細めた。


 恋は盲目というけれど、こういう時、飛鳥は、他の人間とは違うのだと実感する。


(……相変わらず、視野が広いな)


 盲目的に、好きな人しか見えなくなるのではなく、飛鳥は、その周りの人間まで、広く見回している。


 まるで、あかりさんが、大切にしているものを、根こそぎ、愛そうとでもするように──…


「そうか……心配して損したわ」


「へー、心配してたんだ。てっきり、あかりの味方かと思ってたよ」


「どっちも大切だよ。俺にとっては」


 10年来の心友も。

 最近できたばかりのバイト先の後輩も。


 隆臣にとっては、二人とも大切で、できるなら、上手くいって欲しいと願ってる。


(ぁー、でも上手くいって欲しいってことは、なんだかんだ、飛鳥の味方か)


「あ……」


「?」


 だが、その瞬間、飛鳥が小さく反応し、隆臣は首を傾げる。


「どうした?」


「電話だ。父さんから」


 どうやら、侑斗から電話がきたらしい。

 

 スマホを取りだした飛鳥が、すぐさま通話ボタンをタップする。


 すると、その瞬間、電話口からは、酷く焦ったような侑斗の声が聞こえてきた。


『飛鳥! そっちに、エレナちゃん、行ってないか!?』


「──え?」


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