第476話 組分けと夏の記憶


「とりあえず、兄貴とミサさんは、別れたほうがいいんじゃない?」


 そんなわけで、飛鳥たちは、どうグループを作るか話し合うことになった。

 

 しかし、そうなれば、自ずと飛鳥とミサが別れる事になる。この二人が、一緒に居たら、別れて行動する意味がないからだ!


「まぁ、そうだね。俺とミサさんは分けるとして、エレナ、お前は、どうする?」


「え?」


 そして、もう一人の美少女に話をふれば、エレナ、うーーーんと、悩んだ末


「じゃぁ、私は、お母さんといく!」


 ずっと一緒にいた母と、最近、仲良くなった兄とでは、やはり母の方に軍配があがるのか?


 エレナが、ミサの手を握れば、その様子を見ながら、侑斗が笑いかける。


「あららー、お兄ちゃんは、ふられちゃったな~」


「うるさいな。それより、父さんは、どうすんの?」


「そうだなー。俺はミサと同じチームにするよ。隆臣くんは、飛鳥と一緒の方がいいだろ」


 飛鳥の親友である隆臣は、飛鳥チームがいいだろう。


 そう気を使いつつ、侑斗がミサ側につけば、あとに残るのは、双子のみになった。


「お前たちは、どうする?」


「「え!?」」


 そして、飛鳥が問いかければ、双子は同時に反応する。

 

 もしや、これは、離れ離れになるということなのか!?


「えー、蓮と一緒はダメなの?!」


「別に双子だからって、常に一緒じゃなくてもいいだろ」

 

「そうだけどさ。なんとなく、落ち着かないんだよ」


 兄の言葉に、双子は渋る。

 

 子供の頃から、一緒だからか、離れて行動するのには、ちょっとだけ違和感があるのだ。


 なによりも、これは究極の選択だった。

 

 兄と行くか?!

 それとも、父と行くか!?


「君たちは、神木くんと一緒の方がいいと思う!」

 

「「!?」」

 

 だが、そこに狭山が割って入ってきて


「え? 狭山さん、どうしたの??」

 

「いいから、君たちは、こっちね!」


 そして、華と蓮を、強引に飛鳥のチームにまとめあげた狭山は、その後、侑斗に声をかける。


「神木くんのお父さん。初めまして、俺、狭山と言います。こっちの問題児たちは、俺が面倒見るので、お父さんは、ミサさんとエレナちゃんをお願いできますか?」


「え? はい。いいよ」


 狭山の言葉に、侑斗が答える。


 ちなみに、なぜ狭山が、このような行動に出たかというと、狭山は、気づいたのだ!

 

 もしかしたら、ミサさんは、ずっと忘れられずにいた、元・夫とよりを戻せたのかもしない!


 ならば、ここは、あげるべきでは!?と──


「ほらほら、若者たちは、さっさと歩く! 入口にたむろしない!」


「いや、俺たち、別にたむろしてたわけじゃないし! みんなして話しかけてくるなら、移動できなかったんだよ」


「はいはい。確かに、神木くんには、みんな話しかけたくなるもんね。でも、入口がごった返したら、大変だから!」


 その後、飛鳥が反論するが、狭山は、背中をポンポンと押しやりながら、若者たちを先導した。


 そして、飛鳥、隆臣、華、蓮、狭山の5人と、ミサ、エレナ、侑斗の3人で組み合わせに決まり、双子も、なんとか別れることなく組分けが終了する。


 だが、可愛い妹とは別れてしまったからか、華は、名残惜しいそうに、エレナを抱きしめた。


「エレナちゃん、また、あとで合流するからね~!」


「うん! まってるねー」


 妹二人が、仲良く会話をする。


 そして、そんな光景を微笑ましく見つめつながら、飛鳥は、みんなと一緒に、その場を離れた。


 そして、残されたミサたちは


「なんだか、忙しない祭りね」


「そうか? うちはいつも、こんな感じだぞ」


「いつも?」


「あぁ、いつもトラブルの連続」


「…………」


 トラブルの連続??

 にこやかな侑斗に、ミサは、ひどく困惑する。


「あ、飛鳥たち、そんなにトラブル起こしてるの?」


「まぁ、あのだからなー」


「顔は、私も同じなんだけど?」


「いや、ほら、飛鳥は、輝いてるから! 天性の人たらしだぞ!」


「それだと、私の内面が輝いてないみたいに聞こえるわ」


「いや、輝いてないだろ、お前は」


 そう、人を惹きつける魅力というものは、決して外見に限った話ではない。


 ミサは、どちらかというと、近寄り難い美女。

 だが、飛鳥は違う。


 にっこりと愛嬌のある笑顔と、ノリのいい性格。


 しかも、優しくて気配り上手とくれば、お近付きになりたい人間は、山のように押し寄せる。


 例え、同じ顔をしていてもか、内面からにじみ出るが、飛鳥とミサでは違うのだろう。

 

「まぁ、侑斗の性格を受け継いだなら、仕方ないわね」


「ん? なんか言ったか?」


「いいえ。それより、狭山さんにまかせて大丈夫?」


「大丈夫だろ。狭山さんの話しは、飛鳥からも聞いてたし、なかなか面倒見よさそうな、お兄さんだし。それに、あの子らも、もう高校生だ。親同伴で夏祭りって感じじゃないだろ」


 確かに、そう言われると、その通りだ。


 親と一緒に祭りに行くなんて、せいぜい中学生くらいまでの話で、それを考えたら、妥当な振り分けなのかもしれない。


「まぁ、若者は若者で、まとまって楽しめばいいさ。どのみち、落ち着いたら合流する訳だし。それに、こっちには、エレナちゃんもいるからな。ゆっくり見て回ろう」


 すると、侑斗は、エレナと目線をあわせ


「エレナちゃんは、夏祭り、初めてなんだよな? 何かやりたいこととか、食べたいものとかある? オジサンが、なんでも買ってあげちゃうぞー」

 

「ホント? じゃぁ、私、わたあめ食べたい!」


「わたあめか~。懐かしいなー」


「あとね、小学校のステージで、芦田さんたちが、ダンスを踊るって言ってたの。だから、見に行きたい!」


「おぉ、それは見とかなきゃな! 芦田さんは、エレナちゃんの友達だもんな!」


 ミサが入院中、しばらく神木家で暮らしていたからか、エレナは、侑斗にも懐いてるみたいだった。


 そして、そんな姿を見て、ミサは、最後に夏祭りに行った日のことを思い出す。


 もう、遠い昔の話だ。


 まだ、侑斗と別れる前。

 飛鳥が2歳の時、ミサは家族三人で夏祭りに行った。


 あの時も侑斗は、まだ幼い飛鳥に『なんでも買ってやるぞー』なんて言っていた。


「変わらないのね……」


 何も変わらない。

 侑斗は、あの頃から、ずっと侑斗のまま──


 だからこそ、変わっていたのは、自分だけだったのだと思い知らされる。

 

 疑う心で埋め尽くされた私は、自ら壊したのだ。


 大切だった家族を──…


「お母さん、いくよー!」

「……!」


 瞬間、エレナが声をかければ、ミサは、幸せそうに微笑んだ。


 何もかも壊して、全てを失った。

 だからこそ、わかる。


 今が、どれほど『幸せ』なのかを……


(また、夏祭りに来る日がくるなんて……思わなかった……っ)

 

 懐かしい記憶を思い出しながら、ミサは、過ぎ去った日々を憂いた。


 そして、今この瞬間に、感謝をする。




 日が暮れた世界は、次第に、星が煌めく夜へと変わっていく。


 そして、それぞれの時間は、ゆっくりと回り始めたのだった。


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