第466話 おじいちゃん と アルバム


「ねぇ、お母さん。おじいちゃんの写真とかないの?」


 すると、エレナも興味を抱いたらしい。

 横から、写真はないかと訊ねてきた。


 そしてミサは、華の髪をとかしながら


「あるにはあるけど、若い頃のしかないわよ」


「え! 見たい!!」


「ミサさん、私も見たいです!」


 すると、華とエレナが、着付けそっちのけで騒ぎ始め、ミサは、一旦メイクを中断し、戸棚からアルバムを取り出してきた。


 年季の入ったアルバムは、ミサの子供の頃の写真が載っているアルバムだ。


 そして、それは、娘のエレナですら、見たことがないものだった。


「わぁ、これ、お母さん!? 可愛い~!」


 そして、アルバムを開けば、そこには、まさにお人形のような美少女がいた。


 幼いころ。それこそ、2歳くらいミサが、両親と写っている写真だ。


「やっぱり、ミサさん、子供の頃から可愛かったんですね」


「華さん! 多分、この人が、おじいちゃんじゃないかな。飛鳥さん、そっくりだもん!」


「ホントだ! すっごい美形!」


「これは、私の父が27歳くらいの写真よ。こっちが私の母。ちなみに、これは、父の友人たちが泊まりに来た時の写真かしら?」


「友人? この方、日本人ですか?」


「えぇ、五十嵐さんだったかしら? 父の古い友人みたい。小さい時、私も遊んでもらったみたいだけど、あまり覚えてなくて」


「そうなんですね。でも、すごくいい写真ばっかり!」


「写真家の母が撮ってるから、その辺は、こだわりが強かったのよ」


「へー、なんか、ツイスタ映えしそう」


「ツイスタ? 私、SNSはしてないから。若い子は、みんなやってるの?」


「うーん、そうでもないですよー。お兄ちゃんはしてないし。あ、蓮もやってない」


「ふふ、あの子達らしいわね」


 ほのぼのと雑談を繰りかえす。すると、そんな中、アルバムをめくっていたエレナが、思い出したように呟く。

 

「ねぇ、おじいちゃんとおばあちゃんって、フランスにいるんだよね?」


「そうよ」


「そっか、いつか会ってみたいな」


「え?」


 だが、その言葉に、ミサは目を見開く。


(エレナが、そんなこと言うなんて……)


 確かに、エレナは祖父母にあったことがなかった。


 それは、傷害事件を起こしてから、ミサ自身が、親と疎遠だったからだ。


 時折、電話をくれるけど、それを、いつも冷たくあしらって、エレナからも遠ざけてきた。


(そうね……飛鳥との関係もだけど、できるなら、両親との関係も修復したい)


 これまで、遠ざけてきた時間を、取り戻せるなら、取り戻したい。


 でも、今更、そう思うのは、ワガママではないだろうか?

 

「会いに行ったりしないんですか?」


「え?」


 すると、今度は華が口を挟み、ミサは華を見つめた。


 華は、ずっとアルバムを見ていて、その中には、父に抱き抱えられているミサの写真があった。


 木漏れ日の中で、幸せそうに笑っている父娘の写真が……


「このアルバムみてると、ミサさんが愛されてるのがつたわってきますし、会いに行けば、凄く喜んでくれそうだなーって……それに、会える時にあってた方がいいですよ」


「………」


 その言葉に、ミサは、改めてアルバムを見つめた。


 確かに、父と母には、たくさん愛された。


 モデルを目指すと決めた時も応援してくれて、夢を立たれた時も、必死になって支えてくれた。


 それなのに、何の親孝行もできないまま、ここまで来てしまった。


 それに、両親も、もう高齢だ。

 母は入院していると聞くし、心配でもあった。


 でも、今更、なんと言って、会いに行けばいいのか?

 そう思えば、なかなか足が向かなかった。


 でも、華の言葉に、これから先の未来を考える。

 

 会える時にあっておいた方がいい。

 

 親は、いつまでも、この世にはいてくれるわけじゃないから──


「そうね……今度、会いに行ってみようかしら」


「え?」


 すると、そのミサの言葉に、今度は、エレナが反応する。


「会いにいくの?」


「えぇ……エレナも会ってみたいでしょ」


「うん!」


 パッと華やいだエレナの顔を見て、ミサは、またひとつ感謝する。


 人を信じられず、あらゆる縁を切ってきた。


 でも、一度切り離した縁が、あの日を境に、また繋がりつつある。


 飛鳥との縁も、侑斗との縁も。

 そして、両親との縁も。


 そしてそれが、どれほど幸せなことなのか、今ならわかる。


(今度こそ、大切にしなきゃ……)


「ねぇ、お母さん」


 すると、今度は、自分の赤ちゃんの頃の写真が見たいとエレナが言い出して、ミサは、また別のアルバムを取りに向かった。


「そういえば、見せたことなかったわね……あ」


 だが、その瞬間、ミサは手を止め、華に目を向ける。


「……ねぇ、華さん」


「はい」


「実は、もあるんだけど、見てみる?」


「え?」


 その言葉に、ドクンと心臓がはねた。


 まさか、兄の子供の頃の写真があるなんて──


「えぇぇ、お兄ちゃんの!? あるんですか!?」


「えぇ、侑斗と離婚する時に、写真やアルバムといった類のものは、全て私が引き取ってしまったの。だから、侑斗の手元には、ほとんど残ってないんじゃないかしら?」


「……あ、確かに」


 言われてみれば、兄の幼い頃の写真は、全くと言っていいほどなかった。


 特に0歳から4歳くらいまでのものは。


 だから、兄の写真があるのは、華と蓮の母親であるゆりと再婚したあとのものばかりだ。


 そんなわけで、華は兄の生まれた頃の写真は、一枚も見たことがなく。


「どうする? 別に無理にとは言わないけど……はっきり言えば、離婚前のものだし、当然、私も一緒に写ってるし、嫌なら嫌と言ってくれれば」


「あ、そんなことないです! むしろ、見れるなら見てたいです、飛鳥兄ぃの赤ちゃんの頃の写真!」

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