第464話 神社と小学校


「ムリ。他をあたってください。俺、フラれたばっかりだから」


「「え!?」」


 ズバリといい放てば、源さん達は目を丸くした。


 まさか、振られているなんて思わなかったのだろう。


 だが、引き下がるかと思いきや、二人は更に距離を詰め、航太に迫ってきた。


「マジかよ!?」


「わしらの知ってる子か?」


「えっ、や、それは……っ」


 より赤裸々な話になり、航太は、酷く狼狽える。


 というか、多分、知ってる!


 神木一家は、よく商店街にも顔を出していたし、なにより、あのの妹なのだから、知らない方がおかしいくらいだ!


「し、知ってるとは思う。けど……言わない」


「あー、なんだよ、それー」


「つーか、マジで、やめて! 恥ずかしいから」


「あはは。そうだよなぁ。ごめんな、航太くん」


 すると、源さんが申し訳なさそうにそう言って、航太を頬を赤らめながら俯く。


 祭りを盛り上げて上げたい気はするが、なにより、フラれたばかりなのだ。


 どう考えてもムリ。

 だって、告白する相手がいないのだから。


(あ。そういえば、蓮も今夜の祭りに来るって言ってたっけ?)


 ──じゃぁ、神木も来んのかな?


 航太は、華の姿を思い浮かべながら、空を見上げた。


 夏の空は、とても澄んでいて、悩みなんて、あっさり吹っ飛びそうなほど広かった。


 だが、それでも、悩みは尽きず、晴れた空とは対照的に、心の中は、雨模様。


 なぜなら、好きな女の子との何気ない日常は、いつの間にか消えてしまったのだ。


 そして、後悔は、いつも行動した後にやってくる。


(結局、あのあとも、よそよそしいままだし……やっぱ、余計なこと言わなきゃ良かった)


 バレンタインの日、航太は華に告白した。


 『好きになって、ゴメン』──と。


 そして、できるなら『今まで通り、仲良くしてほしい』と言った。


 だけど、結局、友達には戻れなかった。

 

(まぁ、仕方ないよな。双子の弟の友達から好意を寄せられてるなんて知ったら、気まづくもなるだろうし)


 好きになった相手は、友達の姉。

 その時点で、既に無謀な恋だったのかもしれない。


 航太は、儚く散った恋を嘆き、深くため息をついた。


「航太くん、大丈夫か?」

「え?」


 すると、またそこに、源さんが話しかけてきて


「思い詰めた顔をしているが、そんなに好きだったのかい?」


「え……いや、そんなにっていうか」


「くぅぅ、航太ぁぁ! お前が未成年じゃなけりゃ飲みに誘ってたのに! でも、偉いぞ! そして凄い! ちゃんと告白して、自分の気持ち伝えたんだからな! ──あ、そうだ! 夏祭りの打ち上げしよう。女の子も誘っとくからさ!」


「いやいや、いーよ。そんな気を使わなくても」


「何言ってんだ。失恋した時は、思いっきり遊んで、リフレッシュするのが一番だ!」


 トンと肩を叩かれれば、励まされているのだと分かり、胸が熱くなる。


 確かに、いつまでも引きずってるわけにはいかない。後ろばかり向いていたら、先に進めないから。


 なら、思いっきり遊んで、忘れてしまった方がいいのかもしれない。


 自分の気持ちに、区切りをつけるためにも。


 だが、三年も好きだった女の子。


 しかも、今夜の夏祭りにも、彼女は来るかもしれないわけで……

 

(どうしよう、鉢合わせしたら……っ)


 日頃、学校では会っているが、学校外で会うのは、かなり久しぶりな気がした。


(いやいや、まだ、会うとは限らないし)


 でも、万が一、鉢合わせしたら?


 そして、浴衣とか着ていたら、可愛すぎて、まともに顔を見れない気がする!


(──ていうか、俺。どんだけ好きなんだよッ)


 無意識に浴衣姿を想像してしまい、胸がドキドキと高揚する。


 ふっきらなきゃいけないのに、未だに冷めない。

 この熱も、この想いも──


(本当、情けない……っ)


 神様──どうか、お願いですから


 今夜だけは、神木と鉢合わせしませんように。


 


 ◇


 ◇


 ◇




『華さん! 今日は、何時に来るの?』


 そして、その頃、神木家の長女である華は、エレナと電話をしていた。


 リビングで、蓮とゲームをしていた華は、ソファーに腰かけながら、エレナとの会話に花を咲かせる。


 なにより、今日は、夏祭りがある。


 そして、浴衣を着る華は、エレナの母であるミサに着付けて貰うことになっていた。


「3時くらいに、行くつもりだよー」


『おうちの場所、わかる?』


「うん、大丈夫。飛鳥兄ぃと蓮は、6時くらいに、エレナちゃんちに行くって!」


『そうなんだ。飛鳥さんたちも浴衣きるの?』


「うん。着ろって言っといた。さすがに、お父さんは、着ないみたいだけど」


『え、そうなの?』


「まぁ、オジサンだしねー。もう、そんな年じゃないって!」


『へー、うちのお母さんも同じこと言ってたよ。でも、親子で、お揃いの浴衣を着たいって言ったら、着てくれるって言ってくれた』


「え、ホント! ということは、ミサさんも浴衣きるの!?」


 あの絶世の美女である、ミサさんが!?

 40代だけど、20代に見えるミサさんが!?


 というか、ミサさんと、飛鳥兄ぃと、エレナちゃん。

 この3人が浴衣を着て、勢揃いするなんて?!


「大丈夫かな、今夜?」


『え? なにが?』


「いやいや、こっちの話!」


 兄一人でも、色々大変だった神木家。

 だが、そこに美女と美少女が加わる。


 これは、なにがどうなるか、想像がつかないぞ!?


 なんておもいつつも、賑やかなのはいいことだと、華は上機嫌だった。


 あかりさんを誘うことは出来なかったが、今年の夏祭りは、家族がみんな揃った。


 さらに、エレナちゃんに、ミサさんに、隆臣さんもいる!


 これだけ賑やかなら、兄の気も紛れるだろう。


『あ! 小学校の方の会場では、お化け屋敷もやってるんだって!』


 すると、またエレナが話かけ


「え! ホント!?」


『うん、友達が教えてくれた』


 榊神社の夏祭りは、神社の境内と、その近くに立つ小学校のグランドを使い盛大に行われる。


 そして、広い小学校の方には、お化け屋敷も設置されているらしい。もちろん、これは、商工会の人々が、汗水垂らしながら作った、お化け屋敷だ!


「楽しそう~! 絶対に入らなきゃ! ねぇ、蓮!」


「え? なにが?」


 すると、ポンと肩を叩かれ、ゲーム中の蓮が首を傾げた。


 ちなみに蓮は、お化けや幽霊といったモノが、超苦手だったりする。


「それじゃぁね、エレナちゃん! あとで行くから!」


『うん、待ってるね!』


 すると、可愛い妹との和気あいあいとした会話を終えると、華は電話を切った。


 そして、横に座っている蓮に向けて


「よし、蓮! 今年こそは、克服しよう!!」


「だから、なにを?」


 まさか、お化け屋敷があるなんて思ってない蓮。


 だが、双子の姉のキラッキラな笑顔を見て、なにやら、不穏な空気だけは感じ取ったのだった。





*あとがき*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330661190752422

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る