第463話 恋の終わり と 夏祭り


 ──トゥルルル


 夏休みが終盤に近づいた8月下旬。

 あかりの携帯が、突如、音を奏でた。


 アパートで洗濯物を干していたあかりは、着信に気づき、すぐさま電話にでる。


 すると、それは、あかりの母である倉色くらしき 稜子りょうこからだったようで、あかりは、明るく返事を返した。


「もしもし、お母さん」


『あかり、今から電車に乗るから』


「うん。お昼は、外でとる?」


「そうね」


「じゃぁ、こっちに着く頃に、私も駅に行くから」


 たんたんと会話を終え、あかりは電話を切る。


 今日は、母と弟が泊まりに来る。

 

 だが、電話を切った瞬間、ふと着信履歴の画面が目に付いた。


 そこには、不在着信として、赤く表示された文字があった。


 『神木 飛鳥』と書かれた文字が──


(……あの電話、なんだったんだろう?)


 二週間ほど前、突然、電話がかかってきた。

 深夜という、珍しい時間帯に。


 あの日、神木さんは

 私に、何を話したかったのだろう?


(大丈夫かな? 何か、あったのかな?)


 心配で、しばらく眠れなかった。


 そして、心の中に渦巻くのは、電話に出なかったことへの罪悪感と、話を聞くと言う約束を破った自分への嫌悪感。


(……あれから、LIMEも、こなくなった)


 あの着信を最後に、神木さんからの連絡は、一切なくなった。


 頻繁に来ていたLIMEにメッセージは入らず、完全にのだと分かった。


「ごめんなさい……っ」

 

 着信履歴を見つめながら、あかりは、申し訳なさそうに謝った。


 完全に嫌われた。

 でも、これは、自分が望んでいたことだ。


 お互いの『未来』考えるなら

 これが一番、て幸せなことだから。


 でも──


(……できるなら、嫌われたくなかったな)


 彼のことを、考えれば考えるほど、胸が締め付けられた。


 初恋の幕引きは

 あまりにも、あっさりとしていて


 一生に一度きりの恋は

 泡のように静かに消えていった。


 『失恋』という消えない『傷』を残して──



 でも、もう戻ることはない。


 友達だった、あの頃も

 幸せだった、あの時も



 何もかも、全て



 もう二度と、元には────戻らない。


 


 







           第463話


        恋の終わり と 夏祭り










 ◇◇◇


 ──トントントン!


 規則だだしく、トンカチの音が響く。


 ここは、祭りの会場にもなっている『さかき神社』


 蓮の親友でもある、さかき 航太こうたの実家でもあるこの場所は、祭りの準備で、朝から賑わっていた。


 商工会や神社の関係者たちは、たんたんと舞台設営に勤しみ、出店を出す業者たちも、ちらほらと集まり始めていた。


 そして、そんな中、航太もまた、祭りの準備を手伝っていた。


 夏祭りでは、毎年、灯篭とうろうをかざる。


 長方形の木枠に、イラストや文字を書いた和紙を貼りつけ、その中に火を灯すのだ。


 といっても、ロウソクに火をつけていたのは、一昔前まで。今は火事を防ぐため、ロウソク型のライトを使うことになっている。


 時代の流れと共に、伝統は、少しづつ変わりつつあった。だが、今年も、こうして夏祭りを開催できたのは、夏祭りを運営する、人々のおかげだった。


「今日は、晴れそうで良かったな」

「そうですね」


 商工会の青年と一緒に準備を進めながら、航太は、話をしていた。


 天気は重要なのだ。


 雨だと中止になってしまうし、花火だってあげられなくなる。


「航太くん! ちょっといいかー」

「?」


 すると、今度は、別のおじさんが、声をかけてきた。


 商店街では、ちょっと有名な魚屋の店主だ。


 ちなみに、この魚屋の店主、げんさんとは、神木家も顔なじみだったりする。


「なんですか、源さん?」


「航太くんさ、これ出てみねーか!?」


「?」


 これっと言われて渡されたのは、イベントのチラシだった。


 なんでも、今夜の夏祭りは、舞台を設置し、その上で、吹奏楽やダンス、太鼓や漫才といった催しを、町の人々が入れ替わりで披露することになっていた。


 そして、そのイベントの中の一つに、商工会主催のイベントもあった。


 その名も『桜聖市の中心で愛を叫ぼう!』

 簡単に言えば、告白大会的なイベントだ。


「でねーよ! 恥ずかしいっ!」


 そして、それを見た瞬間、航太は、真っ先に断った!


 「でてみないか?」なんて簡単にいうが、つまりこれは、このイベントに出て、という話だ!


 しかも、祭り会場で、たくさんの人々に見守られながらの告白をするという、どう考えてもハードルが高いイベント!!


「えー、いいじゃんか、航太! ちょっと出てみろよ!」


「はぁ!?」


 すると、今度は、一生に作業していた青年が、茶化しながら、航太の肩をくむ。


「彼女いないんだろ?」


「い、いないけど。つーか、ノリ軽すぎ!」


「だって、アオハルは大事だろー。夏祭りなんだぞ!」


「いやいや、無理だって! だいたい、その夏祭りは運営側に回るから、俺は楽しめないし」


「あー、そっか。お前、神社の跡取りだもんな。いいよ、いいよ! 今年は、準備手伝うだけでさ! 友達と遊んでこい!」


「そうだぞ、航太くん! 遊んでおいで!」


 すると、その言葉に、源さんも続く。


「それに、この『愛を叫ぼう』の『愛』は、別に好きな子への告白じゃなくてもいいんだ。親とか、兄妹とか、友達とか、日ごろ言えない感謝をつたえたりとかでも……それに、参加者には商品券もでるから! あ、でも、好きな子に告白して両思いになれた時は、もっと豪華景品が!」


「いや、だから、無理だって! つーか、なんで、そんなに必死なの? 出る人、いないの?」


「うーん、今年は少ないかもなー。まぁ、飛び入りも募集するから、また増えるとは思うが。ただ、ある程度、盛り上がらないと、飛び入りもこないんだよなぁ、これが!」


 源さんが、ガハハっと笑い出す。


 このイベントは、クリスマスにも行われていた。町おこしの一貫なのか、若者の恋を応援しようというイベントだ。


 なにより桜聖市は、子育て支援にも積極的で、婚活にも力を入れている町。だからか、このような愛情を伝えるイベントにも積極的だった。


 しかし、華にフラれてしまった航太にとっては、なかなか、きついイベントでもある。


「ムリ。他をあたってください。俺、ばっかりだから」


「「え!?」」

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