第456話 美貌とリスク
「えぇ! あかりさん、行けないの!?」
その後、エレナから電話をもらった華は、あかりが夏祭りに来ないと聞いて、ガッカリしていた。
リビングのソファーに腰かけたまま、酷く項垂れる。
どうやら、昼間、立てた計画は無駄になってしまったようで……
「そうなんだぁ。あかりさん来れないんだー」
『うん。一応、電話して聞いてみたけど、家族がくるから、遠慮するって』
「………」
そして、そんな二人の会話を、飛鳥は、華の隣で本を読みながら聞いていた。
どうやら、隆臣の話は本当らしい。
今月末、あかりの家族が、この街にやってくる。
なら、家族を取るだろう。
わざわざ、泊まりにくるのだから……
「華。あまり、あかりを困らすなよ」
すると、飛鳥が口を挟み、華はムスッと口をとがらせると
「困らせるつもりはないよ!」
「つーか、どんな計画立ててたんだよ」
「そんなの決まってるでしょ! 飛鳥兄ぃとあかりさんを二人っきりにする計画だよ!」
「………」
まぁ、そんなことだろうとは思った。
だが、その言葉を聞いて、飛鳥は呆れ返る。
「二人っきりになんてしなくていい」
「なんで!? デートをドタキャンした後から、お兄ちゃん、あかりさんに会えてないでしょ!?」
「会えてはいないけど……でも、夏祭りは、大学の知り合いも来るだろうし、二人っきりで行動してたら、あかりが、何を言われるか分からないだろ」
「……っ」
それは、まさに、ごもっともな内容で、華は口ごもる。
「それは、わかってるよ。だから、迷子作戦にしようとしたんじゃない」
「迷子作戦?」
「エレナちゃんが迷子になって、それを二人に探してもらおうっていう作戦!」
「…………」
「ほ、ほら! 迷子を探してるっていう名目なら、二人でいても誤魔化しがきくでしょ! だから、エレナちゃんと蓮と三人で話し合って」
「俺が、エレナを迷子になんてさせるわけないだろ。それに、仮に迷子を探してたとしても、誰がそんなこと思うんだよ。傍から見たら、男女が二人で行動してるようにしか見えないよ」
「く……っ」
すると、有無を言わせぬ勢いで、ド正論が返ってきて、華は玉砕する。
確かに、そうだ!
エレナちゃんは美少女だし、誘拐などのリスクを考えれば、この兄は、必要以上に警戒するだろう。
それに、確かに、周りの人たちには分からないかもしれない。迷子を探してるだなんて!
「だったら、どう言う作戦ならいいのよ!」
「だから、作戦なんて立てなくていいって言ってんの。仮にあかりが、夏祭りに来れたとしても、俺は、二人っきりになるつもりはないよ」
あかりを、家に送り届ける数分ならともかく、夏祭りという人目の着く場所で、二人だけになるのは避けた方がいい。
映画ひとつ見るのも、隣町までいかなきゃいけないくらいだ。
でも、それは、あかりの今を守るため。
他人から、敵意や嫉妬を向けられないように、あかりの平凡な日常を守るため──
(俺は、どんな噂が広まろうが守るつもりでいるけど、あかりは、嫌なんだろうな)
なら、やっぱり原因は、俺にあるのだろう。
両想いでも、それを受け入れられない原因。
拒絶する理由。
でも、だとしたら、どうすればいい?
持って生まれてきたもの。
変えられないもの。
それを拒絶されたら、もう諦めるしかないのだろうか?
(まさか、この美貌を受け入れて貰えない日がくるなんて……)
本をぱらりと捲りながら、飛鳥は、感傷に浸る。
恵まれた容姿で生まれてきて、誰もが羨むほどの美貌を持っていて。
でも、それが足を引っ張る日が来るなんて──
(いや……容姿に足を引っ張られたのは、初めてじゃないか)
ふと、幼い頃を思い出した。
昔、美しかったが故に、俺を誘拐しようとした男がいた。生きた人間を、そのまま自分のコレクションにしようとした狂った男。
だから、わかっていたはずだ。
この容姿は、時として、大きなリスクを招くということくらい。
「飛鳥兄ぃは、本当に、それでいいの?」
「え?」
すると、考え込む飛鳥に、華が問いかけた。
ひどく悲しそうに。
まるで、自分のことのように。
「あかりさんを、守りたい気持ちは分かるし。私もあかりさんが傷つくのは嫌! でも、周りの目を気にして、好きな人との時間を制限しなきゃいけないなんて、おかしいよ! それに、大切な人と一緒にいられる時間は、無限じゃないんだよ! お父さんとお母さんだって、そうだったでしょ!」
「……っ」
それは、ひどく胸を刺す言葉で、思わず手が止まってしまった。思い出したのは
『ずっと、一緒にいるよ』
そういって、抱きしめてくれた母のこと。
若くして亡くなってしまった、ゆりさんのこと。
分かってる。
そんなこと、嫌という程、身体が覚えてる。
大切な人は、いつまでも傍に居てくれるわけじゃないってことくらい──…
*あとがき*
https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330658401442518
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