第438話 プランと元カノ
「おっかえりー!」
華は、部活をしていないからか、雨が降り出す前に帰宅していた。
しかも、バスケの練習に励み、雨に晒されながら帰ってきた蓮とは違い、優雅にお菓子を食べているようだった。
「食ってばっかいると、太るぞ」
「うるさいなー! 宿題終わりの息抜きくらい許して──て! 蓮、びしょ濡れじゃない?!」
「帰りに、突然降ってきた」
「折り畳み傘は?」
「入れてなかった」
「バカじゃん!!」
雨に濡れて帰宅した蓮の元に駆け寄り、華が呆れたように言い放つ。だが、そうしてバカにしつつも、濡れた弟を、姉である華が心配しないはずがなく
「大丈夫? 風邪ひく前に、お風呂に入ってきたら?」
「うん、そうする。兄貴は? もう、帰ってきたの?」
「うんん。まだ、帰ってきてな」
「ただいまー」
「「!?」」
だが、その瞬間、ちょうど兄の飛鳥も帰宅した。
そして、まさか、兄も雨に濡れているのでは!?
なんてことを想像したが、さすがは用意周到なお兄様!
蓮とは違い、しっかり折り畳み傘をバッグの中に入れていたらしい。雨でびしょ濡れになることなく、スマートに帰宅した。
「おかえり、飛鳥兄ぃ」
「ただいま……て、
「傘、忘れた」
「バカじゃん」
すると、華に続き飛鳥までそういって、蓮は軽くイラついた。
相変わらず、口の悪い兄姉だ。
だが、折り畳み傘をバッグに入れ忘れ、オマケに傘を持たずに家を出た蓮に、全ての敗因があるため、反論のしようもなかった。
しかし、やはり華同様、飛鳥も蓮のことを心配してきた。
「早くシャワー浴びといで。風邪ひくといけないから」
「うん、そうする。あ、兄貴でも華でも、どっちでもいいからさ、俺のバッグとか乾かしといてよ」
「はいはい、俺がやっとくから」
「ありがと。じゃぁ、風呂行って」
クシュッ!──と、くしゃみをしつつ、蓮は、一度部屋にもどると、その後、着替えを持ち脱衣所に向かった。
すると、リビングで二人だけになった飛鳥と華が、それぞれ別のことをしながら雑談をはじめる。
「華は、濡れなかった?」
「うん、私は雨が降る前に、帰ってきたから!」
「そう。宿題は?」
「終わりました~! それよりさ、明日だよ! あかりさんとのデートの日!」
「そうだけど……それが何?」
「なにって、ちゃんとプラン立てた!? 初デートなんだから、絶対失敗しちゃダメだからね!」
「………」
まさか妹から、そんな言葉が飛び出すとは。
飛鳥は、少し戸惑った。
しかし、プランなんていわれても、あまりプランらしいプランは、思いつかず……
「別に、いつも通り過ごせばいいだろ」
「いつも通りって、初デートだよ!」
「でも、あかりの家では、何度か一緒に過ごしてるし」
「それとこれとは、話が間違うでしょ! 今回は家じゃなくて、外なんだから! それに、ただでさえ、飛鳥兄ぃは、顔が良すぎて目立ちまくるんだから、人目につかないところに入るとかしなきゃ!」
「人目につかないところ? 例えば?」
「えーと、カラオケボックスとか?」
カラオケ──そう言われ、飛鳥はふむと考える。
確かに、カラオケは人目にはつかないし、中に入ってしまえば二人っきり。なら、邪魔も入らないだろう。
(でも、あかりって、片方聞こえないし、カラオケとか、騒がしい場所だと、聞きとりづらくて大変なんじゃないかな?)
前に、騒がしい場所での会話は、疲れると言っていた。そんな場所に連れていけば、あかりに、無理をさせるだけでは?
なら、どう考えても、初デートで連れていく場所ではない。
「ダメだよ、カラオケは」
「えー、なんでー!」
「なんででも」
「もー。じゃぁ、どうすんの!?」
「どうするって。そんなの、あかりが行きたいところに、連れていけばいいだろ」
「うわ! なに、そのいきあたりばったりな感じ! 失敗して嫌われてもしらないからね!!」
すると、またもや辛辣な言葉が飛びだし、飛鳥は口ごもった。
確かに、嫌われるのは嫌が……
(えーと……俺、昔、どんなデートしてたっけ??)
すると、ふと昔、ことを思い起こす。
大体、6年ほど前だ。
告白されて、女の子と付き合っていたころ。
だが、最後に付き合った子でも、高一ぐらいまでの話で、軽く見積もっても、もう5年は彼女を作っていなかった。
だからか、あまりにも遠い記憶になりすぎて、はっきりいって、よく覚えてない。
というか、あまり楽しい思い出がないのだ。
彼女たちは、自分の見た目に惹かれて、告白してきた子たちだから──
(デートも何度かしたけど、あまり、ぱっとしなかったな……)
ドキドキしたり、愛しくなったり、また会いたいと思ったり。
そんな、ときめくような感情は、一切起きなくて、あっちが、勝手にはしゃいでいるのを見ているだけだった。
なにより、あの頃の自分の優先順位は、何を差し置いても『家族』だった。
もう、失いたくなくて。
なにがなんでも守りたくて。
家族以上に大切なものはなく、家族以上に必要なものもなかった。
だからこそ、続かなかったのだ。
彼女たちとは──
「とにかく! ちゃんと考えて、エスコートしなきゃダメだからね! 顔だけ良くても、デートがつまらないとか最悪だし!」
「お前、ちょっといいすぎじゃない? お兄ちゃん、泣いちゃうよ?」
すると、またもや手厳しい言葉が飛びだしてきて、飛鳥は、蓮のバッグの中身を取り出しつつ苦笑いをうかべた。
ここで失敗すれば、顔だけの男というレッテルをはられてしまうのだろうか?
それは、何としても阻止したい。
(エスコートか……俺は、あかりとデートができるなら、それだけで十分だけど、あかりは、そうではないのかな?)
女の子なら、やっぱりエスコートして欲しいとおもうものなのだろうか?
なら、やはり、行き当たりばったりなデートだと、嫌われるのだろうか?
いや、あかりの場合は、少し違うかもしれない。
だってあかりは、明日のデートで、嫌われようとしているから──
(あかりのやつ、一体、どんなふうに嫌われるつもりなんだろう?)
蓮のバックから、教科書やノートを取り出しつつ、飛鳥は考え込む。
隆臣の話では、たいした策はないらしいが、あかりが何を仕掛けてくるのか、それは、ちょっとだけ、楽しみでもあった。
(女の子とのデートが、こんなに楽しみなのは、初めて方も?)
前の彼女たちと比べるのはよくないが、明らかに、前と今は違った。
あかりが、何かを企んでいるのかは分からないし、あかりが、嫌われるつもりで行動してくるなら、こちらは、それに合わせて対応すればいい。
だから、明日のデートは、行き当たりばったりの真剣勝負──それで、いいような気がした。
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