第437話 雨音と濡れ髪
それから、3日ほどがたった平日の水曜日。
それは、飛鳥とあかりが、映画に見に行くと約束した前日のことだった。
ザーザーと雨が降りそそぐ中、大学の講義を受けていたあかりは、なかなか授業に集中できずにいた。
だって明日は、この大学一の人気者と、映画を見に行くことになっているのだから。
(どうしよう……ついにきちゃった、明日が)
ノートを取りながら、あかりは、頬を赤らめた。
ただ映画を見に行くだけなのに、デートなんていわれたせいか、やはり意識してしまう。
なにより、今まで異性と付き合った事がないあかりにとって、男性とのデートは初めてのこと。
だからこそ、着ていく服にしろ、髪型にしろ、どのようにすればいいか全く分からない。
(デートって、何を着ていけばいいのかな? いやいや、別に服装とか気にする必要ないじゃない! だって、私は明日、神木さんに嫌われなきゃいけないんだから!)
そうだ! 嫌われるなら、むしろ超ド級にダサい服で行った方がいいかもしれない!
だが、あまりにもダサすぎるのは、あかり自身、ちょっと恥ずかしかったりもする。
女子大生になってからは、それなりに垢抜けたと思うのだ。
明らかに、田舎町で暮らしていた頃より、オシャレにも、髪型にも、気を使うようになった。
だから、ダサい服を!と考えても、ちょっと抵抗がある。
(うーん……ダサいのはやっぱり恥ずかしいし、普通の服でいいわよね? 特に気合いとか入れずに、普段着でいけばいいのよ。だって、映画を見るだけなんだから)
そして、ここにもまた、ただ映画を見に行くだけだと思いこんでいる、恋愛初心者がいた。
デートに関しての予備知識が一切ないせいか、お互いに前途多難な二人だったりする。
だが、そんな二人のデートも、ついに明日へと迫った!
二人とも、明日は大した講義もなく、平日ということもあり、比較的ゆったりと映画をみれることが予測された。
だが、残念なことに、天候は、あまり良くないらしい。
(……明日、晴れるかな?)
ザーザーと降る雨音を聞き、あかりは、窓の外に目をむけた。
その雨は、まるで泣いているように、辺りを雫で染めていた。そして、その光景をみると、少し切なくなる。
正直、あかりは、雨音があまり好きではなかった。
雨の音を聞くと、あの日、シャワーに打たれながら亡くなっていた、彩姉ぇのことを思い出してしまうから。
だが、天気ばかりは、どうすることも出来ない。
(仕方ないよね。なにより、嫌われるつもりでいくんだし、明日のデートは、どの道、いいものじゃないわ)
明日、完全に嫌われてしまえば、もう二度と話すことは、ないかもしれない。
そう思うと、胸がキューッと締め付けられた。
まるで、嫌われたくないとでも言うように。
でも──
(嫌われなきゃ。せっかく橘さんから、嫌われ方だって学んだんだし)
そして、それが、神木さんのためにもなる。
そう決心したあかりは、改めて迷いを打ち消すと、再びノートをとり始めた。
*
*
*
「っ……もう最悪だ」
一方、部活帰りに、一人で帰宅していた蓮は、突然降り出した雨に、愚痴をこぼしていた。
時刻は、夕方6時過ぎ。
帰宅途中、いきなり降り出した雨は、蓮の制服をビショビショに濡らし、マンションに辿り着いた頃には、もう下着まで濡れている状態だった。
(やっぱ……傘もって行けば良かった)
濡れた髪から、シトシト雫が落ちる中、蓮は、濡れた髪をかきあげながら、ため息をついた。
なぜ、判断を誤ってしまったのか?
いや、別に誤ったわけじゃない。朝の天気予報では、夜から雨が降ると言っていたのだから。
しかし、所詮、予報は予報。
完全とは言い難い。
オマケに、折り畳み傘すら忘れてしまい、友人の航太は、部活を休んでいたため、帰りも一人。
それ故に、前のように、航太と相合傘的な展開にもならなかった。
(なんか、寒っ……帰ったら、すぐに風呂入った方がいいかも?)
その後、軽く身震いをした蓮は、濡れた身体のままエレベーターに乗り、自宅まで進んだ。
「ただいまー」
そして、いつも通り玄関を開け、湿った靴を脱ぎ、リビングまで行くと
「おっかえりー」
と、双子の姉である華が声をかけてきた。
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