第434話 キャラメルと塩


「良かったら私に、を教えていただけませんか!?」


「…………」


 そして、そんなあかりの言葉に、隆臣は眉をひそめた。いきなり何を言うのかと思えば、飛鳥の嫌いな女子のタイプを教えて??


「いきなり、どうしたんですか?」


「あの……実は、来週、神木さんと映画を見に行くことになりまして」


「あぁ、デートですか?」


「デ、デートじゃありません!!」


 顔を真っ赤にして、あかりが否定する。


 だが、隆臣は飛鳥から、来週のデートの話をしっかり聞いていた。


 というか、あかりさん!


 俺はどちらかと言えば、飛鳥サイドの人間だから、俺に相談するのは、色々、間違ってる!


 だが、相談されて突き放すことなんてできず、隆臣は、素直に話を続けた。


「飛鳥に、嫌われたいんですか?」


「き、嫌われたいというか、嫌われるような女にならないと、諦めて貰えないと思うので……だから、教えて欲しいんです。神木さんが、苦手なタイプの女の子を」


「苦手なタイプと言われても」


 パッと思いついたのは、だった。


 飛鳥は、ミサに対しては、トラウマを抱えるくらい苦手意識を抱いていた。


 だが、彼女は、また違うタイプ苦手女子(?)だろう。


「あかりさんは、知らないんですか? 飛鳥の嫌いなタイプ」


「……はい、私は全く。知ってるとしたら、神木さんの好きなタイプくらいでしょうか?」


「好きなタイプ?」


「はい。が好きだって聞きました」


(巨!?)


 あれ!?

 アイツ、巨乳好きだったっけ!?


 10年一緒に居るのに知らなかった──と、一瞬、勘違いしそうになったが、その瞬間、ふとおもいだした。


(あ、そういえば、前に大河のせいで、あかりさんに誤解されたことがあったような?)


 一年くらい前の話だ。


 大河が、空気を読まずに、余計なことを言ったせいで、あかりさんに、飛鳥は巨乳が好きだと勘違いされたことがあった(第102~103話参照)


 そーか、そーか!

 あの誤解、まだ解けてなかったのか!?


「あの、あかりさん、飛鳥は別に」


「あ、いいんです! 人の趣味嗜好を、とやかくいうつもりはありません。でも、その……胸の大きさは、私には、どうすることも出来ないので……もっとこう、嫌いな態度とか、嫌がりそうな言動とか、そういうのを教えていだきたくて……っ」


 ──なるほど!


 つまり、"巨乳好きの飛鳥"に嫌われたくても、自分の胸を小さくすることは出来ないから、外見以外で嫌われる要素を、取り入れたいと!


 確かに、あかりさんはスタイルがいいし、胸も小さくはない。


 どちらかと言えば、巨乳に属するほうで、だからといって、大きすぎるわけではなく、D~Eくらいの、ほどよいサイズだ。


 ──て、なに考えてるんだ、俺は!?


「あの、橘さんなら、神木さんのこと、なんでも知ってると思ったんですが」


「いや、別に、何でも知ってるわけじゃ」


 なぜ、あかりさんが、そう思うのかは知らないが、もちろん、隆臣にも知らないことくらいある。


 ……と言いたいところなのだが


「でも、飛鳥の嫌いなタイプならしってますよ」


 そう、なんと知っていたのだ。

 飛鳥の嫌いなタイプについてなら!


「本当ですか!?」


「はい。いつだったか、色々言ってましたよ……『俺の外見しか見てない子』とか『束縛が激しい子』とか『キレやすい子』とか『自己中で自分一番な感じの子』とか、とにかく『俺のやりたいことを邪魔してくる子』は苦手だとかなんとか、色々」


「思ったより、ありますね」


 なんか、湯水の如くでてきたよ、嫌いなタイプ!

 だが、これは、逆に有難い!!


「わかりました! ちょっとメモしてもいいですか!」


「メモ!?」


 すると、あかりはスマホを取り出し、ピコピコと文字を打ち始めた。


 スマホの画面には『神木さんの嫌いなタイプ』と見出しがつけられ、その下には、先程、隆臣が羅列した飛鳥の嫌いなタイプが、ズラリとならんでいく!


 すると、あかりは、満足したらしい。

 どこか、納得のしたように


「なるほど! つまり『外見しか見てない子』が嫌いなら、外見を、褒めまくってみればいいですね! あとは、映画館に行った時、神木さんが『キャラメル味のポップコーンが食べたい』といったら、私は断固『塩味がいい!』とワガママを言ってみます! そうすれば、きっと神木さんに、嫌われますよね!!」


「………」


 目をキラッキラに輝かせる、あかり。

 それは、まるで勝利を確信したかのようだった。


 だが、なんか違う気がする!?

 それで、本当に嫌われると思っているのだろうか!?


(外見だけだとしても、あかりさんに褒めたら、飛鳥、喜びそうな気が……)


 しかも『塩味がいい』というワガママも、ただ可愛いだけでは!?


 なにより、飛鳥なら


『そっか。じゃぁ、塩味もキャラメル味も、どっちも買って、二人で仲良く食べよっか♪』


 なんて言って、あっさり第3の選択肢を、提示してきそうだ!!


(嫌われたいんだろうけど……この調子なら、無理だろうな)


 飛鳥に、嫌われたいあかりさんには悪いが、これなら、嫌われることはなさそうだ。


 隆臣は、内心ほっとする。


 しかし、なんとしても嫌われようと奮闘しているあかりを見て、隆臣はしみじみと目を細めた。


 飛鳥から、あかりさん飛鳥が好きだと聞いていた。


 なら二人は、両思いだ。

 しかし、よほど、困っているのだろう。


 わざわざ、嫌われてまで、飛鳥に諦めさせようとするなんて──…


(まぁ、相手は、あの絶世の美男子だからな。俺からも、ちょっと忠告しとくか……)


 すると、隆臣は、あかりのことが心配になったのか、飛鳥を喫茶店に呼びだすことにした。

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