第426話 心配と隣
「あー、負けた~!!」
お好み焼きを食べ終わったあと、神木家では、三兄妹弟がゲームをしていた。
そして、そこには、まだ"あかり"の姿もあった。
帰ろうとするあかりを掴まえた双子は、無理やりゲームに誘った。
そして、なんだかんだと断りきれないあかりは、その後『1回だけ』と言って、ゲームに付き合ったのだが、そのせいか、もう時刻は8時半。
さすがに帰らなくては……と、あかりは、時計をみつめる。
(大分、遅くなっちゃった)
「あかりさん。もう遅いし、泊まっていっていきませんか?」
「え!?」
だが、その瞬間、聞こえた華の声に、あかりは瞠目する。
泊まる!?
しかも、神木さんの家に!?
「な、何言ってるの、華ちゃん」
「だって、もう暗いし、こんな機会めったにないですし。私、あかりさんと、もっとお話したいなーって」
「お話は、嬉しいけど……でも、着替えもないし、明日もバイトだから、さすがに泊まるのは」
「えー!」
あかりの返答に、華が、残念そうな声を上げる。
兄のこともあるが、華にとって3つ年上のあかりは、まさにお姉ちゃんのような存在。
だからか、純粋に語り合いたい気分になっていた。
しかし、さすがに急すぎるからか、あかりは、申し訳なさげに断り、華は仕方なしに引き下がる。
「そうですよね。いきなりはムリですよね……じゃぁ、夏休み! 夏休みに泊まりに来ませんか!?」
「華、あかりを困らせるなよ」
だが、更なる提案をなげかけた華に、飛鳥が苦言する。
双子の目的は、きっと、自分とあかりを仲良くさせることだろう。
だが、さすがに宿泊を強要するのは、やりすぎだし、なにより、好きな女の子を家に泊めるのは、飛鳥にとっては、気が気じゃない……
「あかり。聞き流していいから」
「あ、いぇ。ごめんね、華ちゃん」
「いえ……私の方こそ、無理言っちゃって」
「うんん。……じゃぁ、私はそろそろ。今日は、ご馳走していただいて、ありがとうございました」
すると、あかりは、ペコりとお辞儀をし、その場から立ち上がった。
「あ、待って、あかり」
だが、そんなあかりを、飛鳥が呼び止める。
「送っていくよ」
「え! いいですよ。子供じゃあるまいし」
「子供じゃないけど、女の子だろ。もう暗いし、危ないよ」
「だ、大丈夫です。大学が終わった後も、このくらいの暗がりだし、慣れたものですし」
女子を送り届けようとするとは、相変わらず紳士的な人だ。だが、これ以上、神木さんのそばにいるのは…
「本当に大丈夫です。一人で帰れますので」
「ダメ」
「……!」
だが、そんなあかりを、飛鳥は、さらに引き止める。
「心配しすぎだって思われるかもしれないけど……もし何かあって、やっぱり送って行けば良かったって、後悔するのは嫌だから。──送らせて」
「……っ」
後悔──その言葉に、あかりは小さく息をつめた。
それを言われたら、もう何も言えなくなる。
だって、自分だって、嫌というほど後悔したのだ。
あの日、彩姉ぇが亡くなった時に──
「わ……分かりました」
◇
◇
◇
その後、星が出る夜の町を、あかりと飛鳥は、並んで歩いていた。
パーカーを着てフードをかぶった飛鳥は、目立つ金色の髪を、しっかり隠していた。
きっと、大学一の人気者と一緒にいたら、どんな噂を立てられるか分からない──そんな、あかりの気待ちを察してなのだろう。
だが、そんな飛鳥の配慮にも気づかず、あかりは、ずっと考えこんでいた。
(ど、どうして、こうなっちゃったの……っ)
もう、会いたくないと思っていた人と、食事をし、今こうして二人きりで歩いている。
だが、どうしてもなにも、これも全て、私が神木家に行ったからだ。
そして、運悪く、華ちゃんたちに出くわしてしまったから!
(はぁ。やっぱり、やめとけばよかった……っ)
今になって、くるべきではなかったと後悔する。
だが、どの道、髪ゴムは返さなくてはならなかったし、いつか、会わねばならなかった。
ならば、これを──最後にしよう。
「あかり、今日はごめんね。蓮華が迷惑かけて」
「え? あ、いえ、別に迷惑では」
「………」
「………」
考え込むあかりに飛鳥が声をかければ、あかりの言葉を最後に、会話が途切れた。
隣にいるのは、自分の好きな人。
だからか、こうしていると、余計に意識してしまう。
これまでにも、何度と、隣を歩いたことがあるのに、両思いだと自覚しているからか、いつもと同じ景色が、なぜか、違うものに見えてしまう。
(……神木さん、やっぱり、気づいてるのかな?)
そして、疑いはじめた、ある疑惑。
もしかしたら、神木さんは、気づいているかもしれない。
私が今、神木さんを好きだってことに……っ
「髪ゴム、わざわざ、届けてくれてありがとう」
すると、飛鳥が、また話しかけてきた。
あかりは、静かな町を歩きながら
「いいえ。むしろ、遅くなって、すみません」
「いいよ。会わずに返そうとしてたんだろ、どうせ」
「……っ」
それは、まさに図星で、あかりは、申し訳ない気持ちになる。
あからさまに避けて
あからさまに拒絶して
それでも、まだ私に微笑みかけてくれる。
傷つけてばかりいる私に
今もこうして、優しくしてくれる。
やっぱり、気づいてるの?
気づいてるから
あなたは、まだ──諦めていないの?
(っ……どうしよう。もし、本当に気づかれていたら!?)
気づかれていたらと思うと、心の中は羞恥心でいっぱいになる。
無理!
恥ずかしすぎる!!
なにより、本当にバレてたら、これから、どんな顔して会えばいいの!?
いやいや、どんな顔もないよね!?
もう会うつもりはないんだから!!
(あ、でも、神木さんのことだから、また話しかけてきそう……っ)
会うつもりがなくても、向こうからこられたら、どうしようもない。
それに、華ちゃんたちには懐かれちゃったし、エレナちゃんとの縁は切れないし、しかも、バイト先には、橘さんもいる。
なんだかんだ、飛鳥と関わりのある人々と、深く関わってしまったあかり。
だからか、疎遠になりたくても、なかなかそうはいかず……
「あかり!」
「っ!?」
だが、その瞬間、飛鳥が、あかりを抱きよせた。
手早く引きしめられた身体は、あっさり飛鳥の腕の中に収まって、突然のことに、あかりは目を丸くした。
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