第424話 お好み焼きとアピール


 どうして、こんなことになっちゃったんだろう?


 あの後、髪ゴムだけ渡して、とっとと帰ろうと試みたが、あかりは全く逃げられなかった。


 なぜなら、玄関は蓮が塞いでいて、背後から華に背中を押されれば、否応なしに、リビングに強制連行されたから。


 そして、あれよあれよという間に、夕食が始まってしまって、4人がけのテーブルの上には、ホットプレートと、お好み焼きの具材。


 そして、あかりの向かいの席には、華と蓮が仲良さげに座っていた。


 そりゃ、双子だ。

 隣にいるのが落ち着くだろう。


 だが、そうなると、あかりの隣に座る人物が、自ずと決まってくるわけで……


(近い……めちゃくちゃ近い!!)


 左隣の座る飛鳥との距離は、ほんの数十センチほどだった。手を伸ばせば、簡単に触れられる距離。


(どうしよう。すごく、居ずらい……っ)


 できるなら、早く帰りたい。

 なにより、華ちゃん達はしってるの?


 私が、神木さんを振ったこと──


(いや、知ってたら、家に招いたりしないよね? じゃぁ、神木さんは、話してないのかな?)


 目の前で、わいわいと会話をする神木兄妹弟の様子を伺いながら、あかりは、ぐるぐると考え込む。


 だが、あかりは、知らないと思っているが、もちろん、双子は


 先日、隆臣に『兄がフラれて落ち込んでる!』と泣きついたくらいだ。そして、その後の飛鳥の決意も、しっかり聞いていた。


 そう、お兄ちゃんは、確かにフラれた!

 だが、まだ諦めていない!


 ならば、大好きな兄の幸せのため、できることをやろうではないか!!


「あかりさん、飛鳥兄ぃのお好み焼き、ふわふわで、すごく美味しいんですよ~」


「料理上手な男って、いいですよね?」


「え? そ、そうね?」


(なんか、すごくわざとらしいな……っ)


 あからさまに兄をヨイショする双子を見て、飛鳥は、お好み焼きをひっくり返しながら、眉をひそめた。


 自分の恋を応援してくれるのは嬉しいが、あかりの前で、あまり余計なことは言わないで欲しい。


 だが、そんな飛鳥の気持ちには一先そぐわず、双子のヨイショは、更にエスカレートする。


「飛鳥兄ぃ、小2からお料理してるんですよ~。それに、クッキーとかチーズケーキとかも作れて、おやつのレパートリーも豊富なんです!」


「あと、裁縫もできますよ。体操服のゼッケンとか綺麗に縫ってくれますし、ピアノだって弾けます」


「そうなんです! 歌も上手いし! よく、童謡とか歌ってるから、結婚したあとは、完璧なお母さんになれます!」


「あのさ、ちょっと黙って」


 何故、お母さんとしてアピールされてるのか、それは、よくわからないが、流石に、しびれを切らしたのか、飛鳥が、ついに突っ込んだ。


 なんか聞いてるのすら、恥ずかしくなってきた!


 しかし、その双子の言動を聞いて、あかりはあかりで、ある確信を得ていた。


(これ絶対、知ってるわ……っ)


 だって、ものすごいプレゼンされる!


 『うちの兄は、いかがですか?』と、これでもかと優良物件アピールをしてくる!!


(つまり、華ちゃんと蓮くんは、私が神木さんを振ったのを知ってて、ここにつれてきたってことよね?)


 もしかして、くっつける気満々?

 だが、それは困る!


 しかし、そんなあかりとは裏腹に、双子は双子で必死だった。


(少しでもあかりさんに、お兄ちゃんの良さをしってもらわなきゃ!)


 そう、のいい所をアピールしなくてはならない!


 なぜなら、あかりさんは、兄のこの美しすぎる顔には、一切なびかなかったから!


 ならば、顔以外のいい所を、伝えておかねばなるまい! 兄は決して、顔だけの男ではないのだから!


「うちのお兄ちゃん、性格は難アリですが、それなりに、スキルは持ち合わせてます!」


「そうです! 兄貴は、性格さえ目をつぶれば、いい男です。きっと幸せな人生をおくれます」


「だから、黙ってって言ってるんだけど?」


 飛鳥が、にっこり悪魔的なスマイルを浮かべた。

 というか『性格に目をつぶれば』ってなに?

 性格って、一番大事な部分だろ!


「ほら、お好み焼きできたよ。無駄口叩いてないで、食べて。あかりもどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 双子とは対照的に、飛鳥が、優しくあかりに声をかければ、あかりの前のお皿には、アツアツのお好み焼きが、一枚盛り付けられた。


 外はカリッと、それでいて、中はふんわり。

 まさに見本みたいなお好み焼きだ。


 確かに、神木さんの料理の腕前は、なかなかのものだろう。そして、そのが振られたことに、華たちが納得いかないことも、あかりには、よくわかった。


 だが──


(ごめんね、華ちゃん、蓮くん。神木さんに問題があるわけじゃないの……)


 そう、これは全部、あかり側の問題。


 だが、その問題──つまり、ふった理由を、この家族に話すわけにはいかない。


「あかりさん! どうぞ、食べてください」


「あ、うん」


 華にうながされ、あかりは改めて、お好み焼きを見つめた。


 悩んでる場合じゃない。

 ここは、早く食べて、神木家を去ってしまおう!


 すると、あかりは、斜め前に置かれたソースに手を伸ばした。


「「あ──」」


 だが、その瞬間、あかりの手の上に、飛鳥の手が重なった。


 どうやら二人は、同じタイミングで、ソースを取ってしまったようで……?





https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817139557733875995

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