第417話 ため息と本気


「あ、飛鳥! お前、酒のペース、早くなってないか!?」


 落ち込んでいるかと思いきや、突然、愚痴り出した飛鳥を見て、隆臣が慌てて声を上げた。


 なぜなら、愚痴りだした途端、飲むペースが、格段に上がったからだ!!


 だが、隆臣が停めるのも聞かず、それでも飛鳥は、飲み続け


「はぁ? さっき、たくさん飲めって言ったの誰?」


「いや、明日講義があるから、あまり飲まないっていったの、誰!」


 飛鳥を心配し、隆臣が更に反論をするが、飛鳥は、そんな隆臣には目もくれず、グラスに入ったお酒をグビっと飲み干した。


 なんてことだ!

 これは、思ってたのと違った!?


 てっきり、落ちこみまくって、食事も喉を通らないレベルだとおもっていたら


 めっちゃ食うし!

 めっちゃ飲むし!!


 しかし、それ以上に、気になったのは、あかりさんのこと!


 まさか、あのあかりさんが──


「ほ、本当なのか? あかりさんが、飛鳥のことが好きって……っ」


 予期せぬ事実を知り、隆臣はゴクリと息を飲んだ。


 昨日は、なんの進展もなく終わったのかと思っていた。だが、飛鳥はフラれたといいながらも、あかりさんの気持ちを自覚していた。


 だが、それが本当だとするなら、飛鳥とあかりさんは、両思いになるわけで……


「すみませーん。ソルティ・ドッグ、一つくださーい!」


「て、聞けよ!?」


 だが、その後、個室の外に顔を覗かせ、ニコニコと追加の酒を注文した飛鳥に、隆臣は、またもや、つっこんだ。


「お前、そんなに飲んで、大丈夫か!?」


「そんなにって、まだ二杯目だよ」


「いや、お前二杯でも酔うだろ!? しばらくしたら、スイッチ切れて、子鹿になるだろ!!」


「だから、その子鹿ってなんなの? てか、なんの話だっけ? あー、あかりが俺を好きかって話だよね。好きだよ、あの様子は、絶対」


「ぜ、絶対って……っ」


 そこまで言い切れる?

 いや、言いきれるほどの確信があるのか?


 まぁ、飛鳥は顔がいいし、今まで、モテまくってきたし、いやいや、でも、あかりさんは、飛鳥の顔にはなびかないよな!?


 ていうか、フラれたんだよな!?

 それなのに好きって、どういうこと!?


「ほ、本当なのか? お前、ふられたショックで、やばい妄想してるんじゃ」


「なにそれ。完全にヤバいやつじゃん。本当だよ」


「そ、そうか。でも、好きなら、なんで……っ」


 頭がこんがらがり、隆臣が更に問いつめれば、飛鳥は、再び真面目な顔をして考え込んだ。


 正直にいえば、昨日から、ずっとそればかり考えていた。


 なぜ、あかりは、自分を拒むのか?


 もちろん、さっき言ったことに、嘘偽りはない。愛情で縛り付けて、あかりを苦しめたいなんて、一切思わないし、嫌がってるなら、離れるべきなのもわかってる。


 だけど、正しい答えはでていても、いつまでたっても、それを納得できないのは、あの時のあかりの表情が、消えないからだ。


『やめてください……それ以上は……言わ…ないで……っ』


 自分の告白を、必死に聞きたくないと泣いていた、あの時の弱々しい姿が──…


(はぁ……なんなんだよ、本当)


 どうにも理解に苦しみ、飛鳥は、くしゃりと前髪をかきあげた。


 サラサラの長い髪は、それにより肩から滑り落ち、飛鳥の色気をさらに引き立てる。


 その悩ましい姿は、一枚の絵になりそうなほど。


 だが、それからひたすら悩み抜いたあと──


「……もう、やめよ」


「え?」


 飛鳥が不意にそう言って、隆臣が反応する。


「え? やめる?」


「うん。もう、ごちゃごちゃ考えるのは、やめる」


 すると、ストンとスイッチが切り替わったみたいに、飛鳥が冷静に声を発した。


 悩みに悩み抜いて、もう考えることを放棄したのか?


 だが、顔を上げた飛鳥は、どこか曇りのない表情をしていた。


「あ……飛鳥?」


「ねぇ、隆ちゃん。両思いなら、


「は?」


 そのハッキリとした口調に、隆臣は首を傾げる。


(何、言ってるんだ?)


 飛鳥の言葉の意味がわからない。


 だが、返事にこまっている隆臣を見つめ、飛鳥は、にっこりと微笑むと


「だから、あかりが俺を好きだっていうなら、もう遠慮なくってことだよね?」


「!?」


 遠慮なく、口説く!?

 

 まさかの言葉に、隆臣は戦慄する。

 てか、さっきと言ってることが違くない!?

 

「いやいやいや、お前、フラれたんだろ!? てか、さっきは」


「うん、わかってるよ。あかりが俺に、一切気がないっていうなら、潔く諦めてる。だけど、今の状況は、全く理解できないんだよね。両思いなのに、何がダメなのか。なら、もう遠慮なく口説いて、とことん追い詰めてみようかなって。あかりの本心を聞きだすまで──」


 そう言った飛鳥は、まるで悪魔のように微笑んだ。


 その姿は、いつも以上に、美しく妖艶で、ドキリというよりは、ゾクリとした。


(あ、あかりさん……大丈夫だろうか?)


 そして、そんな飛鳥をみて、隆臣は口元を引きつらせた。


 どうやら、あかりの対応は、このめんどくさい友人をにさせてしまったらしい。


 そして、こんなにも愛情深い男に好かれてしまった、あかりの身を酷く案じたのだった。




https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16816927862648313375

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