ミサさんとBL ①
※ ご案内 ※
こちらの番外編は、ミサが、飛鳥と隆臣が付き合ってると勘違いしている頃の番外編となります。
お話は、ミサと隆臣が、初めて会話を交わした第349話『母親と親友』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054888822143/episodes/16816452220782444947)の次の日の話となりますので、それを、踏まえた上で、ご覧ください。
***
それは、春の風が吹き荒れる3月初旬のこと。
昨日、エレナと一緒に喫茶店にケーキを食べに行ったミサは、仕事に行く準備をしながら、ため息をついていた。
エレナと食べたイチゴケーキは、とても美味しかった。だが、それとは別に、とんでもない事実を確認しまった!
そう、なんと4歳の時に別れ、その後、美しく成長したあの飛鳥が、男性とお付き合いをしていたのだ!
「はぁ……やっぱり、私のせいかしら」
紺色のスーツを品よく着こなし、ミサは、申し訳なさそうに眉を下げた。
きっと、私のせいに違いない。
なぜなら飛鳥は、可愛くもあどけない幼少期に、あんなにも壮絶な経験をしているのだ。
きっと、母親が人を刺した姿を見て、女性不信に陥ってしまったのだろう。
だからこそ、恋愛対象が男の子に──
(あぁ!ごめんね、飛鳥! 私のせいで、普通の恋愛が出来なくなってしまったなんて! もう、どれだけ謝っても、謝り足りないわ……っ)
自分の愚かな行いが、息子の人生を、ここまで変えてしまうなんて……ミサは、酷く打ちひしがれた。
だが、ため息なんてついてる場合じゃない!
(落ち着かなきゃ……隆臣くん、とてもいい子だったし、飛鳥が隆臣くんを選んだのなら、ちゃんと応援してあげなくちゃ……っ)
悩みつつも準備を整えると、ミサは玄関でヒールを履き、外に出た。
空を見上げれば、晴れやかな青空が広がり、普段よりも強い風が吹いていた。
これは、壮絶な修羅場をくぐり抜けた後のお話。
穏やかな時間が流れる、春の日。
息子の恋を必死に理解しようと奮闘する、とっても不器用な母親のお話です。
番外編 ミサさんとBL
◇◇◇
「隆ちゃん、おはよ~!」
大学に行く準備を終え、飛鳥がマンションから出ると、そこには、いつも通り隆臣が待っていた。
スラリと背が高く、ラフな格好に身を包んだ隆臣。飛鳥は、スタスタとその親友の前までいくと、昨日のお花見の件を話す。
「28日、蓮華とあかりも大丈夫だって」
「そうか。じゃぁ、花見の日程は決まりだな。当日、弁当はどうするんだ?」
「それは俺が作るよ。あと、あかりが、サンドイッチ作って来てくれるって」
「そうか。じゃぁ、俺もなんか作ってくる。みんなで持ち寄った方が、弁当作りも楽になるだろ」
「ほんと! 助かるー♡」
見惚れてしまうような綺麗な笑顔を浮かべながら、飛鳥が素直に感謝を伝えた。
人数が多いと、弁当作りにも、かなりの時間がかかる。だが、3人で分担すれば、それなりに楽にもなるだろう。
だが、それから一呼吸して
「そういえば、昨日、エレナちゃんとミサさんが来たぞ」
「え?」
突然切り替わったその話題に、飛鳥は笑顔をなくし、硬直する。
「え、昨日……きたの? エレナたち」
「あぁ、お前が喫茶店を出て、しばらくしてからな。ミサさんと一緒にケーキ食べれて、エレナちゃん嬉しそうだったぞ」
「そ、そう」
エレナの話に喜びつつも、飛鳥の表情は明らかにこわばっていた。
だが、それもそうだろう。
あの母親が、
「だ、大丈夫だった? なにか酷いこと言われたりとか……っ」
海のように澄んだ飛鳥の瞳が、不安を宿しつつ、隆臣に向けられた。
退院したとはいえ、まだ不安が完全に消たわけではない。
あの人は、ゆりさんを刺して、あかりまで傷つけようとした。それで、更に、隆臣にまで悪意をむけられたりしたら……
「大丈夫だよ」
「え?」
だが、そんな飛鳥に、隆臣は安心しろと言うように微笑んだ。
「ミサさん、俺のこと、お前の親友として、ちゃんと認めてくれてるよ。それに、ミサさん言ってたぞ。もう、飛鳥を苦しめるようなことはしないって。飛鳥の将来に口を挟むつもりもないし、飛鳥が決めたのなら、どんなことでも応援するって」
「…………」
「正直、お前から話に聞いた時は、かなりヤバい母親だと思ってたけど、会って話してみたら、案外、穏やかな人で、驚いた」
「そ……そっか」
それを聞いて、飛鳥は心からほっとした。
なにより、
だが、その瞬間──
「ッわ──!」
ビュゥゥゥと、辺りに激しい風が吹き抜けた。
まるで、春一番とも言えるような強風が、新緑を巻き上げ、同時に飛鳥の髪や服を強引に靡かせる。
「ッ、なんか今日、やたらと風が強いね」
「い…ッ」
「隆ちゃん?」
すると、隆臣が、目元を押さえながら、小さく声を上げた。飛鳥はそれに気づくと
「どうしたの?」
「いや、今ので、目になにか入ったかも……ッ」
「え!?」
強風に煽られ、砂埃が舞ったせいかもしれない。隆臣は、痛みに耐えるような苦痛な表情をしていて、飛鳥は、すぐさま近づき、そのまま隆臣の瞳を覗き込んだ。
「ちょっと、目見せて」
そう言って腕を掴み、自分より背の高い隆臣の瞳を、少しだけ踵をあげつつ観察する。
「砂? 涙流せば出てこない?」
「う、涙なんて言われても」
「ムリ? じゃぁ、念の為、眼科に行った方が」
「いや、そこまでは……てッ!?」
だが、隆臣が微かに目を開けた瞬間、やたらと近い距離で飛鳥と目が合った。
もう、目と鼻の先だ。
しかも、女みたいに綺麗な顔が、酷く心配そうにこちらを見つめてくる。
「……っ」
すると隆臣は、珍しく頬を赤らめた。
なんなんだ、こいつは!
相変わらず、顔が綺麗すぎる!?
そう、もはや目の痛みなんて、一瞬で忘れてしまうほどに!!
「おまっ──近い!離れろ!」
「は? なにそれ。心配してやってんのに」
「心配なんかしなくていい! てか、お前の顔面、凶器なんだよ!」
「はぁ!?」
いきなり、人の顔を侮辱され、飛鳥が怒り混じりの声を上げる。
「お前、この綺麗な顔のどこが凶器なんだよ!?」
「綺麗だから、凶器だっていってんだろ!!」
「はぁ!? 意味わかんないだけど!?」
そして、その後、二人はいつものように口論を繰り返したのだが、そんな二人の姿を、草場の影から、なんと、ミサが見つめていた。
(あ、飛鳥と隆臣くんが……っ)
一応、言っておくが、決して、息子をストーカーしていたわけではない。
だが、なんとなく今日は、回り道をして、神木家のマンションの前を通って仕事に行くことにしたのだ。もしかしたら、大学に行く前の飛鳥の姿を拝めるかもしれないと思って。
しかし、幸運にもその姿は拝めたのだが、最愛の息子は、なんとマンション前で、
しかも──
(飛鳥、自分から隆臣くんに、キスしようとしてたわ……っ)
そう、ここからマンションまでは、ちょっと距離がある。
そのため、会話など一切聞こえないミサには、飛鳥が隆臣に、自分からキスをせがんだようにしか見えなかった。
そして、それを恥ずかしかった隆臣に、無理やり引き離され、今ちょっと痴話喧嘩してるみたいな?
(あ、あの二人、本当に付き合ってるのね)
──しかも、小学5年生の時から!!
そんなこんなで、二人のイチャコラを目撃したミサの暴走は、今後さらに加速していくのだった。
番外編②に続く!
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