第381話 電車と事件


「ありがとうございました……っ」


 その後、電車に乗った飛鳥は、目的地である隣町の駅で、足止めを食らっていた。


 何が起きたのかと言うと、桜聖おうせい市の駅から、隣町の宇佐木うさぎ市の駅に向かう電車の中での出来事だ。


 三駅ほど過ぎた頃には、次第に客が増えだし、ごった返し始めた車内。


 そんな中、華と葉月をシートに座らせ、飛鳥は一人吊革につかまり立っていたのだが、このズバ抜けた美貌とオーラのせいか、飛鳥は、満員電車の中でも、それはそれは注目を集めていた。


 だが、その飛鳥に客が注目しているのをいいことに、なんと悪質な事件が勃発。


 被害者は、20代の女性。そして、加害者は30代の男性。生々しいので詳細は省くが、女性が被害にあっているのに気づいた飛鳥は、満員電車の中を難なく移動し、あっさり男を取り押さえた。


 何故、満員電車の中を難なく移動できたのかと言うと、これほどの美男子で、なおかつ笑顔の可愛い飛鳥が『すみません。ちょっと通してください』と一声かければ、人々はモーゼのごとく道を開けてくれるからだ。


 そんなわけで、満員電車の中でも利用可能な護身術を駆使し、見事、男を撃退し、女性を救い出した飛鳥くん!


 もちろん、言い逃れできないよう、しっかり証拠写真を撮ってからという用意周到ぶり。犯罪行為に関しては、幼少期から幾度となく修羅場くぐり抜けてきた飛鳥。実に鮮やかな対応である。


 だが、そんなこんなで、いつも以上に注目の的となった飛鳥。

 しかも、他に類を見ないほどの絶世の美男子が、颯爽と事件を解決したということで、加害者男性を駅員さんに引き渡した頃には、目をハートにした女子たちにより人だかりができてきた。


 駅の中は、まるでアイドルでも現れたかのような、騒ぎよう。だが、一連の事件に関わったばかりか、元はと言えば、飛鳥に視線が集中していることを利用した事件だったため、飛鳥とて他人ごとではなく……


「本当にありがとうございました。よかったら連絡先をおしえていただけませんか? お礼をしたくて……!」


「いいえ、名乗るほどのものではないですし、この付近に住んでいるわけでもないので、お礼なんていいですよ」


 被害似合った女性が飛鳥に頭を下げれば、飛鳥はにこやかに対応し、その後、颯爽と駅から去った。


 ちなみに、華と葉月はと言うと、事件の詳細を警察に話すとなると時間もかかるからと、飛鳥に追いやられ、先に駅から離れた二人は、どこかのお店で早めの昼食中だ。


(はぁ……やっと終わった!)


 その後、駅からでると、晴れた空の下で、飛鳥は一息ついた。


 かれこれ一時間は、足止めをくらってしまった。とはいえ、あんな所を目撃したのだ。助けないなんて選択肢は、はなからない。

 だが、こんなアクシデントがおこりやすいからこそ、飛鳥は人混みが嫌いなのだ。


「もしもし、華? 終わったよー。今、どこにいる?」


 その後、飛鳥は、駅前ですぐさま電話をかけた。すると、電話に出た華は


「目の前にあるハンバーガー屋さんだよー!」

「目の前?……あぁ、あった」


 どうやら、目的地は、すぐそこらしい。


 道路の向かいにあるハンバーガーショップの中からは、窓際に席をとった華が、ヒラヒラと手を振っているのが見えて、飛鳥は電話を切りながら、華に振り返した。


 そして、その後、すぐにスマホをしまうと、飛鳥は横断歩道を渡り、華たちの元へ。


 だが、ここでも綺麗な飛鳥は、すぐさま人目を引いてしまう。

 そう、飛鳥が店内に入った瞬間、客や店員の視線が一気に飛鳥に集中したのだ!


「やだ! なにあのイケメン!」

「超カッコイイ!」

「ハーフ? モデルとかやってそうだよね……!」


 地元の桜聖市なら、飛鳥のことは、それとなく知れ渡っているので、ここまで目を引くことはないが、ここは隣町だ。


 生活圏内ではないからこそ、飛鳥を知らない人で溢れているのもあり、歩く度に人々が振り返るり、店に入る度注目を集める。


 とはいえ、こんな反応は慣れたものなので、飛鳥は、さして気にも止めず店内を移動すると、その後、華達と合流する。


「お待たせ」


「おつかれさまー。あのお姉さん、大丈夫だった?」


「うん。とりあえずはね。比較的、早めに気づいてあげられたみたいだし、あとは、家族と警察に任せてきた」


「そっか……!」


 事件が一段落し、華もほっと息をつく。


 兄と一緒にいれば、何かしらのアクシデントに遭遇するのは、もはや日常茶飯事だ。だが、長年一緒にいる華は慣れたものだが、葉月はそうではなく。


「飛鳥さん、びっくりしちゃったー! てか、護身術できるって知ってたけど、あんなに強いなんて思わなかった!」


「あぁ、俺もたまにしか使わないしね、見る機会は滅多にないよ」


 葉月が感心すれば、飛鳥は、多少照れくさくなりつつ微笑んだ。


 飛鳥が護身術を覚えるきっかけになったのは、小5の誘拐事件からだ。


 あの事件のあと、息子の今後を心配した父の侑斗ゆうとが、大量に本を買い込んできた。女性や子供にも使える、あまり力を使わない護身術の本。

 それを、父を相手にしながら覚えたのが、なんだか、とても懐かしい。


「飛鳥兄ぃも、注文してくれば? ついでに、アップルパイも二つ追加で!」


 すると、華が明るく話しかけてきて、飛鳥は「はいはい」と言いながら華の横に荷物を置くと、財布だけ手にしてカウンターへと歩いていった。


 その後、しばらくして、飛鳥がハンバーガーやらポテトやらを手に、席に戻って来ると、話題は、飛鳥の女装服の話に変わり始める。


「ねぇ、飛鳥兄ぃ! あの制服、可愛いと思わない!?」


「え?」


 華が指さした方を見つめれば、先程飛鳥が行ったばかりのカウンターの方に向けられていた。


 どうやら、華が言っている可愛い服とは、"ハンバーガーショップの店員服"らしい。

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