第377話 クラス替えと意識

「ご馳走様でした~」


 その頃、桜聖高校では、昼食を終えた華が、兄のお弁当を食べ終わり、高らかに声を上げていた。


 新学期が始まり、華は2年D組に決まった。そして、今年も運良く、友人の葉月はづきも同じクラスになり、華にとっては、穏やかな2年生をスタートさせていた。


 だが、なんと一つだけ困ったことがあった。それは


さかき~! ノートみせて!」

「なんだよ、またかよ」


 教室の隅では、あのさかき航太こうたくんが、クラスの男子と話していた。


 そう、なんと華は、自分にとも、同じクラスになってしまったのだ!!


(どうしよう。まさか、同じクラスになるなんて。なんだか、目、合わせづらい……っ)


 榊くんの顔を見る度、ふとバレンタインの日のことを思い出す。


 『ずっと好きだった』という、あのストレートな言葉には、さすがの華も意識せずにはいられなかった。


(ダメダメ。普通に接しなきゃ、普通に……)


「華ー、どうしたの? 顔赤くして」


 すると、一緒にお弁当を食べていた葉月が声をかけてきた。少し様子のおかしい華。それを見て、葉月はズバッと問いかける。


「榊と、なんかあった?」


「え!? なんで!?」


「うーん、なんか最近、榊の顔を見る度に、赤くなってる気がする」


「うそぉぉ!?」


 まさか、顔に出ていたなんて!?


 華は、一層赤くなった頬を、恥ずかしそうに両手で押さえた。


「そ……そんなに、赤い?」


「うん。もしかして、好きになっちゃったとか~♡」


 ニヤニヤと笑いながら、葉月はからかうように華に問いかける。


 葉月は、航太が華を好きなことを知っていた。前に、みんなで遊園地に行った時、直接、航太に問いただしたから。


 そんなわけで、華が航太を好きになったのから、葉月にとっても喜ばしいことなのだが……


「うんん。そういうわけじゃないんだけど……」


(あー、違うのか?)


 あっさり否定の言葉を返した華に、軽くがっかりする。


 どうやら、このの心を動かすのは、なかなか難しいらしい。とはいえ、航太の顔をみて赤くなるほどには、意識し始めたらしい。


(まぁ、なんだかんだ頑張ってるじゃん、榊のやつ)


 しかし、華がこうして意識し始めたきっかけは、なんだったのだろうか?

 それが気になった葉月は、更に問いかけた。


「もしかして、告白された?」

「……っ」


 すると、華の顔は更に赤くなって、その可愛らしい華の顔に、葉月は確信する!


「ウッソ、マジで!?」

「わ、ちょっと、声大きい!」


 急に大声を上げた葉月を、華が慌てて静止する。こんな話を、榊くんや他のクラスメイトに聞かれたらどうなるか!?


(き、聞こえてないよね……?)


 チラリと航太を流し見れば、特に気付くそぶりもなく、男子たちと話をしていた。


 華は、それを見てホッとするが、葉月は声を落としつつも、更に問いかけてきた。


「ちょっと、そういうことは、ちゃんと話しなさいよね」


「そんなこと言われても、恥ずかしくて」


「いつ、告白されたの?」


「バレンタインの時に……あ、でも、告白されたわけじゃなくて……!」


「?」


 これは、どう説明すれば良いのだろう?


 告白で『好きだ』と言われた訳ではなく『好きになってゴメン』と、謝られたのだから


「あのね……実は、謝られたの、好きになってゴメンって」


「え?」


「たぶん、私の態度が榊くんを傷つけてたんだと思う。だから……」


「それって、榊は華を諦めたってこと?」


「そうだと、思う」


「…………」


 華の言葉に、今度は葉月が航太を流し見た。

 本当に諦めたのだろうか?

 2年……いや、3年も好きだったのに?


「それで? 華は、どうなの?」


「え?」


「ほら、榊って運動神経いいし、頭もよくて、顔もまぁまぁイケメンじゃん。飛鳥さんと比べたらスッポンだけど」


「飛鳥兄ぃと比べたら、この街のイケメン、全部がスッポンになっちゃうよ」


 いきなり、兄を引き合いに出され、華は苦笑いを浮かべた。


 悲しきかな! あの美人すぎる兄と比べれたら、普通のイケメンたちがスッポンレベルにまで落ちてしまうのだから、恐ろしい!


「飛鳥兄ぃと比べるのが、まず間違ってるよ」


「まーそうかもね、あの飛鳥さんと比べられなければ、今頃、も、モテモテだったのかもしれないのに」


「はぁ? 蓮はないでしょ」


「そんなことないって。華のパパさんだって、昔はモテモテだったらしいし、弟くん、パパ似でしょ?」


「いやいや、お父さんは社交性が高くてモテてただけ。蓮は無愛想だし、ノリ悪いし」


「えー、でも去年、文化祭で執事コスしてた時、結構女子がキャーキャーいってたよ」


「嘘だー! ありえなーい! ――ていうか、話それてない? 葉月、何が言いたかったの?」


「あ、そうだ……! つまりはさ、榊って、そこそこハイスペックだと思うんだよね? 性格も悪くないし、実家は、あの由緒正しき榊神社だし、チャラそうに見えて、意外としっかりしてるっていうか」


「うん? それで?」


「もう! だから、そんなカッコいい男子が、自分のことを好きだと分かって、華はどう思ったの?」


「え?」


 お弁当の包みを片付けようとしていた華の手が、その瞬間、ぴたりと止まった。


 榊君の気持ちをしって、どう思ったか?

 それは……


「なんでかな?って」


「え?」


「葉月の言うとおり、榊君って、とっても素敵な人だとおもう。だから、これまでにも告白されたことあると思うんだよね。それなのに、なんで、私みたいな、なんのとりえもない普通の女の子を好きになったのかな?って」


「………」


 淡々と、だが、あまりにもあり得ないといった表情で悩む華を見て、葉月はズバッと答えた。


「……華、自分のことだと思ってたの?」


「え!!? なにそれ!?」


「言っとくけど、あのとして生まれてきた時点で、華は普通じゃないから」


「ちょっと待って、生まれた時点で!?」


「そうだよ。あんなお兄さん、どこ探してもいないから!」


「それは、そうだろうけど!」


「ていうか、あんたたち双子は、自分を下に見すぎなの! あんな綺麗すぎるお兄ちゃんを見本にしてきたから、基準がおかしくなってるんだろうけど、華は可愛いし、いい子だし、もっと自信持ちなさい!」


「自信って……っ」


「それに、前も言ったでしょ、中学の時も、華を好きだって子は何人かいたって。だけど、あのお兄さんに怯えて、告白できなかっただけ!」


「いや、待って。うちのお兄ちゃん、そんなに怖い??」


 といいつつも、わからなくはなかった。

 なぜなら、あの兄の絶対零度の笑みは、魔王レベルで恐ろしいから。


「まぁ、怯えてってのは、言い過ぎかもしれないけどさ。でも、華は榊に引け目を感じる必要はないと思うのよ。ていうか、だと思う」


「え?」


「いっそ、?」


「!!?」


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