第374話 息子と彼氏
『お前、今、ミサさんに、小5から、男と付き合ってる息子だと思われてるぞ』
「!?」
その隆臣の言葉に飛鳥は唖然とする。
男と付き合ってる!?
しかも、小5から!?
だが、そのとんでもない事実と同時に、飛鳥は、昼間のミサとの会話を思いだした。
ミサはあの時、確かに飛鳥の恋を応援すると言っていた。
だが、今の話を総合すると、その恋の相手は、あかりではなく──隆臣!
「あ゛ぁぁぁぁぁ、ちょっと待って!!」
瞬間、飛鳥は盛大に崩れ落ちた。顔を真っ青にし、頭を抱えた飛鳥は、今までにないくらい動揺していた。
無理もない。今、やっと16年の時を経て歩み寄り始めたというのに、そのミサに、男と付き合っていると、勘違いされているのだから!
『飛鳥、大丈夫か?』
「大丈夫じゃないよ! なんで、よりにもよって……っ」
そう、よりにもよって相手は、あのミサ。もはや、あかり以上のダメージを食らった気がした。
だが、恐ろしいのは、これから、その
だが、なんと伝えればいいのだろうか!?
電話をするのは、まだ、ちょっと緊張する。
しかも、その電話をしたあと「俺、隆ちゃんとは、付き合っていません」と、わざわざ説明しなくてはならないなんて──
「うわ、もう……最悪……っ」
『すまん、飛鳥。俺もまさか、ミサさんがそんな勘違いをしているとは思わなくて』
「そりゃ、思わないよね。隆ちゃんも、ある意味、被害者みたいなものだよ」
『そうかもな。でも案外、いい人かもしれないぞ、ミサさん』
「え?」
『実は、あの時「飛鳥のことを、宜しくお願いします」って頼まれた』
「なに、宜しくされてんだよ!?」
『多分、可愛い息子を嫁にやる心境だったんだろ』
「嫁!?」
『まぁ、男との恋を応援してくれるって、なかなか懐広い人だと思うぞ。それに『もう、お前の幸せを壊したくない』って言ってた』
「え?」
『彼女なりに、反省してるんだろうな。お前を傷つけてきたこと』
「…………」
その隆臣の言葉に、ふと先程のミサの姿を思い出した。
ただ、お弁当を届けに来ただけなのに、涙を流すほど、息子が来たことを喜んでいた。
あの姿には、確かに少しだけ、胸を打つものがあった。
もう、あの頃とは違うのだと。
柔らかな雰囲気を宿す
少なからず、安心した──
「うん、確かに変わった気はするよ。でも……」
だが、16年──その歳月は、あまりにも長すぎて、まだ、少しだけ疑う気持ちも残っていた。
今はよくても、また変わってしまうかもしれない。
歩み寄りたい自分と、近寄りたくない自分。
天秤にかけられた自分の感情が、未だにグラグラと揺れている。
それでも、今日会えたのは、きっと、歩み寄るための、大きな一歩だった。
それなのに……
「飛鳥兄ぃ、ラーメンのびちゃうよー?」
「……あ」
瞬間、華が声をかけてきて、飛鳥は我に返った。見れば、テーブルの上には、先程作ったラーメンがあって、双子は先に食べ始めていた。
確かに、伸び始めたラーメンほど、不味いものはない!
「ごめん、隆ちゃん、そろそろ切る」
『あぁ、俺もそろそろ、バイト戻る。でも、ミサさんの誤解は早く解いとけよ。他に広まる前に』
「他に?」
『あぁ、特に
「うわ……!」
なんだか、軽く想像出来てしまった。
隆臣への親友としての信頼が厚い父のことだ。もし、息子に手を出された(出てない)となったら、裏切られたとすら思うかもしれない!!
「はぁ、父さんに知られたら、マジで厄介。でも、電話するのは……ちょっと気が重い」
『頑張れ』
「軽!? 元はと言えば、隆ちゃんのせいだろ!」
『いや、だから、俺は普通に答えただけだって! それに、ミサさんが、そう思ってたってことは、まだ他に、俺たちの仲が怪しいって、吹き込んだ奴がいるってことだろ!』
「まだ、いるの!?」
一体、この噂は、どこからはじまったのだろうか?
飛鳥は、酷く頭を抱えたまま、その後、ラーメンを食べたのだった。
◇
◇
◇
「もしもし、お母さん?」
その後、自宅に戻ったあかりは、実家に住む母親に連絡していた。
あかりの母である
その穏やかで優しい雰囲気は、あかりともよく似といて、だからか、あかり自身も、稜子には何かと相談しやすかった。
『え? アルバイトを?』
「うん、どうしても、そのお店で働いてみたいの」
稜子と話しながら、あかりは切実に訴える。勿論、その相談の内容は、アルバイトのこと。
だが、初めは、反対されると思っていたが、稜子は、頭ごなしには反対しなかった。
『そうねぇ、喫茶店なら、私は別に構わないと思うけど』
「ホント?」
『えぇ……でも、お父さんと
「あー、やっぱり?」
あの親バカ、姉バカの父と弟ならば、きっと反対するだろう。だが、それは想定内のことだった。だからこそ、あかりは、先に稜子への説得を試みたのだから!
「お願い、お母さん! 私の難聴のことも理解してくれたし、店長の美里さんは、とても素敵な方だし、私、あのお店で、働いてみたい!」
『うーん、そうね……確かに、アルバイトはいい経験になるし。わかったわ!あかりが、そこまで言うなら、お父さん達は、私から説得してあげる! でも、あまり無理はしちゃダメよ、あくまでも学業優先でね』
「うん! ありがとう!」
稜子の言葉に、あかりはほっと胸を撫で下ろした。母の言葉になら、父と弟は、きっと納得するだろう。
すると、あかりは、面接時に渡された書類の話をいくつかした後、稜子との電話を切ると、小さく息をついたあと、改めて、スマホを見つめた。
(どうしよう。一応、許しては貰えたけど)
電話帳をスクロールして、履歴の中から『神木 飛鳥』と書かれた名前を探しだす。
すると、その名前を見つめ、あかりは無意識に頬を赤らめた。
「どうしよう。連絡して……いいかな?」
✤✤✤✤✤
閲覧、いつもありがとうございます。
あかりが、アルバイトできそうで、お兄ちゃんの女装が決定しました(笑)
そこで、今回は、飛鳥に着せたい服のリクエストを、読者さまから募集したいと思っています。
カクヨムでは、初の試みなので、正直、くるかわからないのですが、リクエスト頂けたら、その中から決めたいと思っていますので、よかったら、あかりの前で、この服着て欲しいな?ってのがありましたら、コメント欄で教えてください(着せるのは一着だけですが、リクエストは何着でもOKです。マシュマロやFANBOXでも受け付けてます)
それでは、いつも応援頂き、ありがとうございます!引き続き、本編をお楽しみくださいませ。
あとがきと次回予告↓
https://www.fanbox.cc/@yukizakuraxxx/
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