第373話 兄と隆臣さん


「隆ちゃんて、俺のこととして、だったりする?」


『は??』


 唐突にそう聞かれ、隆臣は目を見開いた。


 好きか、どうか?

 しかも、恋愛対象として?


 だが、その言葉に驚いたのは、隆臣だけでなく


「兄貴! 何考えてるんだよ!?」

「まさか、隆臣さんに乗り換える気!?」


 まさか、あかりさんに女装姿が見たいと言われて、心が折れたのか!?


 そう思った双子は、電話口で喚き出し、その会話を聞いていた、隆臣も『どうなってるんだ?』と眉を顰める。


『飛鳥、お前、正気か? いくら、あかりさんが、振り向いてくれないからって、男に乗り換えるのは』


「誰が、男に乗り換えるって?」


 すると、隆臣の発言に、飛鳥がニッコリと黒い笑顔を浮かべた。


「バカ二人(双子)の会話は聞かなくていいよ! とにかく、今、隆ちゃんは、俺のことどう思ってんの? 付き合いたいって思ってたりするの?」


『つ、付き合いたいって……っ』


 再度、問い詰められ、隆臣は更に困った。


 飛鳥は、今、何を考えているのだろう?

 だが、その問いかけに返事をするなら


『悪いが、お前と付き合いたいと思ったことは、一度もない』


「うん。まぁ、そうだよね」


 スッパリきっぱり『ない』と返され、飛鳥は、ほっと息をつき、またにっこりと笑う。


「うん、そうだとは思ってた」


『だったら、聞くなよ!?』


「ゴメン、ゴメン。じゃぁさ、ココ最近、あかりの知り合いに『俺と付き合ってる』とか『付き合いたい』みたいた話をした記憶はある?」


『は?』


 すると、またしても意味のわからない質問が返ってして、隆臣は困惑する。


『なに言ってんだ? 付き合ってもいないのに、付き合ってるなんて話するわけないだろ!』


「うん。まぁ、そうなんだけど……でも、って話を、あかりが、誰がから聞いたらしいんだよね。それで、その誰かは、隆ちゃんから聞いたらしくて」


『はぁ??』


 そして、混乱は更に加速し、隆臣の思考は迷宮入りする。


(ん? どういうことだ? つまりは、俺と飛鳥が付き合ってて、その話を俺が誰かに話して、その誰かから、あかりさんが……)


「もう一度聞くけど、俺と付き合ってるつもりだったりしないよね?」


『しねーよ!?』


「じゃぁ、なんで、あかりは、俺達が付き合ってるなんて勘違いしてたの!?」


『しるか!? 大体、あかりさんの知り合いなんて、俺はよく知ら……あ』


 だが、その瞬間、ふと思い出した。


 あかりの知り合いと言えば、隆臣におもいあたるのは、しかいない。


 だが、そのエレナと一緒にが訪れた時、ミサに聞かれたのだ。


《飛鳥とは、いつからされてるんですか?》


 ──と。


『………………』


 そして、その後、隆臣は蒼白する。


 あれ? もしかして、あの『お付き合い』は、のお付き合い???


「隆ちゃん、どうしたの?」


『……っ』


 すると、電話先で顔を青くする隆臣に、飛鳥が問いかけた。


 隆臣は、手を額に当てると、その後、恐る恐る口にする。


『あの……飛鳥、俺……言ったかも?』


「ん? なにを?」


『だから、お前と付き合ってるって』


「!? はぁ? やっぱりお前かよ!?」


『いや、でも、誤解だ! 俺は、いつから付き合ってるのか聞かれて、友達としてだと思ったんだ! だから、小5からって』


「小5!? ていうか、誰に言ったんだよ!!」


『それは……っ』


 瞬間、言葉に詰まった。


 もしも、相手がミサだとわかれば、飛鳥は何を思うだろうか?


「なに? 隆ちゃんも、話せないって言うの?」


『え?』


「あかりも、話してくれなかった」


『…………』


 そりゃ、話せないだろう。実の親に、男と付き合ってると思われてますよ、なんて……


 だが、飛鳥にとっては、切実な問題でもある。特にこのモテまくってる飛鳥だ。噂の出処が分からないのは、不安でしかないだろう。


 そう思った隆臣は、仕方なしに話すことにした。


『お……怒るなよ』


「怒らないよ」


『じゃぁ、言うが……相手はさんだ』


「え?」


『お前、今ミサさんに、だと思われてるぞ』


「!?」


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