番外編 ⑨

侑斗さんとゆりちゃん ①


皆様、いつも閲覧頂き、誠にありがとうございます。


comicoから、小説をすべてお引越しすることになり、カクヨムでは、未掲載だった番外編も順次掲載することにしました。


そんなわけで、今回からは未掲載の番外編を公開します。


お話は、ノスタルジア編のあと『侑斗とゆり(+飛鳥)の新婚時代のお話(全4話)』になります。


普段より、アダルトな表現がございます。親のイチャイチャは読みたくないよーって方は、スルーしてくださいね~





 ✻─────────────────────✻




「侑斗さーん。朝だよ、起きて~」


 朝を迎え、未だベッドの中にいた侑斗は、ゆりの声でゆっくりと目を覚ました。


 布団から顔を出せば、先日、愛を誓い合った12歳も年下の女の子が、エプロン姿で語りかけてくる。


 もう朝食が出来たのだろうか?


 侑斗は、そんなゆりの姿を微睡むような視線で見つめると……


「んー……あと、少し寝かせて」


「えー、そろそろ起きないと、飛鳥、保育園遅れちゃう!」


「そんなこと言ったってー……今日出かけると思って、夜のうちに全部仕事すませたんだよ。さすがに眠い……っ」


「もう、何時までやってたの?」


「……3時」


 眠そうに欠伸をしながらそう言った侑斗に、ゆりは小さくため息をつく。


 部署に人が少ないのかしらないが、相変わらずの社畜っぷり。たまにブラック企業なのでは、とすら思う。


 するとゆりは、ベッドの前に膝をつくと、侑斗の顔を近い距離で覗き込んだ。


「じゃぁ、もう少し寝とく? ご飯はできるだけ3人で食べようねって約束したのに」


「…………」


 少しシュンとしたゆりの声が聞こえて、侑斗は閉じていた目をまた開くと、その後、ゆりの頬にそっと手を伸ばした。


「じゃぁ……キスしてくれたら、起きる」

「……っ」


 そう言って、ほほえみかければ、ゆりは、頬を赤くし、少しだけむくれた顔をした。


「っ……もう、なに甘えてんの?」

「えー、いいじゃん。飛鳥が見てない時くらい」


 甘えた声を発し、その手を頬から首筋に回し、更にゆりを引き寄せれば、近い距離で再び見つめ合う。


「頑張った、ご褒美♪」

「もう、仕方ないなぁ~」


 まんざらでもない様子で、ゆりが承諾すれば、そのまま身を乗り出し、そっと目を閉じた。


 キシッ──とベッドが小さく音を立てると、二人はゆっくりと唇を近づける。


「おとうさーん! 起きた~?」

「「!?」」


 だが、その瞬間、部屋の外から、ひょこっと飛鳥が顔を出した。突然の我が子の登場に、二人はビクリと身体を弾ませ


「あ、飛鳥!?」

「あれ? お父さん、まだ寝てるの?」


 未だにベッドの中にいる侑斗をみつめて、ひょこひょこと駆け寄ってくる飛鳥(4歳)は、今日も超絶可愛い!


「お仕事、大変だったの? まだ眠い?」


「……い、いや、大丈夫。もうすっかり目が覚めたから、うん。すっかりと!」


「ホント!」


 ゆりの真横で飛鳥が語りかければ、侑斗は苦笑いを浮かべた。


(相変わらず、絶妙なタイミングで、入ってくるなー、飛鳥は)


「お父さん、ごはん食べよー」


「あー、今日は何かな~」


「今日は、お魚~」


 だが、それでも可愛いらしい飛鳥の姿に、侑斗がしぶしぶベッドから起き上がると、そんな二人をみつめ、ゆりは優しく微笑んだ。


「よし。じゃぁ、朝ごはん食べよっか、三人で♡」


 いつもと変わらない、幸せな朝──


 これは、ゆりが、侑斗と飛鳥と一緒に暮らすようになって、暫くたった


 ──7月7日の出来事です。








 番外編 侑斗さんとゆりちゃん







◇◇◇


 その後、飛鳥を保育園に送り届けた侑斗が帰宅すると、キッチンには、食器を洗っているゆりの後ろ姿があった。


 あれから、一緒には暮らすようになった、ゆり。


 だが、ゆりはゆりで、喫茶店のバイトは今も続けていて、今日は久しぶりに、お互いの休みが重なり、二人っきり。


 侑斗は、ゆりの元に歩み寄ると、後から、優しくゆりを抱きしめた。


「ただいま」


「おかえり、侑斗さん。飛鳥どうだった?」


「元気に保育園いったよ。今日は七夕飾り作るんだって」


「へー、飛鳥。何お願いするのかな~」


「どうせ、アンパンマンになりたいとか、そんなだろ」


「あはは。なにそれ、可愛い~」


 特段嫌がりもせず、ゆりは抱きつかれたまま作業を進めると、その後、しばらくたって、洗い物を終える。


「今から、でかける準備するから、もう少し待っててね」


 そういったゆりに、今度は侑斗は真面目な声を発した。


「……なぁ、ゆり。お前、ホントに俺でいいのか?」


「なにが?」


「何がって、今日は……」


 今日、でかける目的。

 それは『婚姻届』を出しに行くことだった。


「そんなに急がなくてもいいんだぞ? ゆりは、まだ19歳だし。もう少し付き合ってから、しっかり答えをだしても」


「侑斗さんは、私じゃ嫌?」


「嫌とか、そう言う話じゃなくて……俺は、ゆりと一緒にいたいし、この先、ゆり以外ないと思ってる。けど、ゆりは……」


「私も同じだよ。私も侑斗さんと一緒にいたいし、侑斗さんしかいないの」


 そういって振り向いたゆりは、侑斗を見上げて、ふわりと微笑んだ。


 同じような傷を抱えて、同じように心に虚しさを抱えていた人だからこそ、惹かれあった。


 初めて自分から、誰かを愛したいと思った。

 この人の心を、満たしてあげたいと思った。


「だから、なにも迷ってないし。今日だって、とっても楽しみにしてたんだよ」


 そういって、ゆりがまたフワリと笑う。


 年も離れてるし、こんなバツイチ子持ちの男が相手で本当にいいのかと、侑斗は、あの後も時折考えることがあった。


 可愛い上に、料理や家事もできる。

 ゆりなら、きっと相手なんていくらでも選べる。


 それに、もし結婚してから、嫌な部分が目についたら?

 こんな人だとは思わなかったと、言われたら?


 一度失敗しているからこそ、不安にもなって……


「ていうか。もし迷ってるなら、あの会いたくもない義理親の所にわざわざ挨拶しに行くわけないでしょ! あーもう、なんで未成年って、親の許可がいるんだろう!!」


 だが、その後、笑顔でありながらも怒りの声を上げたゆりをみて、侑斗は苦笑いを浮かべた。


 そう、未成年は結婚するのに親の許可がいるわけで、先日、ゆりの義理の親に、二人で挨拶に行ったのだが、ゆりを虐待していた例の親と、にこやかに話などできるはずもなく、印鑑ひとつ貰うのも大変だった。


「いや、ホントよく頑張ったよ。お前凄いな。結婚を認めないなら、私にしようとしたこと会社と警察に告発するって、もはや脅迫」


「だって、あーでもしないと、侑斗さん一発殴りそうだったし!」


「そりぁな! 義理とはいえ、娘に手だそうとした父親なんて殴られて当然だろ!」


「まー、離縁状も叩きつけてきたしね! もう二度と会うこともないよ!」


 すると、ゆりはまたニッコリ笑う。


 時々、ゆりの行動力が怖いなと思う時がある。一度嫌われたら、すぐにでも捨てられそうだ!


「それで、どうするの?」


「え?」


「私と……結婚してくれるの?」


 すると、ゆりは、再び侑斗を見つめた。


 可愛らしく、ぬだるような瞳で見つめられれば、ほかの答えなんて出るはずもなく


「……もちろん。ゆりの人生、俺が全部貰っていいなら」


 再び、抱き寄せると、侑斗は、ゆりの顔を持ち上げ、そっと口付けた。

 愛しいという思いが溢れるまま、深く深く口付ければ、舌先が触れた瞬間、その華奢な身体がビクリと反応する。


「んっ……ッ」


 吐息混じりの艶かしい声。その声に密着した身体が、さらに熱を帯びだせば、侑斗は、ゆりが着ていたエプロンのリボンをするりと解いた。


 もう、こうなってしまえば、あとは、求め合うだけで……


「ゆり……愛してる」

「ぅん、私も……」


 その言葉に、ゆりが頬をそめ、侑斗の首に腕を回せば、そのキスは、更に甘く痺れるようなものに変わっていく。


 吐息が混ざり合い、何度と口付けあえば、呼吸の合間に、また――愛を囁く。


 この思いが

 しっかりと相手に伝わるように……




 2月に出会って、早5ヶ月。


 本日、侑斗とゆりは、晴れて『夫婦』になるようです。


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