第357話 飛鳥と知り合い

 その後──


 バドミントンが終わると、飛鳥は、みんなの元から離れ、お手洗いに向かった。


 4チームに分かれて行われたバドミントンは、とても白熱し、久しぶりにいい運動になった。


 なにより、春休みにも関わらず、こうしてゆったりと桜を堪能できたのは、穴場である、この公園を教えてくれた美里のおかげかもしれない。


 それに、いつもなら、声をかけられまくる飛鳥だが、人目のつかない場所に来たおかげか、普段より遥かにナンパ率が低かった。


(いつもこうならいいのに……まぁ、俺が悪いんだけど)


 普段より平穏な日常に、飛鳥はほっとする。


 とはいえ、こんなにも綺麗な容姿を持って生まれてきた自分が悪いのだ。


 こればかりはどうしようもない……飛鳥は、呆れつつもトイレをすませると、再びみんなの元に戻ろうと、公園内を進む。


「飛鳥ちゃーん!」


「……!」


 だが、その瞬間、突然声をかけられた。

 いきなり自分の名前を呼ばれ、飛鳥は首を傾げる。


 とはいえ、いくら飛鳥が人気者だと言っても、ここは隣町。『あすか』という名の別人を呼んでいる可能性もあった。


 だが、その人物は


「飛鳥ちゃん、こっちだよ、こっち!!」


 と、再び飛鳥に向けて、声をかけてきた。

 少し野太い男性の声だ。


 すると、どうやら、その『あすかちゃん』はやはり、自分のことだったらしい。


 こちらに向かって手招きする人物を見た瞬間、飛鳥は目を見開く。


 それは、飛鳥も、よく知っている人物だった。


 子供の頃から顔見知りの、60代くらいの快活そうなそのお爺さんは、商店街に店をかまえる──魚屋の店主・げんさんだ。


「あれ、源さんだ」


「飛鳥ちゃん、こんなところで、会うなんて奇遇だな~」


「そうだね。源さんたちも花見に来たの」


「おーよ! 孫たちと一緒にな!」


 シートの上でお弁当を広げ、お酒を飲んでいた源さんは、飛鳥たち同様、お花見をしに来たらしい。


 源さんの周りには、飛鳥より年下の女の子達が数人と、その母親らしき人たちもいて、賑やかに宴を開いていた。


「ちょっと、おじいちゃん!? このイケメン、誰!?」


「飛鳥ちゃんなんていうから、女の子かと思ったら、男の人じゃん!?」


 高校生くらいの女の子たちが、飛鳥をみて顔を赤らめた。


 無理もない。飛鳥ほどの美青年が突然現れれば、大抵の女の子が、こんな反応をする。


「あっはっは、かっこいいだろー。飛鳥ちゃんは、うちのお得意さんでなー。昔から可愛いかったんだぞー。俺りゃぁ、飛鳥ちゃんの笑顔に何度、癒されたか」


「あはは。俺も元気な源さんに会う度、癒されてたよ。なにより俺たち、源さんちのお魚食べて育ってきたようなものだし」


「くー! そうかそうか、飛鳥ちゃんは相変わらずいい子だなー。そうだ、飛鳥ちゃん、今日は運転とかしねーよな?」


「運転? うん、俺まだ免許持ってないし」


「そうかそうか! じゃぁ、一杯飲んでけ! な!」


「え?」


 そう言うと、なんと源さんは飛鳥に空のコップを差し出し、お酒を進めてきた。


「え、でも……っ」


「おじいちゃん! ナイス! せっかくだから、飲んでいってください!」


「そうですよ~私達もお兄さんと、お話したいし、おじいちゃんも喜んでるし、是非!」


「えーと……じゃぁ、一杯だけ」


 女の子達に腕をつかまれ、あれよあれよと宴に誘われた飛鳥は、その後、源さんからコップを受け取りながら、朗らかに承諾した。


 子供の頃から、まるで息子のように可愛がってくれた源さんは、何度と、立派なお魚をサービスしてくれた!


 そんなわけで、飛鳥は、日頃の感謝も含めて、その後しばらく、源さんとお酒を飲むことになった。


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