第356話 対戦とアルバイト


 ポーンとバドミントンのシャトルが、宙を舞う。その後、四チームに分かれた一同は、まさにバドミントンの真っ最中!


 ちなみに、初めに対戦したのは、双子対狭山&大河ペア。


 だが、現役高校生の二人に、社会人が混じる狭山チームは、かなりの苦戦を強いられていた。


「ちょっと、タンマ! 君たち、運動神経良すぎない!? ハンデ! ハンデちょうだい!!」


「何言ってんの、狭山さん。こっちは、華が女の子だし」


「そうですよ~! ハンデとか無しー!」


「えぇ!? お兄さん、もう付いてけないんだけど!?」


「狭山さん、こうなったら、華ちゃん総攻撃でいきますか!?」


「え!? 大河くん! 女の子総攻撃とか、ちょっと酷くない!?」


 あーだこーだと揉めながらも、白熱する試合を、残りの4人はシートに座って見つめていた。


 双子は、勉強はそこそこだが、運動神経は抜群にいい。この辺りは、母親のゆりに劇的に似たらしい。


 一方、狭山と大河のほうは、普段の運動不足がかなり祟っていた。


「みんな、頑張れ~」

「狭山さーん、ケガしないようにね~」


 エレナと飛鳥が笑顔で応援すると、その両隣で、あかりと隆臣が穏やかにみつめる。


 すると、双子たちの戦いを見て、気合を入れたエレナは


「お姉ちゃん! 私達も頑張ろうね!」

「うん、そうだね」


 だが、そういって、和気あいあいとしたエレナとあかりをよそに、飛鳥と隆臣は、なんとも言えない表情を浮かべていた。


 寄りにもよって、この組み合わせになるとは。


 しかも、小学生の幼女と、ひ弱な女性相手に、男二人が本気を出すのは如何なものか。


 はっきりいって、かなりやりにくい!!


 これが、狭山達か双子であれば、力の限り戦うことができたのに……


「ねぇ。あかりって、バドミントン得意?」


 すると、飛鳥があかりの実力を確かめるべく話しかけた。すると、あかりは


「いえ、全く。私、運動苦手で」

「うん。だろうと思った」


 だが、案の定というか、予想通りな返答が帰ってきて、飛鳥は苦笑いをうかべた。


 これは、手加減してあげないと、あっという間に終わってしまいそうだ!


「神木さんは、得意なんですか?」


「いや、俺もあまり運動は得意なほうじゃないけど……でも、隆ちゃんは、かなり運動神経いいから、気を抜くとすぐ負けちゃうよ」


「あ、そうなんですね。でも、楽しいなら、勝ち負けは気にしません」


 あかりが、ふわりと笑えば、それと同時に桜がヒラヒラと舞いおりた。


 淡い桜色の背景が、今のあかりには良く似合う。


 たしかに、せっかくお花見に来たのだ!

 みんなで、楽しむなら、勝ち負けにはこだわらないのが一番!


(まぁ、あかりとエレナが楽しそうなら、いいか……)


 だが、その後、また別の話題を思い出して、飛鳥が問いかける。


「そういえば、お前、バイト見つかったの?」


「え!?」


 そして、その質問に、あかりは狼狽ろうばいする。


 今、あかりは、アパートを引越すお金を貯めるために、アルバイトを探していた。


 だが、どうやら上手くいっていないのか、その後、ズーンと沈み込んだあかりは


「いえ、まだ見つかってません。実は……二社、落ちました」

 

「落ちたぁ!?」


 どうやら、まだ見つかっていないだけでなく、面接にも落ちていた!


 それには、飛鳥も驚く。


「どこ、受けたんだよ!」


「どこでもいいじゃないですか! さすがに、落ち込んでるので、その話題はしないでください」


「…………」


 俯くあかりは、俯きながらそういって、飛鳥は傷口に触れまいと、黙り込む。


 確かに、面接に落ちれば、落ち込みもするだろう。


「何も無理して、バイトしなくてもいいのに」


「ダメです。私、これ以上、神木さんと恋……」


 ──恋人のフリなんて続けられません。


 そう、言おうとした瞬間、隆臣と目が合って、あかりは言葉をつぐんだ。


(あ、そういえば、私が神木さんに彼氏のフリしてもらってること、橘さん知ってるの?)


 もしも、ここで変なことを言ってしまったら、この2人の仲に亀裂が入りかねない。


(やっぱり、いち早く引っ越して、神木さんを解放してあげないと……あ、でも『付き合ってみる?』て言われたアレはなんだったんだろう? やっぱりカモフラージュ的な?)


 恋人のフリを続けていた方が、本命(隆臣)を隠すにはちょうどいいのだろうか?


 確かに、男の人と付き合ってるなんて大学でバレたら、色々大変そうだし、飛鳥的にもニセモノの恋人役がいた方が、なにかと都合がいいのかもしれない。


「あかりさん、バイト探してるんですか?」


 すると、今度は隆臣が話しかけてきた。


「あ……はい」


「じゃぁ、 ちょうど募集かけようと思ってて」


「え?」


 その提案には、あかりだけでなく、飛鳥も驚いた。


 どうやら、隆臣の実家でもある、喫茶店は、今ちょうどアルバイトを探しているらしい。


 だが、あかりにとっては、まさに、渡りに船だった!


「いいんですか?」


「はい。実は春に一人抜けて。あかりさんが入ってくれるんだったら、こっちは、かなり助かるというか」


「本当ですか!」


「ちょっと、隆ちゃん!」


 すると、あれよあれよと進む話に、飛鳥が隆臣を捕まえ、こそりと話しかけた。


「なにいってんの、急に」


「急にって、本当に募集してるんだよ。それに、あかりさんも困ってるみたいだし。なにより、お前も、よく知らない職場で働かせるよりは、うちの方が安心だろ」


「……っ」


 どうやら、飛鳥の思考を察して提案したらしい。


 たしかに、美里の経営する喫茶店は、飛鳥も一度、臨時でアルバイトしたことがあったが、とてもいい職場だった。


 よく分からない職場で働くよりは、確実にいいし、あかりも知り合いがいる方が、安心して働けるかもしれない。


「──というわけで、どうですか? あかりさん」


 すると、再度、隆臣が問いかければ、あかりはありがたく了承した。


「はい! 是非、お願いします!」


「じゃぁ、親に話しときます。多分、面接なく、そのまま採用にはなると」


「あ、待ってください……面接は、ちゃんとして頂いたほうが?」


「え?」


「あの、わがままを言って、すみません。でも、面接をして役に立たないと思ったら、遠慮なく切り捨ててください。ご迷惑は、おかけしたくないので」


「……そう、ですか。分かりました、じゃぁ、そのように、伝えときます」


「ありがとうございます」


 隆臣の言葉に、あかりが、ほっとしたよう笑う。

 だが、その心中は、少しだけ不安だった。


 のことを伝えたら、また不採用って可能性はある。だからこそ、面接をしっかりしてから、判断して貰いたいと思った。


「やったー! 勝った~」


 すると、試合が終わったらしい。

 華の勝利宣言が響いた。


「圧勝だったね、蓮!」


「そうだな。狭山さん、大丈夫ですか?」


「あー、なんでだろう。俺毎日、スカウトで歩き回って、運動してるはずなのに!」


「負けちゃいましたね~俺たち。でも、狭山さん、これは相手が強すぎたんですよ! 神木くんの妹弟ですよ!! 神木家は、やっぱり、神に近い存在なんです!」


「みんな、お疲れ様~」


 すると、そこにエレナが可愛らしく割り込んできた。


「お姉ちゃん! 次は、私達の番だよ!」

「うん、頑張ろうね!」


 その後、4人は双子たちから、バドミントンを受け取り、飛鳥が軽く腕まくりをして、対戦相手の2人の前に立つと、改めて眉をひそめた。


(……マジで、やりにくい)


 ただでさえ、子供に優しい飛鳥くん。しかも、そこに好きな女の子が加われば、ある意味、一番最悪な対戦相手だ。


「飛鳥、どう戦えばいいんだ?」


「うーん。それなりにラリーを続けて、エレナが疲れてきたら、本気出してサッと終わらせる感じで」


「相変わらず、妹弟したに甘いな」


「バカ言うな。この後、蓮華は本気でぶちのめすよ」


「あぁ…それは、楽しそうだな」


 そんなわけで、エレナたちと飛鳥たちの試合は、狭山達の試合とは打って変わって、ほのぼのなラリーが続いたのだが、そのあとの双子との対決では、力が有り余っていたのもあり、飛鳥と隆臣が見事、勝利したとか?

 

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