第355話 お弁当とバドミントン

「わー、きれ〜♪」


 一面が桜で埋め尽くされた、公園の中で、華がはしゃぎ声をあげる。


 ここは、飛鳥たちか住む地域から、車で一時間ほどの距離にある、総合運動公園。


 広々とした公園内は、いくつかの区画にわれており、桜が楽しめる区画はもちろん、アスレチックや、運動場も併設されている、花見やピクニックにはうってつけの公園だ。


 そして、現在、華たちがいるのは、そのなかでも比較的人が少ない穴場のスペース。


 しかも、広い公園だけあり、客も分散しているよるのか、遊ぶスペースも十分にあった。


「どうしよっか? 先にお昼にする?」


 荷物を運び終え、桜の樹の下にレジャーシートを広げていた飛鳥と隆臣に、華が話しかけた。


 今の時刻は、11時。


 これから、遊んで帰ることを考えたら、早めにお昼を食べるのもいいかもしれない。


「そうだね。先に食べようか」


「飛鳥さん、私も手伝う!」


「ありがとう。じゃぁ、エレナは、お皿とお箸、配って」


「はーい」


 シートの上にお弁当を広げ、みんなで手分けして準備すると、その後、飛鳥の隣のエレナが座り、その隣にあかりと華と続くと、蓮、隆臣、大河、狭山と座り、あっさり円陣が出来上がる。


 そして、その後は、桜を見ながら、お弁当の時間。


 それも、まさに見ごろというべきか、桜は満開。しかも、ひらひらと花びらが散る様は、なんとも儚げで、とても風情があった。


「今日は、晴れてよかったね」


 すると、蓮が唐揚げを取りながら、そういって、華が同意する。


「ホント! お花見とか久しぶりだし」


「俺も久しぶり! なにより、桜をバックに神木くんを拝めるなんて、最高の気分です! あー生きててよかったあぁぁぁぁ」


「武市くんは、何しにきたの? 桜見ろよ」


 主役は桜のはずが、相変わらずな大河に、飛鳥が、鋭くつっこむ。


「全く、今日も通常運転だね。武市君は」


「もちろんですよ! ていうか、いつも以上にテンション上ってます! しかも、神木君に、もう一人妹がいたなんて! こんな美男美少女に囲まれて花見ができるなんて贅沢すぎる!!」


「……あのさ。いっとくけど、エレナにまでそのテンションで迫るなよ」


「大丈夫だぞ、飛鳥。大河がエレナちゃんにまで迫りだしたら、俺が、問答無用で警察に突き出す」


「えぇ!? ちょっと橘! それじゃ、俺がロリコンの変態みたいじゃん!? だいたい俺は、神木くん一筋だから、そんなことしないよ!!」


「俺は、大丈夫じゃないんだけど」


(飛鳥兄ぃ、相変わらず、武市さんに愛されてるなー)


(信者って、怖ぇぇ……)


 男3人の会話を聞きながら、双子が静かに食事を進める。


 すると、話の中心だったエレナが、恥ずかしそうにしているのを見て、あかりが気を利かせて、話題を変える。


「エレナちゃん、ちゃんと食べれてる?」


「あ、うん! 大丈夫。でも、全部おいしそうで、どれを食べようか迷っちゃって……あ、お姉ちゃんのサンドイッチ、とってもおいしかった! ふわふわの卵のやつ!」


「ホント? 良かった~。私の卵サンド、ちょっと変わってるから少し心配だったの」


「変わってるって、何か違うの?」


 すると、あかりとエレナの会話に、飛鳥が口を挟んだ。


「あ、はい、一般的な卵サンドは、ゆで卵をつぶして作るものだと思うんですけど、私のは、スクランブルエッグを挟んでて」


「へー」


「よかったら、食べてみますか?」


 すると、あかりは、手前のバスケットを手にとると、それを、飛鳥の前に差し出ししてきた。


 中を見れば、ハムサンドやチキンサンドなどの他種多様なサンドイッチのほかに、卵サンドと思われるものが二種類はいっていた。


 そして、それをありがたく頂くと、飛鳥は、そのままサンドイッチにかぶりつこうとしたのだが


「…………あのさ。そんなにみられると、食べにくいんだけど」


「あ、ごめん!」


「つい……」


 サンドイッチを食べる飛鳥を、双子と隆臣、いや、むしれその場にいた全員がガン見する!


 だが、無性に気になってしまったのだ!


 好きな女の子が作ったサンドイッチを食べた兄が、どんな顔をするのか!?


(見るなって言われると、余計に見たくなる……!)


(ていうか、兄貴とあかりさんが話しているだけで、なんかドキドキする!)


(そういえば、飛鳥って、あかりさんの手料理食べたことあるんだろうか?)


 華、蓮、隆臣がそれぞれ、思考をめぐらせる中、飛鳥は、飽きれつつサンドイッチにかぶりついた。


 ちなみに、初めてではない。飛鳥はあかりの家で、一緒に夕飯を食べたこともあるほどなのだから!


「ん……おいしい!」


「あー、よかった~」


「普通の卵サンドより、甘いんだね」


「はい、スクランブルエッグを甘めにしてるので。それに、味付けはマヨネーズと塩コショウだけですから、普通の卵サンドより手軽に作れるんですよ」


「ふーん。俺も今度作ってみようかな?」


「ねぇ、お姉ちゃん。私でも作れる?」


「うん、エレナちゃんでも、大丈夫だと思うよ」


「そっか~! じゃぁ、私も今度お母さんと作ってみよう~!」


 にこやかに会話をする三人を、その他数名が微笑ましく見守る。


 さっきまでのドキドキが、あっという間に、ほわほわした気持ちに変わってしまったのは、きっと飛鳥とあかりの間にいるエレナのおかげだ!


「あ、そうだ! あかりさん!」


 すると、その光景を目にした華が、はっと思い出したように声を上げた。


 そう、華には計画があるのだ!

 このお花見で、兄とあかりさんの仲を、少しでも進展させるという、早大な計画が!!


「実は、このあと、皆でバドミントンしようと思ってるんです! あかりさん、飛鳥兄ぃとペアになりませんか!?」


「「!?」」


 だが、その、あからさまな提案に、飛鳥と蓮が絶句する!

 

 いくらなんでも、あからさますぎる!!


 ていうか、くっつけようとしてるのバレバレじゃない!?


「私が……神木さんと、ですか?」


「はい! 何だか、とっても相性が良さそうなので!」


「相性……」


「はい! だって、飛鳥兄ぃが、家にあげるほど仲良くなった女の子、あかりさんが初めてで!」


「そ、そうなんですか? あ、でも、相性で選ぶなら、私より、!!」


「「!?」」


 すると、いきなりとんでもないことを言い出したあかりに、隆臣と飛鳥は困惑する。


「え!? 俺ですか?」


「はい。橘さんと神木さんほど、相性いい二人はいないと思いますよ」


「あー! 確かに相性で選ぶなら、神木君と橘は相性抜群だよね! ケンカしてても息ぴったりだもん!!」


 すると、あかりの話に大河までのっかり、話は更に思わぬ方にすすんでいく!


「ちょっ、俺と隆ちゃんのどこが相性いいんだよ!?」


「またまた~、喧嘩するほど仲がいいってやつですよ! 正直、俺は羨ましいです、橘が!!」


「あはは、確かに、私も飛鳥さんと隆臣さんは、相性いいと思うなぁ~。それに、相性が良さそうな人とペアを決めるって面白そう! 華さんと蓮さんとか、抜群に相性よさそうだよね!」


「「え?」」


「ふふ、ほんと! 双子だし、息ピッタリ! じゃぁ、私は、エレナちゃんは組もうかな? 仲良しだし」


「うん! 私も、あかりお姉ちゃんと組みたーい!」


「じゃぁ、あとは、あまり者の俺と武市くんで決まりって感じ?」


「おぉ、そうですね! ヨロシク、狭山さん!!」


「え!? あ、ちょ……っ」


 すると、あれよあれよというまに、バドミントンのペアが決まってしまって、華の思惑は見事に崩れ去ってしまった。


 そして、和気あいあいとする、みんなの片隅で


(いきなり、橘さんを名指ししたのは、あからさまだったかな? でも、やっぱり付き合ってる二人がペアになったほうが良いよね?)


 と、あかりは、いらぬ気遣いを働かせていたのだった。

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