第354話 集合と誤解


「狭山さーん!今日はありがとう~」


 集合時間前、神木家のマンションでは、駐車場に車を停めた狭山さやままことに、飛鳥が声をかけていた。


 先日、車を出す人がいないと、喫茶店で悩んでいた飛鳥は、モデル事務所の社員であり、なにかと扱いやすい狭山がいることを思い出し、電話をかけた。


 すると、3月28日なら空いてると言うので、花見の日程を、その日に合わせたのだが……


「ホントだよ! いきなり電話きた時は、びっくりしたよ!」


「あはは、ごめんね、狭山さん! あと数日すれば、うちの父が帰ってくるんだけど、蓮華の誕生日祝ったら、トンボ帰りみたいでさ。でも、狭山さんがいてくれて良かった♡」


 これまた、にこやかに笑う飛鳥。


 その美人すぎる笑みを見て、狭山はふと、彼をスカウトした日のことを思いだした。


 あの頃から、この笑顔に狭山は弱い。

 ついつい、アイスを奢ってしまったほどに!


「あ、そうだった。レンタカー代と、ガソリン代はちゃんと出すからね」


「別にいいよ。社会人が、学生にたかれるか。その代わりお昼食べさせてくれるんでしょ?」


「うん、そこは任せて! 愛情込めて作ったから」


「へー、それは楽しみ」


 これほどの美男子が作ったお弁当となると、何となくレア感が増すのは気のせいだろうか?


 狭山はそんなことを考えつつ、荷物を車に積み込み始めた。


 すると、そのタイミングで、隆臣と大河たいがもやってきた。


「神木くん! 今日は、呼んでくれてありがとうございます! 感激です!」


武市たけちくん、バイト休めたんだね」


「休むに決まってるじゃないですか!! 神木くんと、花見に行けるんですよ!? これで休めなかったら、一生後悔します!! だから、バイトの先輩に土下座してきました!」


(相変わらずだなー。この感じ)


 毎度毎度、飛鳥に対しての信者っぷりを発揮する大河。すると、隆臣が


「飛鳥、あかりさん達、来たみたいだぞ」


 そういって、飛鳥は隆臣が見つめた先に視線を送る。


 すると、ちょうど駐車場の入口付近に、あかりとエレナがいて、二人の元に、華が駆け寄って行くのが見えた。


 だが、先日、お土産を持って来た日に以来、飛鳥はあかりと会っていなかった。


 更に、あの日、泣かせてしまったせいか、飛鳥の心中には、酷く罪悪感がうづまく。


(あの後メールしたけど、当たり障りない内容の返事ばかりだったし……避けられてなきゃいいけど……)


 好きな子への接し方が、イマイチ分からない。近づきたいけど、あまり近づくと離れてきいそうで、あかりとの距離感は、未だに掴めない。


 少し前までは、お互いの距離なんてさしてきにしなかったのに……


「飛鳥。お前、あかりさんと何かあったのか?」

「え……?」


 すると、すこしばかり複雑な表情をする飛鳥をみて、隆臣が話しかけてきた。

 飛鳥は、その後、じっと隆臣をみつめると


「別に……」


「へー。じゃぁ、何か進展あった?」


「あるわけないだろ」


「まー、その様子なら、そうだろうな。もっと攻めた方がいいんじゃないか?」


「攻めてるよ。でも気づかないんだよ、アイツ。それどころが、誰にでも言ってるみたいに思われてる」


「あー、その見た目ならな」


「うるさいな!」


 見た目に関しては、今更どうにも出来ない。だが、これ程の美男子だ。遊んでるように思われるのは、ある意味日常茶飯事!


「飛鳥兄ぃ! みんな、集まったよ~」


 すると、華が明るく声をかけてきた。飛鳥が再度そちらに目を向ければ、ふとあかりと目が合い、それと同時に、あかりがふわりと笑って飛鳥に語りかける。


「神木さん、今日は、お誘いありがとうございます」


「え、あ……うん」


 その、いつもと変わらない様子に、飛鳥は拍子抜けする。


 どうやら、避けられてはいないらしい。


 だが、ほっとする飛鳥とは対照的に、あかりは、をしていた。


(さっきも二人で、仲良く話してたみたいだけど、まさか、神木さんと橘さんが付き合ってたなんて……)


 平静を装いながらも、無意識に頬が赤くなる。

 目の前の二人が、同性でありながら付き合ってるのかと思うと、やはり少しだけ戸惑ってしまう。


(あまり、二人の邪魔をしないようにしなきゃ……あ、そういえば、華ちゃん達は、このこと知ってるのかな?)


 そう思案しつつ、華と蓮を見れば、二人は、隆臣と仲良く話をしていた。


 橘家と神木家は、家族ぐるみで仲がいいらしい。ということは


(家族公認の仲ってこと? ミサさんが知ってるくらいだし……あ、でも私が知ってるのは話さない方がいいよね? 神木さんが話てくれるまでは、知らないことにしていた方がいいかも……?)


 ミサから聞いた話を整理しつつも、あかりの勘違いは加速していく。


 すると、荷物も全て乗せ終わり、メンバーも揃ったからか、ついに出発の時がやってきた。


「じゃぁ、そろそろ行こっか。エレナは、車酔いとかしない?」


「うん、大丈夫だよ!」


「誰がどこに座るの?」


 すると、今度は蓮がそう言って、座席の場所で悩み始めた。車は8人乗り。すると、華がすぐさま


「あ! あかりさんは、お兄ちゃんの隣に座ってくださいね!」


「「え?」」


 唐突な発言に、飛鳥とあかりは、同時に困惑する。

 どうやら、またなにか企んでるらしい。


(華のやつ、また余計なことを……!)


(どうしよう。私が、神木さんの隣に座るのは、橘さんに申し訳ない……)


 そして、飛鳥はあからさまな華に驚き、あかりにいたっては、隆臣に気を使っていた。


「いいなー! 俺も神木くんの隣がいい!」


 だが、その空気を読まず、華の作戦を見事大河が、ぶち壊わす。


「え!? じゃぁ、武市さんとあかりさんで、飛鳥兄ぃを挟んで」


「あ、待って、華ちゃん! 私は、エレナちゃんの隣に座ります! だから、神木さんの隣は橘さんに!」


「え? 俺?」


「じゃぁ、男三人で座れば?」


「いやいや、まって! 隆臣君には、助手席で道案内してもらうつもりで!」


「ちょっと、みんなストップ!!」


 座席の場所でわやわやと揉め始めた一同。それを飛鳥が制止すると


「えーと、じゃぁ、俺と武市君と蓮は後ろの席。あかりは運転席の後に座って、エレナを華と二人で挟んで。隆ちゃんは、助手席で、狭山さんに道案内。コレでOK?」


 テキパキと飛鳥が指示をすれば、その位置に全員が「はーい」と納得する。


 だが、出発前から、この調子とは?

 飛鳥は、先行きを軽く案じた。


 さてさて、始まったばかりのお花見!

 はたして、どうなってしまうやら??



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