★ 眠れる森の飛鳥ちゃん ③ (2021.8.5追加)


 そして、飛鳥が眠りについて、二ヶ月がたったころ。


「本当ですか、あかりさん!」


 華は、あかりと呼ばれたお姉さんの手をギュッと握りしめ、目に涙を浮かべていました。


 あれから、季節がかわり、世間は春になりました。


 雪が解け、外には桜やチューチップが咲いている、そんな春のほのぼのとした森の中で、あかりは華をみつめて微笑みます。


「えぇ、私で良かったら力になるわ」


「っ……あかりさん」


 あの後、華と蓮は、東の森にすむ魔法使いの元に身を寄せていました。


 あの日、姉のケーキのためにイチゴと取りいこうと決心した華は、双子の弟の蓮を連れて、こっそり城を抜け出していたのです。


 ですが、その道中、突然茨に囲まれ、間一髪逃げ切ったのは良かったものの、逃げる際に怪我をしてしまったため、傷の手当てと食べ物を探し求め、二人は東の森を訪れました。


 そして、そこで運よくあかりと出くわし、それから怪我が回復するまでの間、あかりの家で療養していたのです。


「蓮君の怪我も、大分良くなったし…それに、家族や国の人達の事も心配でしょう?」


「……はい。早く助けてあげないと」


「でも問題は、城の中に、どうやって入るかね」


 双子の治療の傍ら、あかりは何度かお城の様子を見に行きました。


 東の森から、お城まで箒で飛んでいけば、そう遠くはありません。


 あかりはなんとか城に入る方法がないか探しましたが、上空から見たその国は、いたるところに茨が巻き付いていて、その茨は、人が近づくと襲ってきます。


 まるで、お姫様の眠りを、邪魔するなとでも言うように…


「この森の毒草で、茨を枯らす薬を作ってみたけど、全く効果がなかったの。あの茨は、誰かが魔法で操っているみたい」


「……じゃぁ、やっぱり魔女が」


「えぇ……ただ、私は防御魔法と治癒魔法は得意だけど、攻撃魔法はあまり得意ではないの。華ちゃんと蓮君は、あまり戦力になるとはいえないし……他に、運動神経が良くて、気転がきいて、茨をバッタバッタなぎ倒してくれるような、王子か賢者か魔法使いはいないかしら?」


「あ!」


 すると、その瞬間、華がはっと声をあげました。


「います!一人だけ!滅茶苦茶スペックの高い王子が!」


「ほんと?」


「はい、うちのお姉ちゃんの婚約者です!」


「え? そんな人がいるの?」


「はい! あ、でも、隆臣さん、ここから遥か遠い国の王子様で、会いに行って戻ってくるとなったら、きっと数カ月は……」


「それなら、大丈夫よ。私、転送魔法も使えるから、その王子様の所に飛ばしてあげる」


「ほんとですか!」


 そんなこんなで、華は蓮と一緒に、はるか遠くの国に住む、姉の婚約者に会いに行きました。



 ◇◇◇



「というわけで、隆臣さん!」


「どうか、うちのお姉ちゃんを、助けてください!!」


「…………」


 華と蓮が、スラリと背の高い青年に詰め寄ります。


 彼は、この国の一人息子であり、王位継承権をもつ王子でした。


 特徴的な赤毛の髪と凛々しい顔つき、その上剣の腕も、魔力も高く、その上、双子の姉である飛鳥の婚約者でもありました。


「……話は、分かった。要は、お前たちの国に行って、茨なぎ倒して、飛鳥にキスしろってことだな?」


「その通り! 良かった~! 隆臣さんがお姉ちゃんの婚約者で! これで判事解決!!」


 そう、眠りについたお姫様の目覚めさせることができるのは、愛する者のキスだけ。


 ここには、強くてカッコよくて、さらに王子様という立派な肩書を持った、姉の婚約者がいます。


 これ以上の適任者がいるでしょうか!



「……悪いが、俺、飛鳥のこと、愛してないんだ」


「はぁ!?」


 ですが、あろうことかこの婚約者、それを真っ向から否定してきました!


「ちょっと何言ってんの!? 婚約者でしょ!いずれ夫婦になるんでしょ!?」


「いや、でも、親同士か勝手に決めたアレだし」


「いいじゃん、別に親が決めてても!うちの姉貴ほどの美人、そうそういないよ!口悪くて、多少生意気かもしれないけど、それでも好きになった相手には、とことん尽くすタイプだから!結婚したら、昼も夜も尽くしまくるから、きっと!」


「そうだよ!あんなに美人で気立てのいい王女、この先、絶対巡り合えないから!大体、うちのお姉ちゃんと結婚したいって言ってる王子いっぱいいるんだからね!一体、何が不満なの!?」


「いや、不満ていうか『家族と離れたくないから、こんな遠い国には嫁ぎたくない』って言って嫌がってるの、飛鳥の方だからな!」


「もう、そこはキスされたら、覚悟決めるって!むしろ、魔女の呪いから助けてくれた王子様好きにならないようじゃ、うちのお姉ちゃん一生結婚できないから!」


「そうだよ、隆臣さん!頼むから、キスして、うちの姉ちゃん、貰ってあげて!!」


「なんか、趣旨変わってないか!?」


 家族大好きな飛鳥は、結婚など見向きもしないお姫様でした。


 それ故に、幼馴染の隆臣くんのことも、ただの友人としか思っていません。


 そんなこんなで、誰が目覚めさせるか、そんな問題は色々あれど、まずは、茨をなんとかしなくてはなりません。


 華と蓮の願いを承諾した隆臣は、茨を殲滅するため、力を貸してくれることになりました。



 ◇◇◇



 そして、国に戻ってきた華と蓮は隆臣とあかりと共に、その後すぐに、飛鳥を救うためにお城へと向かいました。


 隆臣を先頭に、魔法使いのあかりがそれを援護しながら、進みます。


 そして、茨で囲まれた城の奥。4人はついに、高く聳えたつ塔の前にたどり着いきました。


 ですが、塔の茨を薙ぎ払おうとした、との時です。


「やめて。ここから先には、入らないで」


「!?」


 髪をツインテールにした魔女、ミサの娘のエレナが現れました。


「あなたは…?」


「私は、13番目の魔女の娘」


「魔女の娘?」


「お願い、もうすぐなの、だから、邪魔しないで…!」


 魔法の杖をかざしたエレナは、茨を巧みに操り、4人の攻撃を仕掛けます。


 ですが、その瞬間――



「エレナちゃん?」

「っ……おねえちゃん?」


 エレナは、あかりをみて、ハッとしました。

 なんと、エレナはあかりの知り合いだったのです。


 数年前、箒が折れて怪我をしてしまったエレナを、あかりが助けてあげたことがありました。


 それからエレナは、母の目をしのんで、何度か東の森に訪れたたことがあったのですが…


「エレナちゃん。最近来ないと思ったら…どうしてこんな…っ」


「……っ」


 あかりの言葉に、エレナはジワリと涙をうかべます。


「なんで、お姉ちゃんが、ここにいるの! お願い、ここは危険なの!! 早く、東の森に戻って……!」


「え?」


 エレナは血相を変えて、あかりに詰め寄ると、すぐ様ここから離れるよう忠告しました。


「危険って、どういうこと?」


「もうすぐなの…!」


「もうすぐ?」


「うん。もうすぐ……この塔に眠る『魔王様』がお目覚めになるの!」


「「!!?」」



 ④へ続く

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