お兄ちゃんとバレンタイン ②


「たーかーちゃん♡」

「?」


 いつものように飛鳥をマンション前で待っていると、どこか意気揚々とした声が響いて、隆臣は顔を上げた。


 今日はまたなんだ?と、隆臣が視線をあげれば、そこには、可愛らしいピンクのラッピングが施された箱を手にして、にこやかに笑う飛鳥の姿があった。


「はいコレ。俺から隆ちゃんに愛をこめて♪」


「なにそれ、毒入りですか?」


 今日がバレンタインだと気づき、目の前の男が持つ箱がチョコレートと分かった瞬間、隆臣は顔を青くする。


「気持ち悪い」


「え~、俺の愛、受けとれないの?」


「野郎からチョコ貰って喜ぶやついるのか? お前が女だったら、ギリいけたかも?」


「お前の方が気持ち悪いよ! ……まったく、俺からなわけないだろ。これは華からの……」


 だが、飛鳥は一瞬悩んだ後


チョコね、友チョコ!」


「友達強調しなくても義理だってのは、ちゃんとわかってるから。お前どんだけシスコンなんだよ!」


 どうやら、よほど気に入らないのか、華からのチョコと言いながらも、顔がまったく笑ってない飛鳥。


「作りすぎただけだから。勘違いしないでね、迷惑だから」


「はいはい。華が、俺にチョコ渡すのが気にくわないんだろ?」


「はぁ……本当、なんでよりによって隆ちゃんに?」


「どうせ、世話になってるからとか、そんな感じだろ。まぁ、俺と華も幼なじみみたいなもんだし、もしかしたらってことも、あるかもしれないけど」


「ん? 何か言った?」


「怖いわ、その笑顔! なんかお前、暗殺しそうだよな!」


 どうやら、妹と友人の"もしかしたら"を想像し、それがあまりに不快だったらしい。


 真っ黒な笑顔を浮かべた飛鳥を見て、隆臣が悲鳴をあげる。


「あれー。もしかして隆ちゃん、妹に気があるの? うわー最悪、マジで毒仕込んでくればよかった」


「俺の妹、強調しないで。もしかしたらって言っただろ?」


「もしかしたらなんてあるわけないだろ。ていうか、やっぱムカツクから、そのチョコ、俺からってことにしといて。どうせ作ったのほとんど俺だし」


「お前が作ったのかよ!? 結局、野郎のチョコだろソレ!! 全く喜べないんだけど!?」


 華からのチョコとはいえ、結局は目の前にいる「男」が作ったチョコということで、隆臣は酷く落胆する。


 しかし、いくら妹が可愛いとはいえ、ここまでシスコンがいきすぎると、流石に華が可哀想になってくる。


「飛鳥、お前も華のこと考えるなら、もう少し」


「うるさいな。わかってるよ。俺も華には幸せになってもらいたいし、華が好きになったっていうなら別に邪魔はしないよ」


(ん? 今度は、やけにあっさりだな?)


 先程とは、がらりと態度を変えた飛鳥。


 何だかんだ言いつつも、華が選んだ相手なら誰でも良いと言うことなのだろうか?


 その兄らしい一面をみて、隆臣はほんの少しだけ暖かい気持ちになる。


 だが……


「まぁ、お前が、俺のになる覚悟があるならね♪」


「うん。それは嫌だ」


 天使のような笑顔で放たれたその言葉に、隆臣は蒼白する。


 こんな悪魔みたいな兄の義弟になるなんて、ある意味人生、終わったようなものかもしれない。


 隆臣は、あまりに妹を溺愛している飛鳥を見つめながら、こんなに、めんどくさい兄を持った妹の将来を酷く案じたとか。




 ***



 そして、その後、飛鳥は、毎年のバレンタインの大騒動に巻き込まれ、くたくたになり帰宅するのだが


((なんか、いつもより機嫌悪いんだけど!?))


 いつものバレンタインよりも、はるかにご機嫌ナナメなお兄様を見て、華と蓮は、ただひたすら首を傾げるだけだったとか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る