第240話 ゴメンと絶交
放課後──部活動を終えると、蓮は体育館で、友人である
「
そう言って、バスケットボールを投げ渡すと、それをキャッチした
外には、シトシトと雨が降っていた。
明るいライトが照らされた体育館とは対照的に、外はとても薄暗く、十月半ばの夕方、それも雨の日ともなれば、その空気は少し肌寒く感じた。
「最近、寒くなったな」
「まぁ、バスケしてりゃ、熱くなるけどな」
片づけをしながら雑談をする。
蓮と航太は二人ともバスケ部に所属していた。
春に入部して半年。
中学の頃は帰宅部だった蓮にとっては、初めての部活動だったが、もともと顔見知りの先輩や友人がいたからか、馴染むの早く、それなりに楽しくやっていた。
「あ、そうだ。俺、今日は一緒に帰れない」
「え?」
すると、体育倉庫に移動しながら、蓮が再び航太に声をかけた。帰る方向が同じだからか、部活上がりには、大抵蓮は、航太と一緒に帰っていたのだが
「なんか用事?」
「今日は、華と帰る」
「俺は別に、神木(華)が一緒でもいいんだけど」
「ダメ」
だが、その後放たれた拒絶の言葉に、航太は眉をしかめる。
蓮は、航太が華に片想い中だということを知っていた。これは、妨害でもしているのか?
「っ……このシスコン野郎」
「違うって。今日は華と二人で、寄るところがあるんだよ」
「寄るところ?」
「うん。兄貴が今朝、俺達のコーヒーカップ割ったらしくて、帰りに買ってくればってLIME入ってて」
「あーなるほど。買物して帰るってことか」
それじゃ、仕方ねーな──といつもの人懐っこそうな笑顔を返すと、航太は体育倉庫の中に入り、また片づけを始めた。
蓮も、その後に続き体育倉庫の中にはいるが、"華と一緒でも"といった航太の言葉を思い出し、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
(やっぱり、話したほうがいいよな……)
夏休み、みんなで遊園地に行った帰り、蓮は華に
『お前……榊のこと、どう思ってる?』
──と、航太のことをけしかけた。
航太が華のことを好きだと知りながら、今の関係を壊したくないからと、告白するのをためらっているのを知っていながら
その気持ちを"自分のため"に利用した。
『家族だけじゃなくて、もう少し周りの奴にも目を向けてみろ。華の事が好きで、守ってくれてたのは、きっと俺達だけじゃないだろ?』
それは、直接的な言葉ではなかったけど、華に気付かせてしまうには、十分すぎる言葉で……
「榊……ゴメン」
「え?」
瞬間、背後から聞こえた声に、航太は驚きつつ、蓮の方へと振り向いた。
薄暗い体育倉庫の中はどこかひんやりとしていて、酷く思い詰めた様子の蓮に、航太が首をひねる。
「どうした? 別に一緒に帰れねーからって、謝ることは」
「いや、そうじゃなくて……とにかくゴメン! 俺、榊のこと、めちゃくちゃいいやつだと思ってる! いつもありがとう!」
「お前、何した!? 俺に何をした!!」
白々しい言葉の羅列に、航太が戸惑いの声を上げた。蓮が素直に褒めてくるなんて、これは絶対よくないことされてる!
「ゴメンて……何に謝ってんだよ!? 理由言わなきゃわかんねーだろ」
「いや、でも、知らない方が幸せってこともあるかと」
「余計気になるわ!?」
まさか、自分の恋心が華にバレてるなんて夢にも思っていない航太。だが、そこまで聞いて、気にならないわけがなく……
「てか、マジで何したんだよ」
「…………っ」
不満げな表情で問い詰められ、蓮は思わず言葉を噤む。
ちゃんと、謝りたい。
そんな、気持ちもある。
でも、もし言って、今の関係が壊れてしまったら?
『兄貴、俺達に隠し事ばかりだよね』
するとその瞬間──あの日、自分が兄に言った言葉が、頭の中を駆け巡った。
(兄貴も……こんな気持ちだったり、するのかな?)
何か後ろめたいことがあって、話したら今の関係が壊れてしまうとか、知らない方が幸せだとか、思ってたりするんだろうか?
もし、俺達が、その隠し事を兄貴に問いただしたとして、もしそれが『知らなければよかった』と思えるようなことだったら?
「……蓮?」
黙りこくる蓮をみて、航太ざそっと蓮の顔を覗き込んだ。
「……蓮、とりあえず、怒らねーから言ってみ?」
「…………」
優しく諭されると、自分の愚かさを更に実感する。
なんで、あの時、榊の気持ちも考えず、あんなことを言ってしまったんだろう。
自分のことしか考えず、動いた結果
『蓮だって、私に同じようなこと言ったじゃない!!』
華を傷つけて、榊が大事にしてた、今の華との関係を勝手に壊した。
(本当、俺……何してるんだろう……っ)
今になって後悔しても
遅いのに──
「ぜ………」
「ぜ?」
「絶交したり……しない?」
その後、恐る恐る言葉を放てば、航太が目を丸くしたのがわかった。
「俺、"絶交"って言葉きいたの、小学生以来かも?」
「だよな! 俺も今、自分で言ってて、すげー恥ずかしくなった!」
思わず出てしまった自分の言葉に、蓮は『子供か!?』突っ込みたくなった。だが、航太は
「わかんねーよ」
「え?」
「謝らんきゃいけないようなことされて『絶対、絶交しない』なんて、中途半端なこと俺にはいえねーし、場合によっては、蓮の事嫌いになるかもしれない」
「……っ」
ハッキリと告げられ、絶句する。
嫌いになるかも──それは、酷い奴だと罵られるよりも、なんで勝手なことするんだと激怒されるよりも、重い言葉で……
「でも、お互いモヤモヤしたもの抱えてるよりは、腹割って話しあったほうが絶対いいと思う」
「え?」
「言ってもらわなきゃわかんねーし、知らなきゃどうすることもできねーし、だから、ちゃんと聞いて話し合って、どうするかはその後考えればいい。友達なら、なおさらな!」
「……」
朗らかに笑って話を聞こうとする航太に、ジンと胸の奥が熱くなる。
後ろめたさからか、目は見れなかった。
それでも、不安は残りつつも、蓮は意を決して言葉を紡ぐ。
「俺、榊の気持ち……華に伝えた」
「──え?」
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