第241話 親戚と馴れ初め

「俺……榊の気持ち、華に伝えた」


「え?」


 その言葉に、航太は瞠目する。正直に言えば、蓮が何をしでかしたのか、全く検討がつかなかったのだが


「はぁ!? お前、伝えたって!?」


 ことの次第を把握し、航太が大きく声を上げた。耳まで真っ赤にしたかと思えば、とたんに青くなったりと、その姿を見れば、酷く戸惑っているのがわかる。


「……あの、ゴメン」


「ごめんじゃねーよ!? お前、なんてことしてくれてんだ!?……ていうか、いつ?」


「この前、遊園地に行った帰り」


「3ヶ月も前じゃねーか!?」


 まさか3ヶ月も前から、華に自分の気持ちを知られていたなんて!

 だが、思い返してみれば、最近少し様子がおかしいとは思っていた。


 たまに目が合えばそらされるし、話しかけたら逃げるように離れていくし……つまり、自分の気持ちを知って避けられていたと?


(じゃぁ、俺……完全にフラれたってことか?)


 避けられていたと言うことは、そういうことだろう。


 さすがにこれは、堪える。まさか、告白すらしないでフラれるなんて……っ


「ゴメン。俺、本当に最低なことしたと思う」


 だが、そんな航太をみて、蓮は更に深く謝罪する。

 本当に反省しているのだろう。酷く意気消沈した蓮をみて、航太は深くため息をつくと


「はぁ……仕方ねーな」


「え?」


「もう、いいよ。どの道、神木(華)には友達としか思われてなかったし、フラれるのが少し早くなっただけだ」


 だが、その言葉に、今度は蓮が瞠目する。


 え?フラれる?……って──


「ちょ、榊……っ」


 ゴツン!!


「~~~いッ!?」


 瞬間、蓮の頭に鈍い痛みが走った。


 脳天に響いた痛みに、半泣きになりつつ視線をあげれば、呆れた表情で拳を握る航太と目が合った。


「とりあえず、ゲンコツ一発で許してやるよ」


「いや、せめて殴る前に一言いって──って、お前、怒らねーって言ったじゃん!?」


「怒るだろ! 普通怒るだろ、これ!!」


 体育倉庫で口論を繰り返す。まぁ、憎まれ口を叩くのはいつものことだが


「まーとにかく。これで全部水に流してやっから、もう気にしなくていいからな!」


「え?」


 だが、そう言った航太は、いつもと変わらない笑顔を浮かべていた。


 分かってる。

 これが、榊の優しさだってことくらい。


「っ……お前。甘過ぎない? もう二、三発殴っても」


「なんだそれ。お前ドMなの?」


「榊~神木~、片付け終わったか~?」


 すると、体育倉庫の入口から、同じく男子バスケ部で同じクラスの東堂とうどうが声をかけてきた。


「あー、もう終わるぜ。それより蓮。もしかして神木(華)、一人で残ってるのか、こんな時間まで?」


「いや、大丈夫。華も今日は文化祭の練習があるみたいで、終わるのは多分同じくらい」


「そっか」


 そう言って、何気なしに華を気にかける姿を見れば、本当に好きなんだなと、改めて実感する。


「あ~文化祭といえばさー」


 だが、そんな思考を遮り、また東堂が口を挟んだ。


「お前ら、もう衣装決めた?」


「そういや、まだ決めてないな」


 11月上旬に行われる文化祭。


 その衣装を巡り、三人は頭を悩ませた。蓮たちのクラス一年E組は、喫茶店をするのとになったのだが


「てか、コスプレ喫茶って、ハードル高すぎだよな」


「まぁ、ハロウィンの流れで、テキトーに提案されてたからなー」


 その内容は、まさかのコスプレ喫茶!


 ただの喫茶店では面白くないからと色々と案を出し合った結果、最終的に各々自由にコスプレをすることになったのだが


「ある程度、動きやすくないと、お茶運ぶの大変そうだし」


「あ、榊は、アレ着ればいいんじゃね! 神主の服!!」


「は?」


「だって、お前の家、神社だろ? 実家の借りてくれば、わざわざ衣装作らなくてすむしさ~。狩衣かりぎぬとか、陰陽師的なコスプレでよくね?」


「お前、うちの正装をコスプレ扱いすんな! てか、あれ教室できてたら絶対目立つだろ!? しかも、狩衣着てケーキ運ぶとかカオスすぎるだろ!」


「大丈夫! もう既にゾンビやる奴と、ラビリオくんやる奴と、ナルトやる奴は確認したから、うちのクラスどの道カオスだから!」


 当日の自分たちのクラスを想像して蓮と航太は顔を蒼白させる。


 ていうか、ナルトって、ラーメンの方なのか、忍者の方なのか……どっちなのか、ちょっと気になる。


「あ、神木は、執事とかに似合いそうだよな!」


「羊? あのモコモコした? そんなの初めて言われた」


「羊じゃねーよ、執事。なんか神木って、執事の親戚とかいそう」


「いねーよ」


 どういうことだ、と蓮は眉を顰める。

 執事とか、まともに見た事すらない。


「だいたい、うち親戚いないし……」


「あー、そういえば、親戚には、ほとんど会ったことないって言ってたな」


 そう航太に言われ、蓮は幼い頃を振り返る。


 他のクラスメイトがお盆や正月に祖父母に逢いに行くなどと聞く中、うちにはそんな習慣、全くなかった。


 父に聞いても、兄に聞いても、親戚の話なんてほとんどされない。


 多分、生まれてこの方、親戚と名のつく人に会ったのは


『侑斗に捨てられなくて良かったわね?』


 そういっていた、父の母であり、自分たちの祖母である『神木かみき 阿沙子あさこ』くらいだ。


 あの祖母に会ってから、父が親戚とほぼ絶縁状態なのは、なんとなく察した。


 だが、母方の親戚に至っては、話題にすらあがらない。


(そう言えば、父さんと母さんって、どうやって出会ったんだろう)


 思い返せば、両親の"馴れ初め"すらあまり良く知らなかった。


 知っているのは、父と結婚する前の母の旧姓が「阿須加あすか」だったということと、父と結婚後、19歳で自分たち双子を産んだこと。ただ、それくらいで……


(あれ? 19歳?)


 だが、思わぬ事実に気づいて、蓮は片付けをしていた手をピタリととめた。


 よく考えてみたら、19歳で子供産むって結構早い。

 どう考えたって、授かってから産まれるまでに十月十日あるわけで……出会って、付き合って、結婚して、子供が産まれるまでのスタンスを考えると、どんなに早くても18歳で出会っでなくては、なりたたない。


 だが、18歳という年齢は、確かまだ


 高校生──


(あれ? もしかして、父さん……女子高生と付き合ってた??)


 12歳も年上のアラサーのオッサン(父)が、女子高生(母)に手を出していたかもしれない。


 今になって気づいた両親の馴れ初め……かもしれない事実に、蓮はただただ顔を青くするしかなかった。



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