第225話 画像とメッセージ


「なんだ~。双子ちゃんのためだったのね!」


 それから、かくかくしかじか。大河も交え、3人で美里への誤解をとくと、場の空気はやっと落ち着き、和やかな雰囲気に戻っていた。


「そうなんですよー! 絶対、神木くんなら、今でも女装似合うだろうと思って!」


「確かに、大河くんの言う通り、よくにあってるわ。飛鳥くん、とても20歳にはみえないし、このまま女の子に紛れて、メイド喫茶で働いていても、絶対に男の子だなんて気づかないわね!」


「……………」


 メイド服の飛鳥を囲んで、話を弾ませる大河と美里。


 その姿を、飛鳥は、なんとも複雑な表情でみつめていた。


 似合わないよりは、似合うほうがいいのかもしれないが、はっきりいって、男としては全く嬉しくない。


(はぁ……とりあえず目的は果たしたし、そろそろ着替えて)


「あ! そうだわ、飛鳥くん!」


「?」


 すると、美里がパンと手を叩き明るい声を発した。


「せっかくだし、撮ってもいいかしら?」


「……え?」


 まさかの提案に、飛鳥は当然のごとく口元を引き攣らせた。


「えーと……それは……っ」


「だって、こんなに似合ってるんだし、撮らなきゃもったいじゃない。 ね? 1枚だけでいいから」


「…………」


 撮らせるつもりは微塵もない。だが、断ろうにも、全く邪気のない笑顔で「お願い♪」と手を合わせる美里を見てしまうと


「………ど、どうぞ」


「お前、1枚でも撮ったら、はっ倒すんじゃなかったのか?」


「美里さんに、そんなこと出来るわけないだろ!」


 渋々、承諾すると、その返事を聞いて隆臣が、突っ込む。


 そう、実は飛鳥、昔から美里にだけは弱いのだ!


 結局、その後カメラを持ってきた美里により、飛鳥は大河と隆臣の三人で、仲良く写真を撮ることになってしまったのだった。





 ◇


 ◇


 ◇



 そして、それから数時間後のロサンゼルスにて。


 飛鳥の父である、神木 侑斗は朝食をとりながら、パソコンに向かっていた。


(あれ? 珍しいな、橘さんからだ)


 こんがり焼きあがったトーストにかぶりつきながら、日課であるメールチェックをしていると、久しぶりに届いた美里からのメールに、侑斗は頬を緩ませた。


 なんだろう──と、手早くマウスをクリックすると、そこには"添付ファイル"と共に、美里からのメッセージが添えられていた。




✤──────────────────✤



 神木さん、お久しぶりです。


 ロスでのお仕事はどうですか?

 体調を崩されたりしていませんか?


 今日は、飛鳥君が隆臣達とメイド服を着て遊んでいました。

 飛鳥くん、相変わらず可愛いですねー(^^)



✤──────────────────✤



「ぶほっ!? げほッ!?」


 メールに書かれていた文面と添付された写真。それを見て、侑斗は豪快に吹き出した!!


 見れば、その写真の中には、隆臣ともう一人見知らぬ男の子(大河)の間に立つ、メイド服姿の我が子が写っていた。


 そう、侑斗の可愛い可愛いが!!


「な……なんで!?」


 確かに可愛い。

 それは、どう見てもメイドさんだった。


 しかも、どことなく色っぽいし、親の贔屓目ひいきめなしにしても、惚れ惚れするほど似合ってる!


 だが──


(なんで、メイド服なんて。飛鳥、絶対自分から、こんな服着たりしないのに!)


 てか、メイド服着て遊ぶってなに?

 しかも、男だけで??


 まさか、可愛いからって、無理矢理きせられて……!?


(……いやいや、隆臣くんがいるんだし、そんなわけ……)


 そう、隆臣くんがいるのだ。

 自分達が絶大な信頼を寄せている、あの隆臣くんが、そんなことするわけがない!だが


(……でも飛鳥、隆臣くんには、かなり気を許してるし、それにうちの子、マジで可愛すぎるし)


 美里のメールのせいで、侑斗は頭の中は、朝からパニックだった。


 なぜなら、あんなに可愛いくて、美人で色気もある息子だ。


 はっきりいって、そこら辺の女子より女子ってる時があるくらい、飛鳥は、飛び抜けて美人だ。


 そんな子が、常に近くにいたら、もしかしたら、あの隆臣くんだって──


(そういえば、飛鳥……ここ数年彼女いないみたいだし、まさか、俺がロスにいってる間に、隆臣くんとそういう…っ)




 ◇


 ◇


 ◇



「ちょっと、飛鳥兄ぃ!? なんか、父さんが凄く心配してるんだけと!? 」


 そしてそのあと、侑斗から蓮華へと話が伝わり、メイド服姿の飛鳥の写真は、きっちり家族全員が見ることになってしまったのだが……


「お父さん『隆臣さんと今どんな関係なんだ!』とか『メイド服着て、どんな遊びしたのか詳しく話せ!』とかいってるんだけど、一体どういうこと!? 着ただけじゃないの!?」


「メイド服を着て遊ぶって、なにそれ。兄貴どこまで、お願い聞いてきたの?」


「なんで、そんなワケ分からない話になってんの?」


 ただメイド服を着ただけなのに、なぜか男だけで危ない遊びをしていたのでは?と、家族から疑われ『美里といい、侑斗といい、親というものは、とてつもなくめんどくさいものだ』と、飛鳥は、この日、切に思ったのだった。

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