第213話 問題と解決策


「さて──」


 その後、気を取り直すと、飛鳥は、再びデスクのイスに腰掛け、ベッドに座るエレナとあかりを見つめた。


 とりあえず、一通りの話をし、エレナの気持ちを落ち着かせたはいいが……


(問題は、オーディションをどうするかだな?)


 飛鳥は顎に手を当て、ふむと考え込む。


 オーディションの開始時刻は、午後1時。

 受けよう思えば、受けられなくはないのだが……


「ねぇ、エレナちゃん。そういえば、携帯はどうしたの?」


 すると、飛鳥が悩む側で、今度は、あかりがエレナに問いかけた。確かに、携帯をもっているかは、気になる所。すると、エレナは、少しだけ不安そうな顔をしたあと


「携帯は……事務所から電話くると思ったら、怖くなって……家に、置いてきちゃった……っ」


 どうやら、エレナは、家に鍵だけかけて、何も持たず出てきたらしい。


 まぁ、担当が迎えにくるのに、無断ですっぽかしたのだ。気持ちは分からなくはない。


「そうなんだ」


「う、うん。どうしよう……やっぱり、もうお母さんに、連絡いってるかな?」


 最悪な事態が脳裏に過ぎり、エレナが声を震わせた。


 そして、その姿を見て、飛鳥は再び考え込む。


 確かに今日のオーディション、受けよう思えば受けられなくはなかった。


 だが、どのみち、こんな泣き腫らした顔で受けても結果は見えてるし、なによりも今のエレナに、オーディションを受けるだけの精神的余裕はない。


「まぁ……担当と待ち会わせていた時刻から、しばらくたつし、連絡もつかずに、いきなりいなくなったら、まずは母親に連絡するだろうね」


「そ、そうだよね……!」


「ちょっと、神木さん! なにも、そんなに、はっきり言わなくても……っ」


「そんなこと言ったって、そうなるのは目に見えてるだろ? もし、あの人に連絡がいってるとしたら、今頃エレナを探し回っててもおかしくないよ」


 大体、それを見越して、わざわざこの家で匿っているわけで……


 だが、実際に今、事務所がどのような対応をとっているのか、携帯もなく情報も手に入らないこの状況では、まさに八方塞がりだった。


 それに、あまり時間をかけると、警察沙汰になる可能性もある。


 まぁ、最悪、誘拐で警察沙汰になったとしても、捜査一課には知り合いがいるので、なんとかなりそうではあるが……


「どうしよう……今頃、、困ってるのかな?」


「え?」


 すると、エレナがポツリと呟き、飛鳥が反応する。


「サヤマ?」


「うん。私のモデル事務所の担当さん。今日、迎えに来てくれるはずだったの」


 迷惑をかけてしまった……と、エレナは申し訳なさそうに呟く。だが、飛鳥には、その『サヤマ』というモデル事務所の社員に、一人だけ覚えがあった。


「あのさ。そのサヤマさんって、もしかして、下の名前『まこと』だったりする?」


「え?……うん。確か、そんな名前」


「そう。……えーと、どこにやったかな?」


「「?」」


 すると、飛鳥は一度デスクに向き直ると、引き出しを開け、その中を漁り始めた。


 エレナとあかりが、何事かと首を傾げると、それから暫くして、目的の物をみつけたらしい。


 飛鳥は、引き出しの奥にしまっていた小さな箱の中から『名刺』を一枚取り出した。


「もしかして、エレナの担当って、この人?」


「え?」


 差し出された名刺には『狭山 誠』と書かれた名前と顔写真、そして、今エレナが所属しているモデル事務所の名前が印字されていた。エレナは、それを見ると


「う、うん! そう、狭山さん!! でも、なんで、飛鳥さんが、狭山さんの名刺持ってるの?!」


「去年のクリスマスに、このお兄さんに、スカウトされたんだよ。まぁ、スカウトは断ったけど、その後ちょっとした知り合いになって……そっか、狭山さんね」


 飛鳥が、手にした名刺を再び確認すると、その名刺には、事務所の電話番号と一緒に、携帯の番号も記されていた。


 飛鳥はそれを見て、机の上に置いていた自分のスマホを手に取ると


「もしかしたら、なんとかなるかもしれないよ?」



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