第192話 女子大生と妹

 

 その後、大河から、たこ焼きを買ったあと、箸巻きやポテト、そのほかに飲み物などを買った三人は、空いていた脇道のベンチに腰掛けた。


 二人がけのベンチに、華を真ん中に、三人寄り添って座る。


「華、最後の食べていいよ」


 すると、最後に残ったたこ焼きを、飛鳥が華の口元に持ってきた、華はそれをパクッと口にした。


「ん、ありがとう」


「それより、兄貴、あんな友達がいたんだ」


 すると、蓮が飛鳥にポテトを差し出しながらそう言って、飛鳥はそれを一本手に取りながら、大河のことを思い出す。


「武市くん、アレさえなければ、いい人なんだけどね」


 さっきの会話を思い出し、飛鳥は苦笑いを浮かべた。まさか、また女装しなくてはならないなんて!

 もはや罰ゲームみたいなものだ。


「でも残念! 私、珍しく家族以外に助けられたから、一瞬、かと思っちゃったのに!」


「はぁ!? 運命って、武市くんと!? それだけは絶対やめて!?」


 華の言葉に、飛鳥が珍しく慌てふためく。


 勝手に人の妹と、どんなフラグ立ててるんだ。

 申し訳ないが、あの信者だけは認めたくない!


「大丈夫だよ、兄貴。華の好きなタイプは、隆臣さんだし、たぶん武市さんとは真逆のタイプだよ」


「うーん。それは、大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか、イマイチ複雑な回答かな」


「ご馳走様でした~」


 すると、飛鳥が苦笑いを浮かべる隣で、華がパンと手を合わせた。そして、たぶ終わったトレイを、綺麗に纏めると


「はい、蓮! ゴミ宜しく♡」


「はぁ、なんで俺が!?」


「だって、私ひとりじゃない行かせてくれないし、飛鳥兄ぃが行ったら、絶対捕まるし」


「…………」


 捕まる──とは、言わずとも分かるだろう。兄のこの美貌に見せられた、お姉様方にだ。


「はぁ。わかったよ」


 すると、それを受けとった蓮は、境内の脇に設置された屑籠まで走っていった。

 そして残された華と飛鳥は、二人ベンチに腰掛け、のんびり雑談。


「ねぇ、飛鳥兄ぃ、花火って何時から?」


「えーと、9時」


「ふーん、今何時?」


「今は、8時すぎかな。あと、1時間くらいあるけど、どうする? 帰る?」


「はぁ!? せっかく来たんだし、花火見ていこうよ!」


 兄の腕にぎゅっと抱きつき、華が顔を近づけそう言うと、飛鳥はいつも通り「まー、そうだね」と、相槌を打った。すると


「ねー、あの人、かっこいい~」


 と、飛鳥を見つめヒソヒソと話す声が聞こえてきた。


 例のごとく、兄はよく目立つ。しかも、今日は浴衣姿。金髪で浴衣が似合うなんて、なかなかないのだが、なぜか似合ってしまうのが、この兄!

 きっと兄にかかれば、和洋折衷どんな服でも着こなしてしまうのだろう。


「ねぇ、写真、お願いしてみる?」


「えー、ダメだよ。だって、隣にいるじゃん!」


((え? 彼女?))


 こそこそと聞こえて漏れてきた声。だが、その声に、飛鳥と華は、同時に首を傾げた。


「あ!? 私か!!」


 すると、やっとのこと、その彼女が、自分のことだと気づいたらしい、華は、抱きついていた兄から離れようと、手を離すが……


「いいよ、このままで」

「え?」


 だが、そんな華の手を掴んで、飛鳥が華を見つめた。


「こうしてた方が、になるし」


「何それ!?」


 まさかのナンパ避け!?

 確かに、彼女が横にいる男を、わざわざナンパしてくる人はいないだろうが


「私、妹だよ。バレるに決まってるじゃん」


「大丈夫だよ。俺たち全然似てないし、兄妹には見えないよ」


「っ……」


 ──兄妹には見えない。

 その言葉に、なぜか胸の奥がズキリとなった。


 そんなの子供の頃から、言われてきたことだ。

 こうして腕でを組んでいたら、恋人同士に間違われてしまうほど、自分と兄は──似ても似つかない。


「神木くーん!!」

「……!」


 すると、またもや、黄色い声が聞こえてきて、華と飛鳥が、二人揃ってそちらをみれば、女子大生くらいの女の子たちが4人、わらわらと飛鳥の元に、駆け寄ってきた。


「こんばんは~! まさか神木くんに会えるなんて」


 どうやらその子達は、飛鳥が通う大学の学生だったようだった。飛鳥は、その見知った顔に、にこやかに挨拶を返す。


「みんな、こんばんは」


「神木くんの浴衣姿、素敵。ちょう似合ってる~」


「そうかな。ありがとう」


「ねえねぇ、今から、うちらと回らない?」


「え?」


 四人が、綺麗な浴衣姿で飛鳥に擦り寄ると、華は咄嗟に兄の隣から離れた。


 兄がモテるのは、何度と見てきた。

 ある意味、見慣れた光景だ。


 だけど、こうして女の子たちが擦り寄ってきても、兄は、いつも、その誘いを断って、家族との約束を優先させる。

 

「ゴメンね、今日は、妹たちと一緒だから」


 すると、案の定、兄は断って、華はその光景をただただ見つめた。

 

「妹たちって、双子の?」


「うん」


「もう高校生なんでしょ? うちらと回ったあと、また合流すればいいじゃん!」


「ちょ……っ」


 だが、女子たちは、しつこく誘ってきて、飛鳥は、表情を曇らせた。そして、そのタイミングで、今度は蓮が戻って来た。


「なにこれ。兄貴、結局捕まってるじゃん?」


 目の前の光景を見て、顔を青くする蓮。だが、蓮の問いかけに、華は一切答えることはなく。


「ねぇ、神木くん、一緒に回ろうよー」


「だから、一緒には回れないって」


「あの!」


 すると、思ったよりしつこい女の子たちを飛鳥がなだめる中、ずっと黙っていた華が急に声を上げた。


 いきなり、どうしたのか。飛鳥と蓮が華を見やれば、華は、とんでもない提案をしてきた。


「私たちなら、大丈夫です! だから、お兄ちゃん、その人達と回ってくれば!」


「は?」


「わー、いいの! ありがとう!」


「……いこう、蓮!」


「ちょ、華!?」


 蓮の腕を強引に引くと、華は、その場から駆け出した。そんな華の後ろ姿をみつめ、飛鳥は、眉をひそめる。


(華のやつ、なんで……っ)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る