第191話 信者と一目惚れ
「は? お前、またナンパされたの?」
瞬間、低くなった兄の声を聞いて、華の顔は真っ青になった。
(し、しまった……!?)
怒られると思い、兄には内緒にしていたのが、それが逆に
「華、前にも言ったよな、気をつけろって……大体、華は、昔からボケっとしすぎなんだよ。俺と蓮がいない時は、背筋伸ばして隙を見せない!」
「は、はい!」
ニッコリと黒い笑顔をうかべ、説教をはじめた兄をみて、華はビシッと背筋を伸ばしながら返事をする。
ヤバイ!
これは、かなりお怒りだ!
「それと、蓮は何してたの?」
「へ?」
「華が、ナンパされてる時、蓮はなにしてたの?」
「……っ」
そして、いきなり、ばっちりを食らう蓮もまた、顔面を蒼白させ
「お……お化け屋敷に……入ってました」
「…………」
そして、その言葉を聞いて、飛鳥は全てを察した。
つまり、蓮が
「はぁ……」
すると飛鳥は、その後深く深くため息をつくと
「ごめんね、武市くん。うちの子達が迷惑かけて」
「え!? まさかこの子たち、神木くんのご兄妹なんですか!」
「うん、俺の妹と弟」
「あぁぁぁぁあああ!! てことは、俺は知らず知らずのうちに、神木くんのお役に立てていたと!? 神木くんが、なにより大事にしているご家族のピンチに駆けつけ、あまつさえ救出し、今、神木くん直々に感謝されていると!! あー、すげー嬉しい!! 神木くん、俺、泣いていいですか!?」
「いや、たこ焼き焼いてるんでしょ? 泣くのはやめた方がいいよ」
飲食物を扱っている最中に、泣くのはどうだろうか。万が一、涙がたこ焼きに入ったら売り物にならない。
「ていうか、神木くん! 今日のその姿は何ですか!?」
「え?」
すると、心配する飛鳥をよそに、大河は更に詰め寄ってきた。その姿とは、つまり浴衣のことだ。
「ホント神木くんは、何を着ても似合いますね! 浴衣なんて反則ですよ!! ああぁぁぁ俺今日、たこ焼き焼いててよかったぁぁぁ~~。綺麗すぎて目眩が! 尊い! マジ尊死!! てか、神木くん絶対モデルむいてますよ!! むしろなってくれたら、俺、雑誌買いますから! 保存用と布教用も含めて最低3冊、いや10冊は買いますから!? てか、写真撮ってもいいですか!?」
「とりあえず、黙って」
双子の前で、地雷を踏むだけではなく、とんでもないことまで口走る大河に、飛鳥が突っ込めば、傍らにいる双子は、あまりの信者っぷりに絶句する。
((あれ?なんか、思ってた人と違う?))
「この人、マジで兄貴の友達なの?」
「ちょっと意外というか?」
「俺のじゃないよ。隆ちゃんの友達だから」
そして、こんな友人がいるなんて思われたくなかったのか、飛鳥は、全責任を隆臣になすりつけた。
だが、双子たちは覚えていた!
先日、兄が、最近知り合った友達が、遊園地でバイトしてると、いっていたことを!
つまり、兄の毒牙にハマり、遊園地のチケットを貢がされた友人とは、確実に、このお兄さんだ!!
「あなただったですね!? うちの兄に、遊園地のチケット貢がされたのは! あの、うちの兄が、ご迷惑お掛けして申し訳ありません!!」
「うちの兄貴、自分の笑顔の殺傷力を全くわかってなくて、いつもこうして手玉にとっては貢がせるんです! もう、人たらしこむのが詐欺師並みに上手いんです! だから、騙されないでください。兄は、見た目は天使でも、中身悪魔ですから!」
(なんか、とんでもないこといわれてる……)
猛烈に頭を下げながら、双子が、兄の厄介さについて力説すると、その話を聞いて、飛鳥はなんとも言えない表情をうかべた。
だが、肝心の大河は
「そんな、俺は騙されてませんよ!! むしろ、神木くんに一目惚れしたあの日から、俺の心は、神木くん一色になってしまって! だから、たとえ貢がされようが、暴言吐かれようが、足蹴にされようが、むしろ本望!!」
「えぇ!!? なんか、もう洗脳されてる!?」
「ていうか、一目惚れ!? もしや、あっちの方ですか!?」
「いや、違うから! 武市くんは、高校の時の女装姿を見て、一目惚れしただけだから!」
これ以上、変な誤解を抱かれたらマズイ!と、飛鳥がすぐさま突っ込む。だが、女装と聞いて、双子も納得したらしい。
「あ! 女装って、もしや高校の時の!」
「ミニスカの女子高生姿で舞台にたって、みんなに写真撮られまくってたアレか」
「そうそう、それだよ! 女子高生姿の神木くんは、マジ神だった!!」
「……ねぇ、その話もうやめない?」
女装姿で盛り上がる三人を見つめながら、飛鳥は口元をひきつらせた。
飛鳥に言わせれば、もはや黒歴史だった。抹消したい過去なのに、残念ながら写真取られまくってたのも事実!
「ふふ、でも、あれは一目惚れしても仕方ないですよね~飛鳥兄ぃ、どこからどう見ても女の子だったし!」
「確かに。むしろ、男と言われても、嘘つくなよって言われるレベルだったよな」
「だよね~、俺も男だって知った時は、すごく驚いたんだけど、神木くんに出会えたことは、俺にとって最高の出会いで」
だが、その後も、飛鳥の話で、3人は盛り上がる。そして、その話は、再びチケットの話へ。
「ていうか、飛鳥兄ぃ! こんないい人にチケット貢がせるなんて、最低!」
「俺は、別に貢がせたわけじゃないよ。それに、ちゃんと後でお礼はするつもりだし」
「ホントに~? 貰いっぱなしにする気なんじゃないの?」
「そんな不義理なことしないよ」
「じゃぁ、兄にしてほしいことがあったら教えてください。俺たちが、絶対言うこと聞かせますから」
すると、蓮が大河にそう提案したかと思えば、大河がその後、フルフルと震え出した。
「そ、そんな……神木くんにして欲しいこと……そんなの…ありすぎて、今すぐ、どれかなんて……決められ」
「待って、怖い。なんか、すっごく怖い!?」
何を想像しているのか?
今にも、とんでもない無理難題が飛び出しそうで、飛鳥は悲鳴をあげる。
「あのさ、お礼ってほら、食事奢るとかそんな感じの……」
「兄貴、往生際が悪いよ」
「そうだよ! ここはしっかり聞いてあげるべきだと思う!」
「お前ら、後で覚えてろよ」
「あ!」
すると、大河がポンと手を叩いた。
何を閃いたのか、大河は再び飛鳥を見つめると
「神木くん、俺のために、また女装してください!!」
「は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
こいつ、今なんていった?
「だから、女装してください! あの時一目惚れした時の感動を、また味わいたいというか……あ、別に女子高生じゃなくてもいいですよ! あの頃は、ただ可愛い~って感じでしたけど、今度は、数年たって、大人の色気を兼ね備えた女装姿を是非!!」
「…………」
その言葉に、飛鳥は絶句する。
ダメだ。
やっぱりコイツは、頭のネジ1本外れてる!
「あ、あのさ……あれは高校生だったから、似合ってただけで、あれから背も伸びたし、骨格だって男っぽくなったし、今の俺が女装なんてしてもキモいだけだよ」
「兄貴……」
すると、華と蓮が、飛鳥の両肩をポンと叩いた。だが、その顔は、女装を提案されるとは思っていなかったのだろう。今にも吹き出しそうなくらい、笑いを堪えていた。
「くっ……大丈夫だよ、兄貴なら、まだ……いけるって、多分」
「そうそう、いけるいける……きっと、みんな可愛いって言ってくれるよ」
「お前ら……っ」
とんでもない無理難題に、肩を震わせながら笑う双子を見て、飛鳥はなんとも言えない気持ちになったのだった。
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